SkipSkip Box

Personal Engagement (11)


こんばんは!
日曜日にはつぼみだった近所の桜が、今日は五分咲きでした。
うちの方では入学式までもちそうにありません…

寒かったり暑かったり、本当、体調には気をつけないとダメな季節ですね…。





キョーコは東京に戻ろうと辿り着いた名古屋駅で、携帯に届いていたメールに気がついた。

『研修お疲れ様。今日中に戻ってくるの?』

契約上の恋人からのメールだ。キョーコは深く考えずに返信を打った。

『お疲れ様です。反省会も終わって今名古屋駅に着きました。これから新幹線で帰ります』

送信して新幹線の発車時刻を調べている内に、もう次のメールが来る。

『東京駅着だよね?乗る列車が分かったら連絡して』

すでに18時を回ってはいたが、普段だったら蓮はまだ仕事中ではないだろうか。しかしなぜだかやたらと返信が早い。
キョーコは首をひねったが、教えない理由もない。乗る新幹線を決めると切符を買って、到着時刻をメールした。お弁当やお土産を買ってから新幹線に乗り込む。東京までは2時間もかからないが、キョーコは研修の疲れが出たのか座席に座ってウトウトとしていた。

あと15分ほどで到着、というタイミングでキョーコの携帯が震える。ふと目を覚ましたキョーコが画面を確認すると、そこにはまた1通のメールが。

『迎えに行くから中央改札に来て』

「え?」と思わず声に出してしまってキョーコは慌てて口を押さえる。

迎えに?東京駅まで?ななな、なんで???社長忙しいのにそんなことを!?

どうしよう、とアワアワしている内にキョーコの乗った車両は東京駅のホームへと滑り込んで行く。
逃げる訳にも行かずにキョーコは荷物を持つと、急いで指定された改札に向かった。そしてそこで…予告通り待ち構えている蓮を見つけた。蓮はスーツ姿のまま、改札の向こうで柱を背にして立っている。その姿は目立っていて、探さなくてもすぐに目に飛び込んできた。

キョーコは改札を抜けると慌てて蓮の方へ向かう。
「お、お疲れ様です!!あの、わざわざ来てくださったんですか?」
「お疲れ様。だいぶクタクタじゃない?」
言いながら蓮はキョーコが運んできた大きなカバンをするりとキョーコから奪い取り、キョーコの背に手を当てて促す。
「あ、ありがとうございます!いえ、だけど…社長もお疲れなのに…」
「俺は普通に会社にいただけだからキョーコほどじゃないよ」
さらりと言われたセリフに、キョーコは思わず蓮の顔をまじまじと見た。
「どうした?」
「いえ…」
「ああ、呼び方?だって付き合い始めてしばらく経っただろう?『最上さん』じゃ他人行儀だし…キョーコももう『社長』はやめてほしいなあ」
「え…」
「ちゃんと、名前で呼んで」
蓮は少し頭を下げてキョーコの耳のそばで囁くように言う。キョーコは自分の心臓がどきん、と鳴るのを聞いた。

「な、名前って…」
「うん、下の名前がいいと思う。呼び捨てでいいよ」
「で、出来る訳ありませんよそんなの!」
「試しに言ってみてごらん?」
「むむむ、無理ですぅ!……せ、せめて………れんさん、とか」
「うん、それでもだいぶ前進かな」
蓮はにっこりと笑った。
キョーコは自分の顔が熱くなるのを感じる。またもう、蓮の言いなりになるのは本意ではないのに。結局蓮の強引さには敵わないのだけど、今日はなんだかその威力が強力だ。このような強引さはあの最初の時以来だろうか。そこまで思って、ふとキョーコは契約を結ばされた時のことを思い出した。

もしかして、試されてる?

キョーコの事を恋人として扱って、うっかり蓮の事を好きになったりしたら、「だから困るって言っただろう」なんてため息をつかれたりするのだろうか。危ない危ない。自分は男性慣れしていない、という自覚がキョーコにはある。だから、先ほどのように耳元で囁かれたりすると…正直、ビックリすると同時にどぎまぎしてしまう。いや、このドキドキは、蓮の事が好きというより、慣れてないならではの反応だろう。きっとそうに違いない。キョーコは別の可能性も考えてみた。

それとも、からかわれてる?

蓮は契約をしてからというもの、キョーコの反応が楽しいらしく色々なちょっかいを出してきている。キョーコが交際に慣れてない事を知ってからは、「恋人なんだから」とかなんとか言って、いいように丸めこまれている気がする。蓮の部屋を訪れたのだって、同期の女の子たちは「え、もう部屋に行ったの?」て驚いていたではないか。

そうは、いかないんですからね!

キョーコは、どちらにしてもしっかり自分を持って蓮の強引さに対抗していかなくちゃ!と結論付けた。

とはいえ、さりげなく重い荷物を持ってくれて、停めてある車までエスコートして助手席のドアを開けてくれる、そんな洗練された振る舞いについ見とれてしまうのは、どうしようもない。なんだか経験値に差がありすぎて勝負になりそうもないのが悔しいが、なんとか逆襲の手立てはないものかと、キョーコはえらく曲がった方向へと思考を進めていた。



翌週の月曜日、蓮は社長室で資料に目を通していた。ここ数週間であちこち手を回して、社内の協力者の確保も進んできて、社内の情報がだいぶ集まってきている。そこへ、PCの画面に接続要求を知らせるウインドウがアラームとともに現れた。
蓮は画面上で相手を確認すると、すぐに接続ボタンを押し、ヘッドセットを引き出しから取り出す。画面に映った関西地区のエリアマネージャーは堅い表情で、挨拶もそこそこに用件を切り出した。


新開との短い会話を切り上げるとほぼ同時に、ノックの音が響き、社が入ってきた。こちらも新開と同様厳しい表情だ。
「蓮、引っぱられてる社員についてだけど、該当者のピックアップ終わったぞ」
「何人ですか」
「全部で12人。ただ、迷っている人間も多いみたいだ」
「ありがとうございます。こっちも仕掛けに引っ掛かりましたよ。つい先ほど新開さんから報告がありました」
「どうなった?」
「契約直前まで行っていた2つの物件、両方とも持って行かれたそうです」

「そうか…やれやれ、はっきりするのはいいけど…やっぱり離反者が出るって嫌なもんだな」
社がこぼした言葉に、蓮は肘をつき、両手を組んでしばらく考えていたが、やがて顔を上げた。
「まあ仕方ありません…そのために俺がこの立場に据えられたんでしょうから」
「そうなのかな…」
「とにかく、今はできることをやるしかないですね。該当者全員と直接話をしたいですが、明日中に全員との面談、できますか」
「営業担当者がいるから…今日中に押さえとかないとだめだな。なんとかする!」
社はすぐに社長室から出て行った。蓮は社が出て行った社長室のドアをじっとにらむ。

…気が重いのは確かだが…これ以上指をくわえて見ている訳にはいかないからな…

蓮が仕掛けた相手は副社長である渡辺だった。
前社長の田所の右腕として、"ひさや"の発展に寄与してきた人物であったが、なぜかここのところ会社の利益に反する動きを見せている。どんな思いを抱こうとも、会社から離れようとも勝手だが、中をひっかきまわされる訳にはいかない。
具体的な情報、証拠を得た以上、決着をつけなければいけないと、蓮は決意をしたのだった。


関連記事

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する