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Personal Engagement (9)


こんばんは!

今日はホワイトデーですね。
えーっと…まあ、子持ちに縁はないですねぇ…
若いころも………まあそんな話はやめておきましょうか。

昨日はラブコラボ研究所のお題短編をはさみましたが、今日は Private Engagement の続きと参りたいと思います。






毎週火曜日に行われている役員会議の終了後。
蓮は笑顔で参加していた役員と立ち話をしている。その姿を少し離れたところで見ながら、渡辺副社長はため息をついた。
「やれやれ。さすが血筋か、若いのになかなか切れると思ったけど…やっぱり若いと公私の区別がつかないのかね。ヒズリ会長も甘やかし過ぎではないか?」
「まあまあ、渡辺さん。敦賀君はよくやってくれてますよ」
苦笑しながら窘めたのは近衛専務だ。

「しかし社長が率先して社内の規律を乱してどうするんだね」
「うちは社内恋愛禁止してませんし、夫婦で勤めている人もいますよ。それに敦賀君は仕事上では彼女に関わってないようですし」
ふん、と渡辺は鼻を鳴らす。
「それでも社長の女だってだけで周りは萎縮するもんだ」
「それは…まあ全くないとは言いませんが……」
「どうせ社長の威光を利用するような女なんだろうが」
「そうですかね…」

近衛は先日行われたメニューの社内コンペで食材や調理法の説明をしてくれたキョーコのことを思い出していた。はきはきとしていたし、店舗で出すメニューに必要な要素などもよく勉強していたように思った。お辞儀も綺麗で、言葉遣いも正しく、好感の持てる女性だった。はっと目を引く美人ではないが、一緒にいて居心地のいい、そんな雰囲気を持っている、そんな気がした。

あの子はそんなふうには思えないし…敦賀君は女性の内面をちゃんと見る男なのかな?

「調子に乗って…若造に任せるのはだから嫌だったんだ」
2人の交際に必ずしも悪い印象を持っていない近衛とは違い、渡辺は蓮の後姿を睨みつけながらぶつぶつと呟いていたのだった。


役員会議から戻ってきた蓮の元へ社がやってきた。
会議中にあった電話や必要な連絡事項を伝える社に対し、蓮はいつも通り穏やかな表情を作って連絡を受けていたのだが、連絡が終わった後にぽつりと社が尋ねた。
「蓮…お前今日、なんかいつもと違わないか?」
「え…特に何もありませんが…そうですか?」
蓮は首をかしげて尋ね返す。
「うん…あ、いや、さっきまではそうでもなかったか…な?」
「どうおかしいですか?」
「うーーーーーーん…笑顔?」
「はい?」
社は目をつぶると眉間に人差し指を当てて考えた。

「あーーーーーー、なんていうか、あ、そうだ!笑顔が作り物っぽいぞ!」
「は……」
「いつも笑顔なのは変わらないんだけど、なんだ、いつもより、無駄に笑顔だ!」
「俺の笑顔は無駄ですか」
「そういう意味じゃない!そうじゃなくて、お前なんか隠してないか?」

蓮は両手を広げた。
「何を隠すって言うんですか?何もないですよ」
「あー…もしかして、さっきの役員会議か。渡辺副社長に何か言われたか?」
「名指しですか」
「だって、俺たまに嫌味言われるぞ。社長をちゃんと教育しろとか」
「ちゃんと教育してくださいね」
「お前!黙って言うこと聞くような奴じゃない癖に、よく言うよ!!」

うまく話をそらしながら、蓮は腹の中で渦巻く思いを認識していた。渡辺と近衛の会話は、しっかりと蓮の耳に届いていたのだ。『社長の威光を利用する女』という渡辺のセリフがよみがえる。

自分は何を言われようがどう思われようが構わない。
むしろわざとそう仕向けているのだから。
だけど、彼女のことを悪く言われるのは…正直、嬉しくは、ないな…

多少の雑音は予想していたはずだが、その矛先が自分ではなくキョーコに向くことに、蓮は自分で思っていた以上に敏感に反応していたのだった。

そして金曜日の夜。
蓮は自宅マンションに帰りついていた。玄関のドアを開けると室内は暗く、しんとしている。
ここ2週ほど、金曜日の夜はキョーコが夕食を作りに来てくれていたのだが、キョーコは今週から2週間の店舗実習に行っている。実際の店舗で他の店員と一緒に働き、店舗の実情を知るという研修で、キョーコは名古屋の店舗に行くことになったため、東京を離れているのだ。

明かりがついて誰かがいるだけで、部屋の雰囲気ってのは変わるもんなんだな…

蓮はぼんやりと考えながら着替えてリビングのソファに腰を下ろした。しかし、すぐに時間を持て余して立ち上がる。
キョーコがこの部屋で食事を作るようになってからというもの、蓮が早めにこの部屋に帰るときには必ずキョーコがいた。キョーコがいない日は、蓮はかなり遅くまで仕事をして帰って、何をする暇もなく眠りについていた。今週はキョーコがいないので蓮は連日仕事に精を出していて、この部屋で1人のまとまった時間を過ごすのはちょっと久しぶりだ。

蓮は少し考えて、氷とウイスキーとグラスを用意して飲み始めた。キョーコが来る日は車で送って行くためアルコールは飲まないので、のんびり飲むのも久しぶりだな、と思う。短期間に自分の生活リズムがかなり変わってしまっていることに気がついて、蓮は苦笑した。

ふと時計を見ると、午後11時半を回ったところだ。
蓮は携帯を手に取りしばらく手の平で遊ばせていたが、やがて発信履歴から1つの番号を選ぶと、通話ボタンを押した。


キョーコはその夜、実習先の店舗そばの飲み屋にいた。
その店舗は店長のみ社員で、あとの店員は全員バイトやパートだった。特に夜のクローズ時刻までシフトに入っているのは学生やフリーターがほとんどで、その若さと勢いで、キョーコを巻き込んで親睦会が開催されていたのだ。

軽く飲んでちょうど店を出たところでキョーコの携帯が震え始めた。
慌ててカバンから取り出し、ディスプレイを見て更に慌てて電話に出る。

「もしもし!」
『やあお疲れ様』
「お、お疲れ様です!」
『今は…外かな?』
「あ、はい!お店の方たちが親睦会を開いてくださって、今終わったところです」
『ああ、そうなんだ…大丈夫?これから帰るんだよね』
「はい!もう帰ります。部屋も近いので大丈夫ですよ」

「キョーコちゃん、何、彼氏と電話?」
「うっそー、キョーコちゃん彼氏持ちなの?俺何気にショック」
「でも敬語じゃね?」

キョーコの周りで酔っぱらって騒ぐバイト達の声は、当然ながら電話の向こうに聞こえていたようだ。

『…随分とにぎやかだね。男性ばっかりなの?』
「あ、いや、私とあと1人女の方がいて、あとは男性です」
『……十分に気をつけて帰るんだよ。下手に送ってもらうくらいだったらタクシー使うようにね』
蓮の声の調子は穏やかなままだったはずなのに、なぜだかキョーコは妙な威圧感を受話器から感じた。

「は、はい…大丈夫です、歩ける距離ですから」
『本当に、気をつけてね。心配だから、部屋に着いたら電話して。まだしばらくは起きてるから』
「は、はい!かしこまりました!!」
キョーコは思わず直立不動でしゃきっと返事をする。バイト達は不思議そうにキョーコを見ていた。


電話を切った蓮は、携帯をガラステーブルに放りだすと、グラスに残ったウイスキーをぐいっとあおった。
蓮は無性にイライラしているのがなぜなのか、自分で分からないまままた乱暴にボトルを傾けたのだった。


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コメントコメント


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自分の感情に

毎度の事ながら、感情に鈍感な蓮様。どのお話でもにぶチンなヘタ蓮様は可愛いですね。ヘタ蓮加減が皆さんの好意を引き寄せるんでしょうがね。

美音 | URL | 2013/03/15 (Fri) 09:25 [編集]


Re: 自分の感情に

> 美音様

いつもありがとうございます!

> 毎度の事ながら、感情に鈍感な蓮様。どのお話でもにぶチンなヘタ蓮様は可愛いですね。ヘタ蓮加減が皆さんの好意を引き寄せるんでしょうがね。

ほんと、うちの蓮さんは特に、常ににぶチンさんです。
やはりイケメンで中身も出来た奴だと、それくらいの欠点がないと…て思うとえらくにぶい人になっちゃいます。
おそらく原作の、自分の恋心に気がつくまでの鈍さがえらく印象に残ってるんでしょう…

ぞうはな | URL | 2013/03/15 (Fri) 23:17 [編集]