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Personal Engagement (7)


こんばんは!

暖かかった~~、というか、暑いくらいでした!!
いきなり20度越えはなんだか気持ち悪いです…

今テレビではWBCの台湾戦やってます。
あまり野球は分からないのですが、9回に同点に追いついて白熱していますねー。
ダンナも白熱しているようです…





新入社員全員と、ついで世話役の人事部の社員2人に目撃されていた衝撃シーンの話は、当然のごとくじわじわと社内に広まっていった。
最初は真偽を疑っていた社員も、目撃してしまえば疑う余地もない。蓮の攻撃は頻度こそ高くないものの神出鬼没で、『社長が新入社員の女子を追いかけまわしているらしい』という話は、GWがあける頃には『どうやら女子社員が陥落して、2人は付き合い始めたらしい』という、蓮の思惑通りの話に落ち着いた。

蓮は通常はごく真面目に社長としての業務に当たっているのだが、あちこちからの苦言を受けた社が社長室で渋い顔をする事態になっていた。
「蓮……お前の奇行のせいで社長としての適性が疑われてるぞ」
「奇行とはすごい言われようですね。業務はしっかりこなしているつもりですが?」
それは分かってる、と相変わらず社の顔は苦々しげだ。
「社長としてのイメージってもんがあるだろう。ただでさえいきなり首がすげ替えられて、それが20代の若造ってんだから…」
言いかけて、社の顔は何かに気がついた表情になった。
「そうだよな…クオンにそんな事が分からないはずないよな……その上でって事は、まさか何かたくらんでるのか?」
独り言が途中から問いかけに変わる。蓮はにこやかに答えた。
「クオンじゃなくて蓮ですよ」
「やっぱりそうか!ああもう、なんかやる時はちょっとくらい相談してくれよ!」
「何もしてませんよ」
「…その言い方だと動くのはこれからってところか?いたいけな新入社員を巻き込むなよ…」
社はぐしゃぐしゃと頭をかき回す。どうフォローしたものかと考えあぐねているらしい。
「巻き込むだなんて…俺が最上さんのこと好きになるの、そんなにおかしいですか?」
「だってなんで、よりにもよって最上さんなんだ?俺ちゃんと話した事はないけど、新人の6人の女性の中で一番地味で純真そうだったぞ。お前が昔連れてた彼女はもっと違うタイプだった!」
「昔は昔ですよ」
蓮の微笑みは崩れない。

確かに蓮とキョーコは契約上の関係だ。だが、向こうもそれを承諾しているし、騙している事にはならないだろう。
実は、キョーコと関わりが思いのほか面白い事に蓮は気がついていた。
奢ったり何かしてあげると、それがささやかな事でもこちらが驚くほど恐縮し、素直な感謝の意が返ってくる。表情は目まぐるしく変わって、笑顔を見るとなんだかこちらも嬉しくなる。ホワンとしていると思いきや、案外視点は鋭く気も強く、言い負かされずに反論してくる。これまで付き合ってきた何人もの女性と比べてみても、キョーコは特別に異質な気がする。
蓮の予想以上にキョーコが男女関係に疎く、"フリ"だけでは周りに突っ込んだ質問をされた時などにぼろが出ると思い、接触の機会を増やしてきたのだが、いつの間にか蓮自身、キョーコと会ったり話したりするのを楽しむようになっていた。

だから、恋愛感情がお互いにないってこと以外は、付き合ってるって事にそれほど間違いはないんだよな…

まだぶちぶちと続いている社のお小言を完全にスルーしながら、今の関係だと付き合いが続くほどに恋人と言うより親友に近くなるのかな、それはそれで面白そうだと蓮は感じていた。

とりあえず全ての苦言をぶちまけて、「少しは自重しろよ、いいな!」と、自分でも効果がないと分かっている確認をして社は出て行った。やれやれ、と落ち着く間もなく入れ替わりに飯塚が入ってくる。
飯塚は社長決裁が必要な書類を持って来たのだが、社と同じく苦い顔をしていた。飯塚はもともときびきびとして表情もにこやかな方ではないのだが、今日は眉間の皺がいつもより深く見える。蓮は書類を受け取りながら自分から話題を振った。
「俺は女性の敵ですか」
飯塚は少し躊躇ってから言葉を返す。
「そうは思いませんが…少し最上さんの立場も考えていただければと」
「そうですね…あれこれ詮索されていますか」
「直接見た訳ではありませんが、そうでしょうね。妬まれもするかと。もう少しコソコソされてはいかがですか?」
"コソコソ"という言葉の響きに蓮は少し笑ったが、少し困ったような顔になる。
「すみませんね…俺、独占欲が強いもので」
飯塚は少し驚いたように目を見開いたが、ふう、と黙ってため息をついた。

「その件についてはちゃんと対処します。ところで飯塚さん、エリアマネージャーたちと直接話すことはできますか?電話会議でも構わないんですけど」
「地域統括本部の管理職と、ではなくてですか?」
「ええ。組織図で見ると…エリアマネージャーまではちょっと遠いんですけど、頭越しで直接把握したいですね」
飯塚はしばらく蓮の顔を見つめると、「お待ちください」と言って社長室を出て行った。ほどなく戻ってきた飯塚の両手には、小さい筒のような機械やそれにつながるケーブルやらが乗っている。

「これをパソコンにつないでお使いください。必要なソフトは全部入っています」
「webカメラとインカム…田所さんはテレビ会議をやってたんですか?」
「お聞きになっていませんか?」
「田所さんへの面会は、なぜだか拒否されてるんです」
蓮は素直に白状して肩をすくめる。前社長が入院している病院を何回訪ねても、蓮が病室に入れてもらえないのは事実だった。「先入観なく当たってほしい」とは伝言で言われるものの、せめて挨拶くらい、と思うのだが、結局は社が代理としてお見舞いに行っている。
父親であるクー・ヒズリも何だかんだと話をそらすので、結局蓮は"ひさや"についての情報を2人からは何一つ仕入れられていなかった。
「あら…そうですか、失礼いたしました。田所さんは数ヶ月前から毎週短時間の定期ミーティングをしてました。ちょうど明後日がそのタイミングなので、エリアマネージャーにも連絡しておきます」
そう言うと飯塚は部屋を後にした。
やはり前社長も色々やってたのか、と蓮はカメラを眺めながら思う。蓮が捕まえようとしている事態に、少しずつ近付けているだろうか。焦りは禁物だが、のんびりもしていられない。そろそろ本格的に動き出すタイミングか、と蓮は今後に向けての計画を練っていった。


その夜、蓮は割と早い時間に自宅へと戻ってきていた。蓮の自宅は都内高級マンションの最上階。ワンフロアを1部屋で占めるという贅沢な造りだ。エレベーターを降り、玄関の鍵を開けると室内は明るくいい匂いが漂ってくる。
「ただいま」
靴を脱ぎながら蓮は中に向かって声をかけた。途端にキッチンからパタパタと足音が聞こえ、姿を現したのは、契約上の恋人であるキョーコだった。
「おかえりなさいませ」
キョーコは丁寧に挨拶をすると、すぐ食べられますよ、と言って再びキッチンに戻って行く。蓮はジャケットを脱ぎながら寝室に向かい、(なんだか不思議な事になってきたな)と苦笑混じりに思う。

キョーコが蓮の部屋を初めて訪れたのはGW中だった。
最初は蓮の招待に躊躇していたキョーコだったが、蓮に「誰かに聞かれた時ちゃんと答えられたら疑われないでしょ」と言いくるめられたのだ。蓮は(付き合って1ヶ月もしないうちに家に入れるのもさほど普通じゃないし、俺はもともと恋人であっても家に招いたりしないけど)と思ったのだが、部屋に入ったときのキョーコのリアクションを見たくて、そんなことは内緒にしていた。
部屋に足を踏み入れたキョーコの驚き具合は十分に蓮を満足させたのだが、キョーコはキッチンについては驚いた後に目を輝かせた。
「いいですねーー。3口コンロにオーブンまである!広いですね!!」
「調理器具も大体のものは揃ってるよ。って、俺のじゃないけど」
「え、どなたのですか?」
「父の。俺の父も食べ物に関わる仕事をしててね。押し付けられた」
「じゃあ、社長もお料理されるんですか?」
「うーーん…教えられてて、全くできないわけではないんだけど……」
その言葉を聞いてキョーコは冷蔵庫に歩み寄るとそのドアをがばっと開けた。大型の冷蔵庫はすかすかで、中にはビールの缶やチーズなどほんの少しの食料と飲料がちんまりと入っているだけだ。
「やらないんですね、料理…」
「まあね…」
じっとりと見られて、蓮は少々ばつの悪い笑顔を見せる。
「もったいないですよ、こんな立派なキッチンがあるのに。…羨ましいなぁ」
ため息とともにぽつりと吐き出された台詞に、蓮はキョーコから聞き出したことを思い出した。
キョーコは料理が趣味だと言っていた。高校までは旅館の広い厨房を見て育ち、大学では居酒屋に下宿していたというので、広い台所が当たり前の環境だったのだろう。対して、今住んでいるのは1Kのアパートで、キッチンのスペースはほんのわずかだ。

「じゃあ、このキッチン、最上さんが好きなときに好きなように使っていいよ。合鍵渡しておくから」
「ええっ?そんな、よそ様のお宅でそんな図々しい事!!」
「なんで?俺は全然使わないんだし、放っておく方がもったいないだろう?」
「だって、勝手にお邪魔するわけには…」
「恋人としての君の希望をかなえる、ちゃんと契約の項目に入ってるよ」
「いや別に希望って訳じゃあ!」
「料理、したいんでしょ?」
う、と詰まった時点でキョーコの負けだったが、蓮からスペアキーを受け取ったキョーコは蓮の予想しなかった反撃に出た。

「じゃあ、私がここでキッチンを使わせていただく代わりに、社長のお食事を作らせてください!」
「え?」
「このキッチンを使われてないって事は、ほぼ外食って事ですよね」
食べるときは外食がほとんどなのは確かだが、面倒で食べない事も多いとは、とても言えない。蓮は押し黙った。
「外食ばかりじゃさすがに体に良くないですから、社長が家でお食事ができる時は私がご用意させていただきます!」
そこから更に2人の交渉が続き、結局ほぼキョーコの案が採用される事となった。ただし、作ったらお暇しますから、というキョーコの案は却下され、どんな成り行きなのか、蓮が早く帰宅するときにはキョーコが先にこの部屋で夕飯を作って待つようになっていた。

蓮は部屋着に着替えてリビングに座り込むと「いただきます」と箸を取った。横ではキョーコがにこにこと今日の料理の説明をしてくれる。キョーコの作る料理は、料理が趣味と言うだけあってバリエーションに富み、蓮の健康を考えてバランスの取れた献立となっている。

そして、味も俺好みなんだよな…

キョーコの作る料理はどれも美味しいと思えるのだが、食事中にさり気なく蓮の好みをリサーチして、微妙に味付けやメニューを修正してくれているようだ。自分が作りたいものを作ればいいのに、と蓮は思うしキョーコにも言ったのだが、「食べてくれる人に喜んでもらえるのが一番嬉しいんですからいいんです。喜んでもらえるものが作りたいものです!」と言われてしまった。
確かに蓮が食べているのを見ているキョーコは嬉しそうだ。

今まで付き合ってきた彼女には、こういう女性はいなかったなあ、と蓮は思いながら食事を進める。
今過ごしているこの時間は、不思議なくらい落ち着けて心地よい。会社にいる間は考えることも多く、立ち振る舞い方も全て計算して過ごしている分、リラックスできる環境はすごく貴重だ。キョーコがもたらせてくれたこの時間に感謝しながら、少しの間、この契約が続いている間だけでも楽しんでみようと、蓮はそんな気分になっていた。

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| | 2017/08/04 (Fri) 23:52 [編集]