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気をつけなさい純真さん


べたなネタでかつ思い付きですが。
書いたので載せちゃいます。

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「…いっ…いた…いっ!!」
頭が振られ、白いシーツに栗色の髪がぱさっとぶつかる。
のけぞる白い喉は震えて、ぎゅっとつぶられた目は力が入っている。
頬はうっすらと紅潮して、開かれた唇からは悲鳴に近い声が紡がれる。
「ぅうっ。……ああっ!」
弾かれたように背中がそり、体がはねた。



京子の表情を見つめていたスタジオ中の男性陣は無意識にごくり、とつばを飲み込んだ。明らかに赤面してしまっている者まで出る始末。
シチュエーション的には全く色艶のあるものではなかったはずだった。
4時間にわたる生放送の特番バラエティ。様々な番組の出演者たちが勢ぞろいする、お祭り騒ぎの番組でのいちコーナーで、番組対抗ゲームで負けた人が、罰ゲームとして受けた足裏マッサージ。
痛さに対するリアクションをオーバーにして笑いを誘うのも技術、と言わんばかりに大げさに痛がって見せる芸人に、番組のアシスタントを務めていた京子こと最上キョーコが「本当にそんなに痛いんですか~?」と素直に疑問を呈したのがきっかけだった。
「そういうなら是非、京子ちゃんが受けてみてよ!!」と切り返す芸人に周りも盛り上がり、番組進行がスムーズだったこともあって急きょ京子も足裏マッサージを受けることになってしまったのだった。

キョーコ自身、本当に疑問だったこともあり、恐る恐るだったが興味津々で示された簡易ベッドへと横になった。
(体の悪いところのツボを押されるとかなり痛い、と聞いたことはあるけど…悪いところなんてなかったはずだし!)
健康、体力ともに多少なりとも自信があったキョーコは、さほど痛くはないだろう、と考えていたのだった。

さっそく始まるマッサージ。初老のマッサージ師はキョーコに対して施術を開始した。
最初は余裕の表情を浮かべていたキョーコだったが、さすがプロは痛いポイントを探すことに長けているらしい。徐々にキョーコの顔が痛みで歪み始めた。そして、冒頭の状況となったのであった。

悲鳴を上げてすぐさまギブアップするのを予想していたディレクターも、盛り上がる方向が予想外へと転んだことににんまりとして、続行を指示した。視聴者サービス、なんて思ってみたりもして。

次クールのドラマの番宣のため、番組に参加していた蓮は、左腕をつかんだ右手にぎりぎりと力を込めた。
(あの子は…本当にっ…!!!!)
自覚がないのが一番悪質なんだ!と叫びたい気持ちを必死にこらえつつ、飛び出したい足を意志の力で抑えつける。
傍から見れば、真顔で平然と成行きを見守っているようにしか見えないのだが、さすがにマネージャーである社は蓮の左腕に食い込む右手の指が震えているのを目にして、後のことを考えながら痛む頭を抱えていた。

「…あ、あのっ!」
痛みに耐えていたキョーコが、少し頭を持ち上げてマッサージ師に声をかける。
「どうしました?痛いですか?」
「は、はい…あの……」
伏し目がちにしていた目を真っ直ぐに向ける。
「もう少し、や、やさしくしてもらえませんか?」
頬を染め、涙目で恥ずかしそうにお願いするキョーコ。息をつめて痛みを堪えていたため、息も少しはずんでいるようだ。
キョーコの表情をアップでとらえるカメラを操作していたスタッフが、思わず息をのむ。その表情を直接、あるいはモニター越しに見てしまったスタジオ内の芸能人、スタッフも赤面してしまうキョーコの表情が生放送で全国に届けられた。

蓮の周りでも、こっそりと
「やべえ、京子ちゃんって可愛い系だと思ってたけど色っぽ過ぎる」
「純真な感じが逆にそそるよな」
などとこそこそと語り合う若手男性タレントや俳優が出る始末。

ああ、今すぐこいつらの頭を金づちでかち割って回りたい!
今見たものを記憶から消去したい!!
腕をぎりぎりとつかんだまま流れ出る蓮の黒いオーラに気がつく者は(社以外)いなかった。


どうにかこうにかコーナーを終え、その後の進行は予定通り進んだ。
長時間にわたる生放送を終え、ぐったりと楽屋に戻ろうとするキョーコ。それでも律儀に出演者たちに挨拶をしていく。
なんだか今日はやけにたくさんの人に声をかけられるわ、と思いつつもキョーコはようやくスタジオを出た。そして、出たところで「お疲れ様、京子さん」と声をかけてきたのは、番組に出演していた、ラブミー部三号である天宮千織だった。
「ちょっと、いいかしら?」
千織はキョーコを廊下の隅の方へ連れていく。
「なんでしょう?」
キョーコは不思議に思いながらも千織に促されるままついていったのだった。

…そして5分後、解放されたキョーコは首をかしげながら楽屋の前にたどりついた。
「うーーん、天宮さんが注意してくれたことは分かるんだけど…肝心のところが分からなかったな」
ドアを開けながらつぶやくと、その手首をがっしりとつかまれ、そのまま楽屋に連れ込まれる。なに?と思う間もなく、気がつけば楽屋の中だった。
慌てて振り返ると、そこにはキラキラとした笑顔をまとった先輩俳優…と、その後ろですごく困った顔をした敏腕マネージャー。

「お、お疲れ様です、敦賀さん。ど、どうなさったんですか、こんなところまで」
「お疲れ様、最上さん。長丁場の生放送お疲れ様。進行スムーズだったよ、よく頑張ったね」
「はぁ…」
そんなこと、わざわざ言いに来たのかしら?と思うキョーコの顔には大きくはてなマークが描かれている。それを見た蓮は、大きく一つため息をつくと、話を続けた。
「…ちょっと、最上さんに注意しておいた方がいいと思ってね」
「注意ですか?あ、何か進行に問題がありましたでしょうか!」
「いや、そっちじゃなくてね…」
やっぱり気がついてはいないよな、と蓮は再びため息をつく。
後ろの社はびくびくとして、落ち着かない様子だ。

(な、なにかまずいことしちゃったかしら。あ、もしかして…)
キョーコは蓮の顔色を伺っていたが、先ほどの千織の忠告を思い出して口を開いた。
「あの、今こっちに来る前に天宮さんにも言われたことがあるんですけど、もしかしてそれに関係があるのでしょうか?」
「その、天宮さんには何を言われたの?」
「…えぇっと…番組中の足つぼマッサージの時のことで…」
「うん、それで?」
蓮は笑顔を崩さず先を促す。キョーコは笑顔の奥のピリピリ感を強く感じつつ、話を続けた。
「あの、マッサージされている時の言動を、やめた方がいいと…」
「ああ、天宮さんもそれを気にしたんだね」
て事は…恐る恐る蓮の顔を見るキョーコ。正解だったらしいが、蓮から感じるピリピリ感はキョーコの全身の毛を逆立てていて、今すぐに逃げ出したい気分だ。
「ただその、誤解を招くから、と言われたのですが、その誤解っていうのがどういう誤解なのかが分からなくて…」

「分から…ないの?」
「ひぃぃぃぃぃっ」
蓮から放たれる黒いオーラが極大を迎え、キョーコは縮みあがって悲鳴を上げた。
蓮は笑顔を崩さない。更にキラキラと光り輝く笑みをたたえ、一気に言い放った。
「分からないなら、純情さんの最上さんにもわかるようにはっきりと説明してあげようか。さっきの最上さんの表情や言動は、言ってしまえば初めての情事を体験する女性の行動を思い起こさせるものだったんだよ」

ジョウジ…じょうじ?常時…譲二… 情事???

どっかんとキョーコは赤くなり、そしてまもなく青くなった。
「いや、えーと!ま、まったくそんな意識はなくて…」
冷や汗をダラダラとかきながら、自分の言動を思い起こそうとするがパニックでうまくいかない。
「まあ、それはそうだろうね…たぶん体験はしたことはないと思うし…」
「も、もちろんです!!!ま、ま、まったく予想もつきません!!」
もう、先輩俳優のセクハラ発言をとがめる余裕もなく。うっかり変なカミングアウト(といっても大方の予想通りだが)をしてしまったことに気づくはずもなく。キョーコは恥ずかしさで頭がいっぱいになってしまった。

「そう…じゃあ…」
蓮の雰囲気がすぅっと変わる。蓮の右手はキョーコの顎をとらえていた。
「その体験、してみる?…そしたらきっと分かるよ…」
夜の帝王の発動は、すでに許容量一杯のキョーコにとどめを刺すには十分すぎた。
「つっ!!!つつしんで、ごえんりょもうしあげますぅ~~~!!」
そのまま、キョーコはカバンをひっつかむと一気に駆けだした。
「つるがさんのはれんちいぃぃぃぃぃぃ」
廊下に叫び声がこだまする。


しばしの沈黙の後、突っ立って廊下を見ていた社が口を開いた。
「蓮、お前……」
「俺、破廉恥でした?」
「ああ、十分すぎるほどな。分かってる癖に、キョーコちゃんをそっち方面で追い詰めるなよ」
「…すいません。ちょっとやりすぎました」
「フォローしとけよ、あと変な噂が広まらないよう言動に気をつけろよ」
「…はい」
「しかしこれで仕事の幅が広がったりしてな、キョーコちゃん」
「……」
「お前、そこは先輩として喜ぶところだろう!」

それからしばらくの間、蓮はキョーコに避けられ、逃げられ、怯えられ、フォローに多大な時間と手間がかかったのだが。
「自業自得だ」と社は冷たい目で見守るばかりだった。

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