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Personal Engagement (5)


こんばんは~~!
お越しいただきありがとうございます!

さて、試練の季節(?)、花ゆめ発売日がやってきますよー。
でも今月はコミックスが控えているので、頑張って待ちますー。

ということで、本日も続きでーす。





「ええと…」
なんと言っていいか分からず困ったままのキョーコを見て、蓮はとりあえず話を進めることにした。
「別に本当に付き合おうと言っている訳ではないんだ。まあもちろん、実際に一緒にいる時間を作らないとリアリティは出ないと思うけど」
「はあ…」
「たまに一緒に食事をしたり、出かけたりはしてほしいかな。負担にならない範囲で」
「あ、あの」
「だけどあくまで契約だからね。肉体的な接触はもちろん強要しない。君が望むならしてもいいけど」
「そ!!そんなこと望みません!」
「だよね。ならそれは無しで。俺は、君がこの契約を受けてくれるだけでいいんだけど、そうすると君のメリットが必要だな」
「メリット…?」
「一方的な契約じゃ、さすがにね。好きでもない男と"フリ"だけでも付き合うんだ、君にも首を縦に振る理由が欲しいだろう」
「あの私まだ…」
「そうだな…」
蓮はちらりと京都での事を思い出した。キョーコは平日必ずと言っていいほどあの店でバイトをしていた。訪れて、いなかった日がないくらいだ。大学生なのに毎朝欠かさずバイトをしていたことを考えると、やはり経済的な支援が一番効くのではないか。

「俺と会っている時の費用はもちろんすべて俺持ち。君さえよければ俺の家に一緒に住んでもいいけど。家賃が浮くよ?」
いやそれはちょっと!と焦るキョーコの言葉を無視して、蓮は続けた。
「現金を渡したり部屋を用意してあげたりするのは、それでも構わないんだけどちょっと愛人みたいだからね…。その代わり、恋人らしいプレゼントだったら希望の物をいくらでも喜んで」

キョーコは蓮の予想以上の強引さに口が開いたままになっていた。そして頭のどこかでちらりと、経済的にサポートしてもらえるなら大学の学費のために借りている奨学金を返すのが楽になるかも、と、本当にちらりと思ってしまった事を慌てて否定する。

おかしな契約で得たお金でどうこうとか、考えちゃだめよ!地道に働いて地道に稼いで返すのが一番なんだから!

「それとも…不安?」
「え?」
いきなり蓮の口調が変わって、キョーコは思わず蓮の顔を見た。その顔には少し意地悪な笑みが浮かんでいる。
「"フリ"だけでも付き合ったら、俺の事好きになってしまったりする?それは俺も困るんだ、あとあと面倒だから」

な、なんてことを…!

瞬時にキョーコの闘争心に火がついた。相手が社長だということも構わず本気で言い返す。
「そんなこと、あり得ないって先ほど申し上げました!」
「そうなの?嫌がるってことはそういう心配してるのかと思ったけど」
「随分と自信がおありですね!大丈夫です、私は見た目だけで人を好きになるほど軽くはないですから」

蓮は輝くような満面の笑みをその顔面に乗せてキョーコを見た。
「その言葉、誓えるかな?見てみたいんだけど、本当かどうか」
「望むところです!絶対認めさせてみせますよ!!」
キョーコが言い切ると、蓮は即座に反応した。
「じゃあ、交渉成立。…で、いいよね?最上さん」

しまった!

キョーコは慌てて口を押さえたが遅かった。すっかり蓮の口車に乗せられてしまったことに気がついたが、伺い見た蓮の顔は「今さらやっぱり撤回しますとは言わないよね?」と言っている、…気がする。
「何も深く考えることはないよ。無理をすることもない。俺が一方的に最上さんを追いかけてる、て画で十分なんだ」
「え?」
「愚かな社長が暴走してるって様が見せたいからね。君はつれないくらいでちょうどいい」
「え…」
「まあその内今度はバカップルぶりを見せつけた方がよくなるかもしれないけど、それは追々考えるよ」

バカップル…具体的に想像しそうになり、頭が拒否して体がブルリと震えた。ちらりと蓮を伺うと、ん?と少し首をかしげて真っ直ぐな眼差しを返される。

いやいや…こんな地位も名誉もルックスも完璧な男性と付き合うだなんて、全く想像しようにも限界を超えすぎて無理だわ……大体そんな事になったら、絶対釣り合わなくておかしいって周りの人も思うじゃないのよね…

「あの…」
考えた事が急に気になってしまい、キョーコはおずおずと切り出した。蓮は機嫌よく返事を返す。
「なに?」
「えと…その…敦賀社長が私を追いかけるって、すごく無理がありませんか?」
「どうして?」
蓮は何が無理なのか分からず素直に聞き返した。

「だって…社長はそんな完璧な方なのに…普通だったら私みたいな女、絶対相手にしませんよね?」
「なぜ?そんな事ないよ。大体、そう思ってたらこんな契約もちかける事すらしないよ?」
「そうですか…?」
なるほど、と蓮は不安げなキョーコの顔を改めて見つめた。
「君の恋愛拒否は、そうか、君の自信のなさの表れか」
キョーコはずばりと核心を突かれて思わず目線をそらす。そう、確かに自分が恋愛を否定するのは、自分が人に愛されるに値しない人間だと思っているからだった。そして、そんな自分が人に愛を捧げても裏切られるだけだと。
そう思ってしまうだけの経験がキョーコにはあったのだが、口には出さずにぐっと黙り込む。

一方の蓮はバイト中や懇親会でのキョーコを思い出した。あの時のキョーコはそれほど自信がないようには見えなかった。なるほど、恋愛に関してのみか、と蓮は合点する。
「分かった。この契約の君のメリットに、君が自信を取り戻すってことも入れられるな」
「そんなこと…」
「できると思うよ。嘘だと思ったら試してみたらいい」


自信満々に言い切られたキョーコが半ば呆気に取られている間に、蓮は手際よく契約内容を決めていく。文書に残すと誰かに見られたときにまずいから、と音声として残す事にしたりと、何から何まで周到だ。もう既に拒否する事もできず、まな板の上の鯉とはこういうことか、とキョーコはやや現実逃避気味に思う。

蓮から提示された契約内容はかなりシンプルなものだった。
キョーコが守るべき事は「人前では恋人らしく振舞う」「蓮との交際を否定しない事」のみ。蓮の方には「恋人としてキョーコの要求に可能な限り応えること」、そして、発生する費用の負担が課せられることになった。

「ああそうだ、一つこれだけはできないって事があるのを先に言っておくよ」
「なんでしょう?」
「"社長"の立場で君を特別扱いする事」
「仕事の上でってことですか?」
「そう。配属先を操作したり評価を上げたり…」
蓮が最後まで言い切る前にキョーコは怒ったように遮った。
「当たり前じゃないですか!そんなことされたって嬉しくもないです!仕事は自分の力でやってこそです!!」
「…そうか……うん、やっぱり最上さんに声をかけてよかったよ」
優しい笑顔で言われて問い返せないまま、キョーコは再び黙り込んだ。この人の思考回路や価値基準はどうなってるんだろう?キョーコには全く理解ができない。当たり前だと思うことで笑顔を見せられたり、その反対だったり。

こんなんで、"フリ"だけでも違和感なくいられるのか、不安だわ…

でもダメだったらその時点で契約解除をしてもらえばいいか、と思ったところで蓮がその点に言及した。
「契約期間は無期。俺が目的を達成したら契約は終了。だけどごめん、目的が何かは今は明かせない。その時が来たらちゃんと説明する」
キョーコは黙って頷く。ここで聞いても無駄だろうと、この短時間ですっかり学習した。
「契約解除の例外は、最上さんに本当に好きな人ができた時。もちろん、自己申告でね」
キョーコは途端に眉間に皺を寄せた。
「だから、そんな人できませんって」
「それは分からないだろう。それに、本当にできないなら例外が適用されないだけだ、問題ないよ」
「例外として入っているだけで、できない訳ないって言われている気がするんですけど」
「契約条項には全ての可能性を盛り込んでおく事が必要なんだ、気にしなくていいよ」
「じゃあ…」
キョーコは眉間に皺を刻み込んだままじろりと蓮を見る。
「例外のもう一つに、社長に好きな人が出来た時っていうのも入れてください。もちろん、自己申告です!」
「あのね最上さん…」
蓮は呆れたようにため息をついたが、キョーコは引かなかった。
「まさかできる訳ないとか、そんなこと言わないでしょうね」
「いや…生涯恋愛と無縁でいるとか、そんな事は思ってないけど、この契約の目的が達せられるまでそんな余裕はないよ」
「人を好きになるのに余裕のあるなしなんて関係あるんですか」
「……いやでもね」
「私だって、他に好きな人がいる男性の恋人役なんてやるの、嫌ですから。万に一つの可能性だって、盛り込んでおくんですよね?契約解除の条件に入れてください!」
「分かったよ…」
こうして交渉を重ねて、なんとか2人の契約内容が出来上がったのだった。


2人はお互いの連絡先を携帯の赤外線通信で送信し合った。送られてきた情報をアドレス帳に登録しながら、キョーコは途方に暮れていた。

明日から…何がどうなるのかしら?
普通に社会人として頑張ろうと思ってたのに…よく分からない不安要素が出来ちゃったなぁ…

そして、同じように携帯を操作している蓮の横顔をちらりと見上げる。

"この"社長だってのが、一番の問題よね…本当にあり得ないわ…
一体なんで…

そこまで考えて、ふと思考が現実に戻る。

こんな訳が分からないことをして、社長としての評判を落としてまで達成したい目的って…一体何?


自分が入社した会社に何かがあるのだろう、それは確かだ。大事にならなければいいけど、とキョーコは不安を感じていた。


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