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Personal Engagement (2)


こんばんは!

なんとか本日も更新にこぎつけました。
今回、お話の中に出てくる登場人物のイメージに合う人が原作に見当たらなくて…
すみません、ぽろぽろとオリキャラが出ることになります。

クレパラならおっさんだらけなのに、と思ってみたり。

では2話目です。まだ前振り段階です。






翌日の夜、予告通りに1人の男がクオンの元へとやってきた。男は社と言い、若いがクー・ヒズリの元で働く有能な秘書だ。クオンも学生時代からクーのそばにいる社とは親しくしている。2人は手ごろな居酒屋へと入った。

「クオン、済まないね」
「いや…慣れてるからいいんですよ。社さんこそわざわざ京都まですみません」
「俺も慣れてるからね」
社は眼鏡の奥で目を細めて屈託無く笑った。社はそのシャープな印象どおり仕事はてきぱきと進め、必要があれば強気にも出られる人間であるが、普段は温厚で人懐っこい。

「何も事情を聞かされていないんですが、情報をいただけますか?」
クオンはビールジョッキを傾けながら聞いた。社は一つ頷くと、しかし微妙な顔になる。社は『ヒズリ・フーズ』グループの統括本社にずっと在籍しているため、子会社一つずつの事情にそれほど詳しい訳ではない。4月からクオンが社長に指名された子会社、"ひさや"についても細かいことはまだ調べきれていなかった。

「俺も…実はさほど聞いてはいないんだよ。"ひさや"の田所社長が先週末に脳梗塞で倒れて、幸い大事には至らなかったけど今も入院中。意識はあるんだけど体がまだ動かしづらいらしいんだ。今は副社長が代理でやってるけど…田所さんはそのまま引退するつもりらしい」
「そのまま副社長が社長就任にならないんですか?今の副社長は…渡辺さんでしたっけ?」
「うん、どうも田所社長の意識が回復した後にヒズリ会長と2人で密談があったみたいでね、その案は結局出なかった」

クオンが眉間に皺を寄せる。
「何か問題があるってことですか」
「その辺はなんとも…ただ、業績としては決して悪い状態じゃないよ。新年度は新入社員も15人ほど採るって話だし」
「俺もそこにカウントしてください」
「やだよそんなでかい新人!」
「大きさの問題ですか、俺数年前から変わってませんけど」

くだらないやり取りをはさみながら、2人は4月までの予定について話し合った。
決まっているのは4月1日付のクオンの"ひさや"社長就任、社の"ひさや"出向くらいなため、当面必要なのは今在籍している会社からの退職準備だ。もっとも現在クオンがいる会社の社長はヒズリの友人のため、そう問題になることもなさそうだった。

鬼が出るか蛇が出るか…やれやれ、歓迎されない事は間違いないだろうな…

ふと思いついてクオンは聞いてみた。
「俺の素性はもう明かされてるんですか?」
「ああ、役員には当然。それ以外の社員には、まだ社長交代については明かしていないよ」
「…そうですか。それならひとつ、訳が分からないまま引き受ける代わりに条件をつけたいんですけど」
「なんだ?条件って」
「たいした事はないですよ」
そしてクオンからなされた提案に、社は少し驚きつつもヒズリに飲ませる事を了承したのだった。


社はしばらく京都と東京を行ったり来たりしながらクオンのサポートをする事となった。かゆいところに手が届く社の配慮に感謝しつつ、クオンは現在の仕事をまとめて後任に引き継ぐ事に全力を注ぐ。同時に社にあれこれと頼み、4月からの環境についてもできる限りの事前調査を行った。

そして3月下旬。
その夜、クオンの姿は京都駅に近い高級ホテルの最上階にあった。夜景の綺麗に見えるレストランは一面全てがガラス張りになっている。夜景を背にして座るクオンの向かいには、1人の女性がいる。女性はドレスアップしていて、2人はディナーを終えてコーヒーを楽しんでいるところだった。

「東京?4月から?なんでそんな話、もっと早くしてくれなかったの?」
女性は少し声を張り上げてクオンを非難した。
「ごめん、決まったのがつい最近で、準備に忙殺されていてね」
クオンは特に悪びれた様子もなく答える。
「だって、そんな…」
女性は少し悲しげな顔で言葉を失ってしまった。しばらく黙ってコーヒーカップを見つめていたが、やがてやや上目遣いにクオンを見た。
「私は…東京には行かれないわよ」
クオンはコーヒーを一口飲むとカップを静かに置く。
「うん…分かっている。君には君の生活がある。…俺が急にここを離れなくちゃいけないようにね」
「あなたはそれでいいの?」
クオンは真っ直ぐに女性の顔を見た。
「…いいか悪いかというより、仕方ないと思っているよ」

女性の表情は怒りと悲しみが混ざったようになった。
「そうやって…終わらせようと思ってる?」
「なぜ?距離が離れたって、終わらせる事はないだろう」
肘をつき、両手の指を組んで表情を変えずに即答したクオンに、女性の顔が歪む。
「…そうよね。あなたはそうかもしれないけど…私は嫌だわ」
「嫌?」
「会えないでいる間に、近くに好きな人、出来ちゃうかもしれない」
クオンはひとつため息をついた。
「離れなくちゃいけないのは申し訳ないと思うよ…待っててくれとは、言わない。君を縛りたくはないんだ」

女性はきゅっと唇を引き結び、確かめるように聞いた。
「私に、一緒に来てくれって、言わないの?」
クオンは少しためらった後、口を開く。
「俺には…その権利はないよ」
「権利とか…そんなんじゃないのに!」
女性はがたんと椅子をならして立ち上がった。
「今だって…一緒にいるのにあなたが遠いの。これ以上遠くなったら私、耐えられないわ」
「…ごめん」
「私は、遠距離は嫌。だから、別れましょう」
クオンはきっぱりと言い切った女性の顔をしばらく見つめていたが、やがて頷いた。
「…分かったよ」
女性の肩がぴくりと震えた。その目には見る見るうちに涙が溜まる。
「ほんとバカ!信じらんない!!」

それから女性は椅子に置いたハンドバッグをひっつかむと、無言で足早に去って行く。残されたクオンは一人、背もたれにどさりともたれ、しばらくぼんやりと店内を眺めていた。


あと数日で3月が終わる、という日の朝。クオンの最終出社日を翌日に控え、社は一足先に東京へ戻ることになっていた。社の滞在していたホテルにクオンも足を運んで、最後の打ち合わせをする。
「こっちでやり残したことは…ないよな」
「引越しの手続きまでやっていただいてしまって済みません」
「ああ、それくらい大したことなかったよ。お前、ほとんど荷物なかったじゃん」
「とはいえ…」
「お前もこっちで忘れ物とか挨拶忘れとか、ないよな?」
「大丈夫ですよ、大体二度と来られない訳じゃないですから」

社は思い出したように「あ、そういえば」と口を開いた。
「余計な御世話だけどさ、こっちに恋人とかいたんじゃないの?いきなり遠距離になったりして、そのフォローは大丈夫か?」
「はは、つい先日思いっきり振られましたからね。フォローはいらないです」
「あれ」
「仕方ないですよ。遠距離はイヤだって言われちゃいましたから」
「ついてきてもらえばいいのに」

クオンは肩をすくめた。
「無理強いはできませんし…束縛ってのは苦手です」
「なんか…あっさりしすぎてないか?」
「そうですか?」
「ん…まあいいんだけどさ。お前全然堪えてなさそう」

クオンは社が駅に向かうのを見送ってから、クオンはいつものチェーンのカフェへ足を向けた。ここのところ何かと忙しかったのですっかりご無沙汰だ。
店に入るといつものようにドリップコーヒーを買ってカウンター席に座る。いつもの光景だが、そこにはいつもの元気で礼儀正しい店員の姿が見えなかった。

休みか、バイトを辞めたか…まあ俺も今日でここに来るのは最後だしな…

いつもよりあっさりとコーヒーを飲み干すと、クオンは店を後にした。
いよいよ東京での生活が始まる。行ってみなければ、やってみなければ分からないことだらけだ。

新卒の新入社員より先が見えないな…

不安を感じながらも、クオンは父親に与えられたであろう見えない課題に立ち向かう決意を固めていた。




キョコちゃんが出なかった…


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