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薔薇の素顔 (3)

…身の程知らずにもパラレルを始めてみました。
パラレル苦手な方はご注意ください。

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促され、蓮と一緒にコンビニを出たキョーコは、肩を落として小さくなっていた。
「先ほどは大声を上げてしまって申し訳ありませんでした」
何度目か分からない謝罪を口にして、キョーコは深々と頭を下げる。

「いや、そんなに謝らなくていいんだよ。驚かせてしまった俺が悪かったんだし、周りに人がいた訳でもないし大丈夫」
何も考えず反射的に呼び止めてしまったことに少し罪悪感を覚えながら蓮は答えた。目の前でしょんぼりと小さくなる少女は、自分でもよく同一人物だと分かったと不思議に思うほど、先日のカフェで見た姿とはまるっきり違っていた。

蓮はさりげなく目の前のキョーコの様子を観察してみる。
今目の前にいるキョーコは、髪は自然にブローされて肩へと落ち、その顔はあどけなさが残って先日より3、4歳若く見える。何よりも、クールな印象はすっかり消えてしまって、むしろ愛らしさを感じる女の子らしい雰囲気だ。
ただ、その大きな瞳がたたえる光と、止まっていても歩いていてもぴんとした姿勢のよさが数少ない共通点のように思えた。

「それにしても、よく私のことが分かりましたね」
ようやっと浮上したらしいキョーコが不思議そうに蓮を見上げてきた。
「お店のお客さんには外でお会いしても声をかけないことにしてるんです。絶対誰だか分かってもらえないので」
「ああ…そうかもしれないね。俺も、ぶつかってなかったら見過ごしてたかな。でも、立ち振る舞いがダブって見えたんだ」
蓮はクスリと笑って答えた。
「そんなことまで覚えてらっしゃるんですか?」
「あの時の君の動きを…ちょっと感心して見ていたからね。それと、なんだか微妙な違和感を感じていたから」
言われたことが分かりません、という顔をキョーコはする。素のこの子は正直な表情をするんだな、と思いながら、蓮はその表情に答えるように続けた。
「接客技術が飛びぬけて高いよね、君は。高級レストランのベテランギャルソンに付いてもらっているような錯覚を覚えたよ。見た目にそぐわないかな、と思ったんだ」
「それが違和感ってことですか?」
「いや、違和感はそっちじゃない。意外ではあったけどね。そうだな、違和感と言うのは……君が…演じてる、ように見えた、のかな?」
言葉を選びながら蓮は答えた。自分でも確信があったわけではなかったが、現状を踏まえて口に出して、すとんと腑に落ちた気がした。結果的にあれは素のキョーコ本人が100%表に出ていたのではなく、どこか作られた人格だった。芝居をする自分にとって、常に接してる状況だったために、感覚に引っかかったのではないか。

キョーコは真剣な顔でじっと蓮のことを見つめた。
「敦賀さんってすごいんですね…」
「ん?あってた?」
「そうですね、…わざわざ演技をしているとまでは言いませんが…カフェで働いている間は、少し違うキャラになりきってるかもしれません」
なんとなく辛そうな、いたたまれないような顔をキョーコがしたので、蓮の気持ちは少しざわついた。
「もしかして、あんまり触れられたくないことだった?ごめんね、急に声かけた上にこんな…」
「あ!いえ!!全然、そんなことないです!ただ、カフェの雰囲気に合わせたほうがいいかな、て思って考えただけなので!!」
その後のキョーコは終始ニコニコと笑顔のままで、辛い顔を見せることはなかった。

「しかしこんな遅い時間に女の子が一人で危ないよ?」
「女の子って、私いくつだと思ってます?」
「…高校生、じゃないの?」
「一応もう大学生です!」
「…大学生でも女の子一人じゃ危ないよ」
「今、見えないって思いましたね」
「いや?遅いから、送ろうか、家は近くなの?」
「いえいえそんなとんでもない!!自転車ですし大丈夫です、お気遣いなく!!」
そんなやり取りを最後に、キョーコは自転車に乗ってあっという間に姿を消したのだった。
蓮は、なんで自分は声をかけたのかな…と自分の行動に疑問を感じつつも、それ以上考えることをやめ、車に乗り込むとエンジンをかけた。


その後2週間ほど、蓮はモデルとしての撮影やドラマのロケであちこち飛び回り、忙しい日々を送っていた。
「忙しいのは今に始まったことじゃないけど、さすがにこれだけあちこち引っぱりまわされると、さすがに目が回るな」
二人はロケ帰りに空港から事務所へと立ち寄っていた。ほぼ蓮に同行している社が珍しくぼやく。仕事で忙しいことをあまり気にせずこなしていく蓮も、確かに少し疲れが溜まっているのを自覚していた。
「そうですね、ちょっと過密スケジュールでしたね」
「でもまあ、明日は久しぶりに午前中が空いたな」
空けようと思っても空かないスケジュールだが、雑誌の取材が諸々の都合で直前に延期となったため、偶然に隙間ができたのだった。
「今日はこれで終わりだし、あんまり時間がある訳ではないけど、できるだけ休んでくれよ」
「そうですね、家に落ち着いて帰るのも久しぶりな気がしますよ。社さんも休んでくださいね」
「ああ、もちろん。…あ、そうそう」
社は思い出したように鞄を開けると、大きめの封筒を取り出した。
「この間の貴島との対談のゲラ、一応渡しておくよ」
「もう出来てきたんですか」
「来月発売らしいから、もう最終稿だ。内容と写真は主任と俺で確認済みだけど、ま、一応見といてくれよ」
「分かりました」
蓮は封筒を受け取り、自分のカバンにしまった。
脳裏にちらりとコンビニで偶然再会した少女の顔が浮かんだ。

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