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ダークヒーロー

こんばんは!

妄想の元になるものがあって、妄想がそこから始まって、最終的にものになると…
なんだか元の物とは似ても似つかなくなることが、よくあります。

今日も、そんな産物だったりします。



はぁっはぁっはぁっはぁっ…

暗い街は、道路沿いの街頭のか細い明りだけで薄らと照らされている。
人気のない道を、後ろを気にしながらキョーコはひたすら逃げていた。少しでも足を緩めたら追いつかれる。焦燥感に駆りたてられながら懸命に走るが、心臓は口から飛び出そうなくらい激しく跳ね、足は重くなってきている。

人の気配を感じた気がしてキョーコは思わず後ろを振り返った。しかし暗い道はがらんとして冷たいアスファルトと沿道の建物以外は何も見えない。気のせいかと再び前を向いたところで何かにぶつかりそうになり、キョーコはあっと声を上げて足の回転を止めながら体をひねる。その何かに足を払われ、キョーコは体勢を立て直すことができず路面に転がった。

慌てて起き上がろうとするが、覆いかぶさるようにキョーコの体に黒い影が落ち、キョーコは目を見開いて体の動きを止める。ロングコートのポケットに両手を突っ込み、余裕の笑みを浮かべながらキョーコを見下ろしているのは……泣きぼくろも妖艶な男、レイノだった。


ああもう!折角、折角、身の回りの世話を一生させようとたくらむ男からなんとか逃れたというのに…!なんでまた、こんな変な男につけ狙われなくちゃいけないの!?

キョーコはいらだちを感じるが、それ以上に目の前の男から冷気のような雰囲気を感じて息をのんだ。なんとか睨み返しながら、うなるように尋ねる。

「なんなのよ、私に何の用があるの?」
「分からないまま逃げていたのか…随分とせっかちだな」
余計なお世話よ、とキョーコは座ったままじりりと後ろに下がった。レイノはその様子を楽しそうに眺めながらキョーコの問いに答える。
「俺は…お前の血が欲しいだけだ」

ヴァンパイア??キョーコの顔に恐怖の色が浮かぶ。
「だけって何よ、冗談じゃないわ」
「くくく…まあ、お前の了承なんて最初から期待してない」
レイノはキョーコの方にしゃがみ込むとその顎に手をかけた。その目を見た瞬間、射すくめられたようにキョーコの体の自由が奪われる。
「俺に捕まった時点で、お前にはもう…避ける術はない…」
勝ち誇ったように耳元で囁き、その白い首筋に牙をつきたてようとして…レイノは弾かれたように振り向くと、キョーコから離れて飛び退った。
「誰だ?」
先ほどの余裕が失われた誰何の声を暗がりに向かって発する。

レイノの視線が向けられた方向から、ゆっくりと一つの影が近づいてきた。全身黒づくめのその男は、目にも黒いマスクをつけている。マスクから覗く黒い瞳は、鋭い光を放っていた。

「ああ!あなたは!」
キョーコの口から安堵の声が漏れた。なぜ忘れていたのだ、自分は前にもこの人に助けられたではないか。

レイノは忌々しげに男を見た。威圧されるようにじり、と一歩後ずさる。レイノはしばし逡巡したが、男が一瞬キョーコに目線を送ったのを見て、瞬時に策を決め、男に飛びかかった。
しかし、繰り出した拳はいとも簡単に受け止められ、体の自由を奪おうと飛ばした視線もなんなく打ち破られる。更に、かわそうと体をひねったのにも関わらず、その腹にはいつの間にか3発ほどの拳を逆に受けてしまっていた。

「ぐ……」
レイノは何とか男から離れると、片手で腹をかばったままキョーコを睨みつける。
「キョーコ、お前、そいつに助けられているつもりだろうが…その男は危険だぞ。ヒーローなんかでは、ない…」
「なっ…!あんたが言える立場なのっ?」
キョーコはいきなり吐かれた言葉に一瞬うろたえたが、強気に言い返す。
「…忠告は、してやったからな」
レイノは言い捨てると、あっという間にその姿は闇の中へと消えて行った。

「あの!ありがとうございました!ぜ、前回も、今回も…」
「いや、君が無事でよかった」
マスクを外して柔らかい笑みを浮かべた男は、敦賀蓮、その人だった…。



「---という、夢を見ましてですね」

夢かい!!!と突っ込みたいのを、社はなんとか抑え込むことに成功した。蓮はにこにこと笑顔のままでキョーコの話を聞いている。
「すみません、くだらない夢に勝手に敦賀さんを出演させてしまいまして」
「いや、最上さんの夢に出られるとは光栄だよ」
偶然顔を合わせた事務所でのひと時。キョーコは2人が立ち寄ってくれたラブミー部部室で、前夜に見た夢の話を蓮と社の2人に語っていたのだ。

「それで、夢はそこで終わっちゃったの?」
社はキョーコの夢に蓮がヒーロー的な立場で出てきた、ということに注目して聞いてみた。その後にロマンスなんかがあったりはしなかっただろうか、まあおそらく無かっただろうけど。
「うーーん、続きもあったような気がしてるんですけど…残念ながらそこまでしか覚えてないんですよね」
キョーコは口に出してから(あれ?)と気がついた。夢を見て夜中に飛び起きたとき、(ああ、夢でよかった)と自分は安堵しなかっただろうか。蓮に助けられてから目が覚めたのであれば、あそこまで安堵する事もなかった気がする。

あの後、夢の中で何があったんだっけ…?


「ヒーローなのに黒尽くめってところがなんからしいと言えばらしいかな」
社は笑いながら蓮に話しかける。
「普段そんなに黒い服着てませんけど…最上さんの中で俺がそんなイメージなんですかね。夢って深層心理が反映されると言いますし」
「それでも、真っ赤な全身タイツにマント、みたいな格好で出てくるよりはいいんじゃないか?」
「…想像は、控えていただけますか?」
「ああ大丈夫、俺の想像できる範囲を軽く超えちゃってるみたいだし。またモザイクかかっちゃったよ」
「大丈夫じゃないですよ。もう十分想像を試みた後じゃないですか」
その時社の携帯が鳴り、社は慌てて手袋をしながら部室を出て行った。キョーコはまだなにやら腕組みをして考え込んでいる。

「最上さん、どうしたの?何か考え込んでいるようだけど」
「いえ…あの夢の続き、どうだったかな、と思いまして…なんでここまでは はっきり覚えているのに…?」
そういうことか、と蓮は軽く笑った。
「所詮は夢だからね。覚えてない事の方が多いって言うし、すぐに忘れてしまうことだってあるよ」
「そうなんですけどね…」

ふと、蓮はキョーコの首元を凝視した。思わず腕がするりと伸びる。いきなり首元を指で触られて、キョーコは肩をすくめてぶるっと身震いをした。
「あ、ごめん」
「い、いえ!な、なにかありましたでしょうか??」
キョーコは驚きつつもどぎまぎと尋ねる。見てみると、蓮は少し険しい顔だ。
「いや……ねえ最上さん、夢の中でレイノに噛み付かれそうになったのって首のこっち側?」
蓮は今触れたのと同じところをもう一度人差し指でとん、と軽く突いた。
「え…えーと、はい。そうですね、そっち側です」
「夢では、噛まれはしてない?」
「少なくともそういう感覚はありませんでした…って、夢だから痛みとかは無いんだと思いますけど…」
何でそんなこと聞かれているんだろう?とキョーコは疑問でいっぱいだが、蓮が自分の首元を覗き込むように近づいているので顔が赤面するような緊張感がある。

「そう…でも……」
蓮はもう一度、キョーコの首を指でなぞった。
「ここ、なんだか赤い痕になってるよ」
えっ?とキョーコは驚いた。
「なんででしょう??朝鏡見たときは気がつきませんでした。いやでも、まさか、夢とは無関係…」
すぐそばに、渋い表情のままの蓮の顔が見える。
「俺も、そうは思うんだけど…最上さんの夢に出てきたのがレイノって言うのがひっかかるんだ…あの男なら、おかしなことをやりかねないと言うか…」
蓮は、前に自分の芸名を『偽名』と言われた事を思ってそう言った。キョーコも自分の分身を人質に取られた事があるだけに、蓮の言葉に納得こそすれ、否定はできない。

「そ、それはすごく怖いですけど…」
不安げな顔で言うキョーコに対し、だよね、と蓮は呟くと、ふと表情を変えた。にっこりと笑うと先ほどとは反対の手を伸ばし、キョーコの耳を挟むようにキョーコの頬から首をその手で覆う。そして、キョーコが反応できないほどの素早さで顔を近づけると、首の赤い痕に自分の唇を重ねた。

暖かい唇の柔らかさと同時に、もっと熱く濡れた感触を、キョーコは首筋に感じた。くすぐったくて思わず「うんっ」と声が出てしまい、感触も自分の出した声も蓮の近さも全てが恥ずかしくて一瞬のうちに全身真っ赤になる。
そして、同時に、夢の後で飛び起きたときのことを思い出していた。

なんか、このシチュエーション覚えがあると思ったら…!!夢と同じだわ!!!!


夢の中の蓮は「消毒」と称してキョーコの首筋に唇を寄せたのだ。そしてそして、助けた見返りとして精気を分けて欲しいと、巻きつくように抱きしめられ。なぜか耳元で色々と囁かれて口説かれて…もうちょっとで陥落してしまうかも、と言うところで目が覚めたのだった。


そそそ、そんなこと敦賀さんがする訳無いのに、なんて破廉恥な夢を私ったら!!!
なんでなの、こういうのって欲求不満の表れとか、なんかの雑誌で見たわよね。そんなあ…!


キョーコは真っ赤な顔で、恥ずかしげな表情で、目に涙を浮かべて蓮を見た。手はしっかりと首筋を抑えている。とりあえず夢の事はもうこれ以上蓮には話せない。

「な、何するんですか~~…」
「うん?何って、もしレイノが原因だとしてもこれ以上近づけないように、マーキング?」
「マーキング…?」
「うん。俺が最上さんを守ってるから、手を出すなって意味でね。折角夢で最上さんを守ったんだから、現実でも守らせて…?」
キョーコの顔の赤さが一段と増す。その表情を見て蓮が微笑んだところで社が戻ってきた。

「蓮、そろそろ時間だ、移動しないと。キョーコちゃん、お茶ご馳走様!って、なんか顔赤くない?大丈夫?」
「い、いえ、何でもありません、大丈夫です」
「そう?ほんとに、蓮に何かされてない?」
「何もないですっ!」
間髪入れず返された返答に、社は少し違和感を感じたが、とりあえず時間が迫っているからと部室を出た。


部室の中では机に突っ伏したキョーコが、頭から湯気を出して打ちひしがれている。

あんまりな夢を見た上に、近いことを現実にもされるなんて…どうなってるの?
なんかの予知夢なの?勝手に見た夢?それともほんとにビーグルが…?
ああああ、訳が分からないっ!

あれ?でも待って…確か夢では…私の首に触れたのって、ビーグルじゃなくて……敦賀さんだったんじゃ?


一方蓮は無表情で廊下を歩きながら、そっと考えていた。

危ない危ない…色っぽい声を出されて…あんな涙目で見つめられたら、危険だな。
それにしても、あの痕って本当のところ、なんだったんだろう?


さすがの蓮も、それが、キョーコの夢に出た自分がつけたマーキングの痕だとは、気がつきはしなかったのだった。




ちなみに妄想元は日曜朝の子供と一緒に見た仮面ライダー ウィザード…… なんでこうなった。
意味の分からないこの話ですが、次の話と微妙につながります。


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