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アフォガート ~溶けて、溺れて~


こんばんは。

本日の更新は ラブコラボ研究所 メロキュン企画☆第9弾!
「メロキュンカフェバー☆オープン!」への参加作でございます。

バレンタイン企画はタイトルがスイーツ、ていうことで今回のチョイスとなってます。

バレンタイン題材ですが…ううん?
まあとりあえず、いってみます!






「ふぅん、今年は敦賀さんにあげるの?」
キョーコと奏江は昨年同様奏江の部屋で手作りチョコ作りに励んでいた。
奏江は今年も現在共演中の飛鷹に手作りチョコをあげる事にしたらしい。ちょうどこの時期にまたドラマ共演とは、飛鷹にとって非常にラッキーなタイミングだったと言える。

「…うぅん、いや、まだ決めたわけじゃないんだけど」
「去年は敦賀さんは抜きって聞いたからびっくりしたけど、そうか、チョコじゃない物あげたのね」
奏江は去年散々気をもんだ事を思い出した。結局、過剰なお礼を見舞われたらしいと知って、ある意味ほっとしたのだが。
あれから1年、親友と先輩俳優の関係は建前上ほとんど変わっていないが、たまに一緒にいるところを見かけると二人の精神的な距離は縮まっているように見える。けれども蓮の態度はあからさまなのに、キョーコが気がついている様子が無いので少々もどかしい。

「だって、すごいの、楽屋がチョコと誕生日プレゼントでいっぱいだったもの…」
「でも今年はあんたもそこに参戦するんでしょ?」
「うう…参戦って……でも、チョコレートは食べてもらえないと思うの…」


去年はワインゼリーだったけど…
今年は『チョコレート』を、食べてもらえたらな…

それは、キョーコの心にうまれた小さな欲求。
去年、社にさりげなく聞いたところ、「1つ食べると全部食べなくちゃいけなくなるから」と、蓮はいつも、バレンタインにもらったチョコに手をつけないという。
自分はチョコレートじゃなくてゼリーにしたから食べてもらえたのだろう。だけど、今年は…。
去年のバレンタインにはまだあまり気がついていなかった自分の気持ちだけど、今ははっきり自覚できる。だから、バレンタインにチョコを渡して食べてもらえたら嬉しいと思う。まるで蓮を独り占めできているような、そんな優越感があるはず。でもそれはきっと、ただの後輩としては分不相応な欲求なのだろう。

「食べてもらえる簡単な方法があるわよ」
眉を八の字にしてなにやら考え込んでいるキョーコに対して、にやりと笑いながら奏江が言う。
「何それ?」
奏江の表情に少し警戒しながらも、キョーコはボウルのチョコを混ぜる手を止めずに聞いた。

「自分の全身にチョコ塗って、『食べて(はあと)』って言えばいいのよ」
「な!何言ってるのよモー子さん!!な、なんてフシダラな…」
まあ確かにふしだらよね、と奏江は笑った。内心で、(間違いなくチョコ以上のものを食べられちゃうから危険よね)と思う。

「もう一つ手があるわよ」
「なに?」
これっぽっちも期待せずに一応キョーコは聞き返した。
「あんたがこうやって口にくわえてそのまま…」
「もーーーーこさん!!!!!」



結局、何だかんだ言っても14日に会えなきゃ渡す事すらできないのよね…

キョーコはとっぷりと日が暮れた頃、事務所の廊下を1人で歩きながらため息をついていた。
奏江とくだらないやりとりを繰り広げながら、結局蓮の分もトリュフを作ったのだが、蓮はバレンタインデー前日の今日まで地方ロケで東京を離れている。9日から行ってしまっているため、誕生日のお祝いもできなかったのが恨めしい。事前にプレゼントも渡したし、当日も頑張って電話をかけてお祝いの言葉を言ったのだが、蓮と一緒にロケに行っている女優やスタッフが羨ましかった。

仕事なんだからしょうがないわ、仕事なんだから!

ぶつぶつと、誕生日当日も自分に言い聞かせた言葉を繰り返す。
現在キョーコと蓮は共通の仕事は無いため、チョコを渡すなら蓮に連絡を取って都合を聞いて出向く、というステップが必要になる。けれど、そのためにわざわざ呼び出すのも…とキョーコは躊躇していたのだ。

でも、あのチョコ、どうしようかな…

キョーコが思ったその時、携帯が震えた。ディスプレイを見るとそこには今まさに考えていた先輩の名前が。キョーコは慌てて電話に出る。
「もしもし!最上です!」
『…もしもし。…なんだか元気がいいね』
「あっ。すみません!お疲れ様です敦賀さん」
『うん、最上さんもお疲れ様。今大丈夫?』
「はい、今事務所にいますから大丈夫です」
『よかった。ちょっとお願いがあるんだけど…』


通話を終えるとキョーコは携帯を閉じた。しばし、立ち止まったまま考える。
蓮からの電話は「明日、夕食を作りに来て欲しい」というものだった。ロケ中の連日の旅館の食事とロケ弁にすっかり食欲が落ちてしまったのだという。今日はこれから飛行機に乗って帰るので、遅くなるから明日に、と。しかし、それにしても。

バレンタインデー当日って、偶然…よね?

それでもキョーコは沸き立つ気持ちを抑えきれず、早速翌日のメニューを何にしようか考え始めたのだった。

そして翌日。
キョーコは約束どおり蓮の部屋にいた。リビングで蓮と和やかに話をしながらの夕食が進む。しかし、食事が終わるのが近づくにつれ、キョーコはやや緊張してきた。やがて蓮が食べ終わったのを見計らい、意を決して話しかける。

「あ、あの!今日はデザートも用意しているんですけど、召し上がっていただけますか?」
蓮は驚くでもなく穏やかな笑みをキョーコに向ける。今日の蓮の微笑みはいちいち眩しくて目がくらみそうだ。
「食事も美味しかったし満足だけど、デザートまであるの?もちろん、喜んでいただくよ」
蓮の言葉を聞いて、キョーコはキッチンに入り、やがてトレイを抱えて帰ってきた。

蓮の前に置かれたトレイには、アイスの盛られた皿と小さめのピッチャーが置かれている。
蓮はピッチャーを覗き込んで、キョーコに尋ねた。
「これを、アイスにかけるんだね」
「はい。これ、アフォガートです。もともとバニラアイスに熱いエスプレッソコーヒーをかけるんですけど、ちょっと今日はコーヒーを少し工夫してみました」
蓮はキョーコに促されるままピッチャーの中身をアイスにかけ、スプーンを取って一口口に運んだ。
「ああ、なるほど。コーヒーにチョコレートが入ってるのかな?」
「はい。あの…今日はバレンタインなので……」
「ああ、なるほど。うん、熱いコーヒーとアイスが不思議な食感で、美味しいね」

蓮はふとスプーンを置くと、キョーコの顔をじっと見つめた。
「ねえ、アフォガートの意味って知ってる?」
「意味ですか?…いいえ」
「イタリア語で"溺れた"って意味なんだって。俺が君に溺れる…そういう意味でこれをデザートにチョイスした訳じゃないの?」
「いやっ。そんな、ふ、深い意味があった訳じゃなくてですね!」

なんてことを言うのだと、キョーコは真っ赤になりながら慌てて弁解した。いつの間にか蓮のまとう雰囲気が苦手なものになってきているような気がして、更に慌ててしまう。そのせいか、キョーコはバカ正直に本音をこぼしてしまった。
「チョコだと召し上がっていただけないかも、と思いまして、チョコが脇役になる…ように……」
ついうっかり口が滑ってしまった事に気がつき語尾が段々と尻つぼみになる。
「俺がチョコを食べないって?」
「あ、その、去年社さんから、敦賀さんバレンタインのチョコは食べてないって伺ったので」

ああ、と蓮は納得すると、目の前の溶けていくアイスをじっと見つめて一つため息をついた。
「最上さんからもらえたら…その他のチョコとは別扱いにするんだけどな」
「え?」
蓮は真っ直ぐにキョーコの眼を見る。
「君にチョコをもらったら、食べるよ。他のは食べなくてもそれだけは絶対」
「えええっ?」
蓮は再びスプーンを取り上げアイスをすくうと、キョーコをちょいちょいと手招きした。キョーコは反射的に蓮の方へと近づく。蓮からスプーンが差し出され、キョーコは口を開けてアイスを味わった。苦みと甘み、温かさと冷たさが口の中で混ざって溶けていく。

「俺の分しかないみたいだから、おすそ分け」
「あ、ありがとうございます…」
「最上さんも、俺に溺れてくれたらいいのに」
「え?」
蓮の左手がすうと伸びて、キョーコの顎にかかる。そのまま親指が唇をなぞった。蓮の眼は少し細められ、その表情は読めない。その瞳の奥の光に、キョーコは捕えられていた。
「俺が君に溺れているのと同じくらい…君も俺の事を思ってくれたらいいのに…」
「私……」
キョーコの喉がごくりと鳴る。
「私……溺れていいんですか?」
意外な返答に、蓮が少し驚いた顔をしたが、すぐにその表情は笑みへと変わる。
「もちろん。そんなに嬉しいことはないんだけどな」
蓮の顔がキョーコに近づき、耳元で何かを囁くとそっと唇が重なる。

あ…コーヒーとチョコのにおい…

香りと蓮の囁きに、気持ちが溶けていく。
このぬくもりに溺れたら、もう抜けられないかもしれない。

それでも今はもう少し、溶けあっていたい…

それは、苦くて甘い、熱くて冷たい、でももう一口食べたくなる、そんなスイーツの魔法。

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