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社外恋愛(20) ~平穏~

こんばんは!
今日は連休初日ですね~。私も出かけて来ています。
スマホでの文章書きは難しい…。なんとか書いておいた分に書き足して、「社外恋愛」最終話です。
書いてて楽しかったので、また何かの形で続編が書けたらいいかな、などとも思いますが。

拍手コメントもありがとうございます~。
こちらのお返事は帰宅してからとさせていただきます。

ではどうぞ~




「お先に失礼します」
蓮はPCの電源を落とすと、机の上に広げていた資料をしまい、引き出しからカバンを取り出しながら隣の席の社に声をかけた。
「んー、お疲れ」
社はモニタから目を離さずに返事をしたが、画面で時刻を確認して蓮の方へと視線を移す。
「なんか最近、帰りの早い日が多くないか?」
蓮はジャケットの内ポケットを探りながら社を見た。
「そうですか?それほどでもないですけど…ここのところプロジェクトも落ち着いてますし」
「そうだけど…いや、きっちりやってるから構わないんだけどさ。お前、去年あんなに『お願いだから有給取ってくれ』って課長に泣かれても聞かなかったのに、最近有休も取ってるよな」
「今年に入ってからも言われてるんですよ、去年の繰越を消化しろって。まあ少し、仕事が落ち着いてる内くらいのんびりしてもいいかと思いまして」

はあ?と社は驚いた顔になったが、やがてぐ~ふ~ふ~と不気味な笑い声を上げた。
「仕事の虫のお前からそんな言葉を聞くとは思わなかったよ……ふぅ~~ん、そうか、私生活が充実してるってことだな」
「まあ、どう受け止めていただいても」
さらりと蓮は流したが、社は蓮のデスクにちらりと目をやった。
「前から聞こうと思ってたんだけどさ…なんで京子のフィギュア片付けちゃったの?ちょうど京子に恋人がいるって騒ぎになった頃だよな、無くなったの」
よく見てるな…と蓮はため息をつく。
「別に…深い意味はないですけど」
「そうか~~?理想としてた虚像が壊れちゃって、幻滅したんじゃないのか~?」
にやにやと追求してくる社をちらりと見ると、蓮は軽く笑って答えた。
「虚像…ですか。確かに実像の方がいいですよね。だから、仕事中に思い出さないように家に持って帰ったんですよ」
社の顔にクエスチョンマークが浮かぶ。が、気を取り直して社はさらに言い募った。
「んで、虚像としての京子を見限って、現実的な相手に鞍替えか?」
「…当たらずとも遠からず、ですかね」
なんだ、意味深な!とわめく社にもう一度「お先に失礼します」と告げて、蓮は廊下に出た。歩きながら携帯を操作すると、1通のメールが届いている。

『お疲れ様です。
仕事が予定通り終わったので、時間通りに行けそうです!また、後ほど。』

画面を見ながら蓮は顔をほころばせた。あの夜のやり取りが思い出される。


蓮がキョーコのロケ現場に乗り込んだ日。
キョーコを送っていく帰り道、キョーコと連絡先の交換をしようとして、ふと思い出して蓮は尋ねた。
「前に…名刺にアドレス書いて渡したの、覚えてる?あれ、もう捨てちゃったかな」
キョーコはその言葉を聞いてごそごそとカバンをあさり、手帳を取り出した。
「捨てる訳ないですよ!ちゃんと大事にとってあります、ほら!」
言葉と同時にばしりと上げられたキョーコの右手には、ラミネート加工された蓮の名刺。
蓮はしばし無言のまま真顔でその名刺を見つめると、がっくりとうなだれてしまった。
「え、ええっ?何か、まずかったですか?」
「いや…俺、自分の名刺をそんな風に大事に扱われたの初めてなんだけど…」
「えっ。だって!無くしたり、汚したりしたくなかったので」
「ううん、いいんだよ。いいんだけど…そんなに大事にしてくれるんだったら、メールの1本もくれたらよかったのに…」
「なっ!できるわけ無いじゃないですか!!」
真っ赤な顔で拗ねるキョーコもまた、可愛かった。
これからは気兼ねなく電話もメールもしてね、と念を押して、改めて2人は連絡先の交換をしたのだった。

全く…20歳の売れてる芸能人があんなに初心でお堅いなんて、思わないじゃないか。

実際付き合い始めてみると、キョーコは驚くほど恋愛に疎かった。
少しずつ聞きだした話によると、前に騒ぎになったアーティスト不破尚は幼馴染で、キョーコは尚に片想いしていた時期が長く、その後は恋愛を嫌悪していたため異性と付き合った経験は無いらしい。あの軽薄そうな男のことをずっと好きだった、と言うだけで少し嫉妬心が湧き上がってくるが、尚がキョーコのことを全く相手にしなかったということにある意味で感謝もしている。

キョーコの堅さ、真面目さが業界内でも知れ渡っていたために、不破との噂が収まるのも早かったといえる。
しかし2回目のスキャンダルはそうはいかなかった。

なにせ、目撃者が多すぎたのだ。幸いギャラリーから離れた場所で起こった出来事だったため写真こそ撮られなかったが、あっという間に業界内に噂が広まり、週刊誌の記者が聞き及ぶところとなり、証言を積み重ねる形ですっぱ抜かれてしまった。
さすがにちょっとまずかったか?と蓮は反省したのだが、なぜだかキョーコの事務所は喜びをこめた肯定コメントを出した。そして、蓮はLMEの社長という、派手な、どこか浮世離れしたダンディーな男に呼び出され、キョーコのラブミー部卒業式とやらに出席させられ、直接感謝の言葉をもらってしまった。ついでに、断ったがスカウトもされた。

キョーコの主張と事務所の配慮により、蓮の素性はこれっぽっちも明かされる事はなかったのだが、結局キョーコの交際報道は本人が「一般男性とお付き合いさせていただいております」、と認める形に落ち着いた。業界内ではうっすらと、「どえらい格好いい一般人」が相手だという噂も流れている。

とはいえ、当人たちは比較的のんびりとした交際を楽しんでいた。
蓮は一般の会社員、キョーコはその見た目は変幻自在、ということで、普通に街中デートをしていても、まずバレて騒がれる事はないのだ。もっとも、蓮はその容貌で普通に歩いていても女性から振り返られるので、注目を集めないという訳ではないのだが。


蓮はつらつらと考えながら会社の最寄り駅から地下鉄に乗った。いくつかの駅を過ぎ、地下鉄を降りると階段を上がって地下鉄の出口を出る。
たどり着いたのは、地下鉄出口から出て角を曲がった先にある大きな交差点の脇に立つ交番だった。そこは人が多く行き交う場所で、待ち合わせスポットとなっているためにたくさんの人が立っている。

蓮は一度立ち止まり、そこにいる人々をざっと見渡すと、ひとつため息をついた。それから、蓮は再び歩き出すと迷わず真っ直ぐに進み、たくさんの人の中にいる、制服姿の男子高校生の前に立った。
男子高校生は少し小柄で、肩にスポーツバッグを引っ掛け、紺のブレザーに白黒チェックのズボンを履いている。ローファーの踵が踏み潰され、ズボンがやや腰履きになっているのが最近の高校生らしい。高校生は耳にイヤホンをつけて下向き加減でスマホを操作しているため、蓮には気がついていないようだ。

「やあ、お待たせ」
蓮は構わず、男子高校生に声をかけた。声に気がついたのか、高校生が顔を上げる。2人はしばらく無言で相手の顔を見ていたが、やがて男子高校生が思いっきり息を吐き出した。
「なんで分かっちゃうんですか?」
その声は高い。
「だから言っただろう。どんな格好してたって分かるって」
「今日のはスタイリストさんにも手伝ってもらって結構自信あったのに…」

そう、男子高校生に見えたのは、キョーコだった。
2人が付き合い始めてまだ2か月足らず。ゆっくり会える機会はそう多くはなかったが、キョーコは蓮と会うとき、時間に少しでも余裕がある時は変装をしていた。京子だということがばれないため、というのもあったが、毎回がらりと雰囲気を変えるのは蓮に見破られないためでもあった。可愛い系、大人っぽい系、ボーイッシュ、お嬢様、様々に試してみたのだが、蓮は全く騙されてくれない。いつも迷うことなくキョーコの元に真っ直ぐやってきて「やあ、お待たせ」というのだ。

「さすがに男の子は分かんないと思ったのに、ずるいですよ」
「性別の問題じゃないんだよ。って、もうそろそろ分かってくれてもいいと思うんだけど」
「…今度は特殊メイクの人に頼んでみようかしら」
さすがにそれはやめてくれ、と思いながら蓮は苦笑いした。

「それで、今日はそのままデートするの?その格好の君と街を歩いたら…この間以上に俺が変な目で見られそうなんだけど。それとも、またうちに来る?倒錯プレイがお好みなら泊まっていってももちろん構わないけど…」
キョーコは周りの目を気にして慌てる。
「なぁにを言ってるんですか~。その発言の方がダメですよ!今日はちゃんと着替え持ってきてますから大丈夫です!」

キョーコは男子高校生にたどり着く前に、当然ながら女子高生に扮して蓮と会った事があった。そして、瞬時に看破された後、このまま歩き回ると援助交際だと思われるかも、という蓮の懸念を受けて蓮の部屋で過ごしたのだ。
結果的には何もなかったのだが、蓮に軽く迫られてキョーコはプチパニックを起こしていた。

全く…無理強いする気も焦るつもりも無いけど、自分のやることが俺を煽ってるって事、少しは気づいてくれないかな…

早々に着替えに行ったキョーコを待つ間、蓮は内心でぼやいた。しかしこんな悩みもある意味幸せだと思える。

「お待たせしました!」
キョーコが戻ってきて声をかける。今日はバイトの時の扮装を用意しておいたようだ。
「ああ、懐かしいねその見た目」
えへへ、とキョーコは笑ってから、少し申し訳無さそうに蓮を見た。
「スミマセン、私の仕事が不規則でいつもご迷惑かけて…」
「いや、全然気にしてないよ。俺だって仕事でなかなか帰れない時もあるし」
「そうですけど…土日も休みじゃ無いですし、急なスケジュール変更も珍しくないし…」
「そんなの。君に逃げられてそのまま会えないことを考えたら何てことないさ。それとも、こんな平凡なサラリーマンと付き合うのはつまらない?」
「なっ。そんなわけある訳ないじゃないですか!」
だろう?と笑って蓮は続けた。
「立場の違いを楽しむくらいでいいんじゃない?俺は君の仕事がなんでも、それで会う時間が限られても、最上キョーコの一番になれればそれでいい。むしろ、当たり前の社内恋愛より刺激があって楽しいよ」

またもうそんな台詞をさらりと…

キョーコは照れ臭く思いながらも蓮の言葉を嬉しく受け止めた。でも、平凡なサラリーマンではあり得ないとこっそり思いもする。

下手なタレントや俳優さんと付き合うより余程刺激を受ける気がするわよね…

「さて、じゃあ行きますか。キョーコは何が食べたい?

「…たまには敦賀さんが決めて下さい」
「君が決めないなら…じゃあ、蛙の姿焼き…」
「は、ハンバーグ!!ハンバーグにしましょう!!」
「……了解。それからキョーコ、いつまで『敦賀さん』なの?」
「はうっ!あのいやその内…」
「今言ってごらん」
「なっ。また何のいじめですか!」
「いじめとは心外だな」

軽い言い合いとともに二人は街の中に消えて行った。


(おわり)


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コメントコメント


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やはり

キョコちゃんの卒業ってことで、LMEから感謝されていたのですね。俳優業じゃない蓮様も素敵でした。十二分に楽しませていただきました。

美音 | URL | 2013/02/11 (Mon) 23:19 [編集]


Re: やはり

>美音様

> キョコちゃんの卒業ってことで、LMEから感謝されていたのですね。俳優業じゃない蓮様も素敵でした。十二分に楽しませていただきました。

コメントありがとうございます!
主に社長が喜んでいたと思いますが、きっと勘のいいローリィの事だから、こんな事態も予想していたかもしれませんね。
読んでいただいてありがとうございましたー!

ぞうはな | URL | 2013/02/12 (Tue) 23:15 [編集]


初めまして。

こんにちは。初めてコメントさせて頂きます。社さんじゃないですけど、ぐ~ふ~ふ~ と言いたくなりますね。さすが蓮さん。楽しかったです。

へなへなっちです。 | URL | 2013/07/08 (Mon) 11:38 [編集]


Re: 初めまして。

> へなへなっち様

ようこそいらっしゃいました!
コメントありがとうございます。
この話の蓮さんはかなり鈍いのですが気がついてからの行動は強引そのものでした。
楽しんでいただけてとても嬉しいです~~!

ぞうはな | URL | 2013/07/08 (Mon) 21:25 [編集]