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社外恋愛 (16) ~始動~

こんばんはー!

珍しく日曜日に更新ができました!
早速つづきですー。



部屋のドアの鍵を開けると蓮は寝室へ向かう。
キョーコが走り去ってすぐ、蓮はカラオケボックスの会計を済ませるとそのまま自宅へ戻ってきていた。
部屋に入るなりPCとモニタの電源を入れ、コートとジャケットを脱いで無造作にベッドに放り投げる。携帯の画面で着信やメールを確認すると、それらを黙殺して電源を切り、ジャケットの上にぽすんと落とす。それからシャツの腕のボタンをはずして袖をまくり、椅子にどかりと腰を下ろすとPCの起動画面を睨みつけた。

……まったく…やられたな。

予想外なことに固まった数秒の隙に、まんまと逃げられてしまった。
キョーコは蓮にキスをして唇を離した後、何かを思いきるように「さよなら」と言った。おそらく、このままもう二度と蓮には会わないつもりなのだろう。勘違いだか早とちりだか知らないが、勝手に納得して始まる前に終わせようとするとは。てっきり嫌われているのだとばかり思っていたから、状況の把握にえらく手間取ってしまった。

気がつかない俺も相当な間抜けか。
でもあれは気がつかないだろう!…いやでも、バレンタインの事を考えたら…
それにしても、あんな行動に出るとは…思わなかったな。

ぶつぶつと考えながら蓮はPCを操作し始めた。
蓮はキョーコの住んでいるところはもちろん、連絡先も知らない。テレビに出ている京子というタレントの事は多少分かっていても、それを演じている最上キョーコについては知らないことの方が多い。
しかし今日はたくさんの素顔のキョーコを見られたような気がする。すねたような顔、蓮にムキになって言い返してきた時のやり取り、涙をためた悲しそうな顔、そして、あの唇の感触…
蓮は強く思う。テレビ画面の中の京子以上に、素のままの最上キョーコに自分は惹かれている。キョーコが自分に対してあのカラオケボックスで吐き出した想いを抱いていてくれるなら…もう迷うことはない。

蓮が辿り着かなければいけない先は最上キョーコだが、足取りをつかむべきは京子の方だろう。

さて、鬼ごっこ…いや、かくれんぼか?……スタートだ。
君はもうゲームが終わりだと思い込んでるだろうけど。

蓮の指がキーボードの上で軽やかに踊る。ディスプレイの青白い光に照らされた顔には、挑戦的な笑みが浮かんでいた。


「あれ?」
スタジオに入ってきた貴島が声を上げた。声に反応したキョーコが振り向き、しっかり頭を下げて「おはようございます」と挨拶をする。
「おはよう。今日はだいぶ落ち着いてるね」
「あの…ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした…」
キョーコは顔をしかめて再び頭を下げた。
「いやぁ、迷惑なんてかかってないよ。演技はしっかりこなしてるんだから、撮影にも影響してないし。さすが京子ちゃんもプロだね」
「とは言っても、皆さんにも色々とご心配いただいて…すみませんでした」
貴島はぽんぽんとキョーコの頭を叩くと、顔を覗き込んで笑いかけた。
「で、もう大丈夫になったの?」
「はい、だいぶ心の整理もつきました!」
キョーコは朗らかな笑顔を見せる。
「そりゃよかった」
貴島が促し、2人はセットから少し離れた場所に置かれた控用のテーブルについた。

「それにしても、よっぽどのことだったんだねぇ。落ち着くまでに…何日かかったっけ?」
「ええと…今日で4日目でしょうか」
「酒の席での失敗、としか聞いてないけどさ、そんなに飲んじゃったの?」
「そうですね…記憶はしっかりあるんですけど、頭痛かったですし足もふらついてましたし」
「京子ちゃん、飲むとどんなになるのか見てみたいなぁ。今度飲みに行こうよ」
「やめてくださいよ…当分お酒はやめておきます」
キョーコは顔をしかめて本当に嫌そうな顔をした。

キョーコは蓮の元を逃げ出した夜、そのまま駅まで全力疾走し、ちょうどホームにいた電車に駆け込んだ。
扉が閉まった瞬間、あまりの息苦しさと頭の痛さにうずくまってしまい、座席に座っていた女性に席を譲ってもらって何とか家まで帰り着いたのだ。帰り道でも帰ってからも、自分のしでかした事のひどさにめまいがしていた。

どうしようどうしよう…敦賀さん、呆れたわよね。それとも怒った?
こんなことが原因で百瀬さんにも迷惑かけたかも…ううう、謝りたいけど謝れないし…
お酒のせい?お酒のせいよね?ああでもどうして?だってなんで私…つ、つ、敦賀さんにキスなんて…?ファーストキスだったのに… 初めてのキスは本当に好きな人と、と思ってはいたけど…普通はあんなじゃないわよね。酔っぱらってカラオケボックスで、しかも不意打ちで強引になんて……うああああ、時間が戻せたらいいのにぃ…

一晩中眠れずにベッドの上でのたうちまわり、翌日はひどい顔でドラマ撮影に参加した。
あんまりにもどんよりと沈んでいたものだから、共演者やスタッフにも気を遣わせてしまったし、たまに「はうぅあ!」などと奇声を上げるものだから、監督から心配されて危うく休みを取らされるところだった。
なんとか撮影本番はしっかり普段通りにやり遂げたのでその事態は回避することができたのだが。

こういう時に限ってドラマ撮影が連日のように入っている。
オフィスのセットで貴島の顔を見て明日香になりきると、本番中はよくてもその前後でどうしてもバイトの日々を思い出してしまい、それはすなわち蓮の顔を思い出すことにつながり…
挙動不審の原因を、キョーコは「酒の席で酔いすぎて失態を演じてしまったため」としか周りには伝えていなかった。事務所でばったり顔を合わせた奏江にすら、本当のことは言えていない。
なんとか自分の内側で気持ちを鎮め、4日経ってようやく、キョーコはなんとか普段通りに振る舞うことができるようになってきていた。


貴島はキョーコの表情を見て声を出して笑うと、ふ、とキョーコの目を見つめた。

「俺はさ、てっきり好きだったって相手にぶつかって、玉砕したのかと思ったよ」
キョーコはそのままぴきりと数秒間固まる。

あれ、図星だったか。本当に分かりやすいな…

貴島は内心おかしく思いながらも気がつかない振りで言葉を続ける。
「んじゃ、回復したところでさ、嫌なこと全部まとめて忘れるためにも…」
はい、と貴島はキョーコの前に小さく細長い、包装された箱を置いた。キョーコは首をかしげて貴島を見る。
「なんですか?これ」
「開けてみて♪」
貴島は机に肘をついてキョーコの方をにこにこと見ている。キョーコはとりあえず言われるままに箱の包装紙を剥がした。中からはポップな色合いの透明な箱が出てくる。箱の中にはカラフルな丸い物がいくつか入っていた。
「これは…マカロンですか?」
「そ!可愛いだろー?」
「確かにすごく可愛いですけど…なぜ?」
「そりゃー、嫌なことあった時は甘いものじゃない?可愛ければなおさら良し、って思わない?」

キョーコは思わず笑ってしまった。
「貴島さんって…なんだか女の子みたいなこと言いますね」
「そうかな?この見た目で女の子っぽいって言われるのもなんか気持ち悪くないかい?」
「ああ、ごめんなさい!そういうことでは…」
「はは、分かってるって。とにかくほら、食べてみて」

はい、と返事をするとキョーコは箱の蓋を開けた。赤いマカロンをつまんで口に入れると、甘酸っぱい味が口いっぱいに広がる。
「どう?」
身を乗り出して聞いてくる貴島に、再びキョーコは笑う。
「ふふ。すごく美味しいです。ありがとうございます…ほんとに、元気になりますね」
キョーコが見せた少し恥ずかしそうな笑みに貴島は一瞬見惚れた。
「…そうだろ?このお店さ、最近評判らしいんだよ」
「詳しいですね、貴島さん」
「俺結構スイーツ好きなんだよね。美味しいものリサーチは怠らないよ?こうやって、京子ちゃんを元気にすることもできるしね」
貴島の言葉に笑いながらキョーコは内心で思う。

貴島さんは甘いもの好きなんだ…敦賀さんはそれほど得意ではないって言ってたっけ…?

思考がすぐに蓮の方へつながってしまうのはまだどうしようもないようだ。
でも、もうどれほど思い出しても、切なくても苦しくても、自分がしでかしてしまった事を思うと会う気にはなれない。むしろ、取り返しのつかないことをしてしまって、よかったのかもしれない。

こうやって、会えない時間が重なれば…大丈夫よね、キョーコ。

「元気になったら、今度は俺とご飯食べに行こうよ」
キョーコがはっと思考から抜け出して貴島の顔を見ると、予想外に貴島の顔は真剣だった。
「ご飯、ですか?」
「うん。俺が見た限り、京子ちゃんさ、あんまり男と付き合った経験ないだろ」
「!い、いやまあ、ないですけど…」
「だろ?だから、いろんな男と…付き会わなくても接してさ、男みる目を磨いた方がいいぜ」
「男を見る目ですか?」
「そ。本当に京子ちゃんを大事にしてくれる男を見極める目、だな。ほらだから、その第一歩としてさ」
くすりとキョーコは笑った。
「ご一緒にご飯、ですか?」
「そういうこと。さっそく今日の撮影後なんて、どう?」
更に身を乗り出してくる貴島に少し気圧されながら、キョーコは上を仰いで少し考えた。
「今日は…撮影が終わったら事務所に戻らないといけないので…ごめんなさい、無理ですねえ」
「くーーーっ。そうかあ。んじゃ、次だな。次は絶対!」

キョーコは笑いながら思った。

貴島さん…私の事、元気づけてくれてるんだ…いい人だな。
誰かとつきあうとか、まだ今は全然考えられないけど…ご飯くらいなら、いいかな?

キョーコは必死だった。
早く蓮とのことを思い出にして、この辛い気持ちも懐かしく思い出せるようになりたいと。



あれ?貴島さんのターン?

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