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薔薇の素顔 (1)

…身の程知らずにもパラレルを始めてみました。
パラレル苦手な方はご注意ください。

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「蓮、お前この店知ってた?」
「いや、ここは初めて通りましたね」
「住所見て近いなと思ってはいたんだけど、ホントに近いよなあ」
「歩いてこられますね。あまり家の近くを歩くこともないので、知らなくてもおかしくはないですけど」

若手俳優No.1と言われる敦賀蓮とそのマネージャーである社倖一は並んで立って話をしていた。
二人の視線の先にはマンションがあった。正確には、マンションの建物の1階にあるカフェがあった。
10階建てのマンションは落ち着いた茶色の外壁を持ち、そのカフェもマンションの雰囲気を壊さない控えめなたずまいであった。
表側はガラス張りながら、敷地と道路の境目には低めの木製ラティスが置かれ、そこにバラのつたが絡まって目隠しとなっている。ラティスとガラスの間にはスペースがあり、テラス席になっているようだった。

「もう準備が始まってるみたいだし、とりあえず行こうか」
社に促され、蓮は扉を開けてカフェの店内へと足を踏み入れた。
店内のフローリングやテーブルセットはダークブラウンで統一され、白い壁と相まって落ち着いたクラシックな雰囲気を出している。が、ざわざわと数人の人が立ち働き、カメラの機材やらレフ板やらが置かれているため、やや雑然としていた。

二人の姿を認めて、奥から女性が小走りで出てきた。
「おはようございます!敦賀さん、社さん。お早いですね」
「おはようございます、福田さん。今日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、お願いします!」
福田と呼ばれた女性は、パンツスーツを着こなしスマートな印象だった。さすが、女性ファッション誌の編集者である。
「準備が出来るまで、申し訳ありませんが少しお待ちいただけますか?」と、蓮と社をカウンターの方へ誘導した。
カウンターの中には中年男性が1人、黒いエプロンをつけて準備をしている。
「こちらがこのお店のマスターの椹さんです」
「おはようございます、敦賀です、今日はよろしくお願いいたします。」
「おお、はじめまして。…いや、敦賀さん、テレビで見るよりいい男ですなぁ…」
椹はその人懐っこそうな顔をほころばせて蓮を見た。
「いや…ありがとうございます。今日は定休日と聞いていますのに、わざわざすみません」
「いやいや、貴島君のたっての願いじゃ、無碍には断れませんしね。こうして直に敦賀さんにもお会いできて、こちらの方が嬉しいくらいですよ」
「このお店でっていうの、貴島さんからのリクエストなんですよ」
福田が口をはさむ。今日は、俳優である貴島との仕事で蓮と社はここを訪れていたのであった。
「へぇ…貴島君がね」

そこへ、噂の主がやってきた。
「おはよーございます!福田さん、今日はよろしく。敦賀君、やっぱり早いね、現場入りが」
貴島は軽い調子で蓮の肩をぽんぽんと叩きながら挨拶をした。
「おはようございます、貴島さん、今日はよろしくお願いいたします!」
「おはようございます、久しぶりだね、貴島君」

「マスター、久しぶりです! すみませんね、今日は無理言って」
「なに、問題ないよ。俺も敦賀さんに会えて役得だね」
軽いやり取りが、二人が実際に仲の良いことを物語っている。
こんな住宅街の中のカフェに通ってるのか、と蓮は少々意外に思った。ふと見ると、社も同じようなことを考えているらしい表情だ。
マスターとの雑談を終えると、準備を見守っている蓮のところに貴島がやってきた。
「今日は『いい男対談』だってねぇ。敦賀君と並んでいい男と言われるのは光栄だな」
「はは、何を話せばいいのかね、貴島君と俺でって不思議な感じだよ」
「まあねぇ‥どうせ女性誌だから恋愛関係に持っていかれるんだろうけどね」
ん~~、と伸びをしながら貴島は答える。蓮は先ほどから疑問に思っていたことを尋ねてみた。
「貴島君、君、このカフェに通ってるのか?」
「あーーー、まあ、ちょっと前までは割と頻繁に、ね…」
なぜか少し目を泳がせながら曖昧に答える貴島。ちょっとだけ考えると、蓮の方に顔を寄せてこっそり囁いた。
「この近くのマンションに来ることがあって、で、まあ、朝、帰りがけにコーヒー飲んで帰ってたってことで」
なるほど、と蓮は納得した。貴島らしい理由で、非常に分かりやすい。
「ちょっと前までってことは…」
「野暮なこと聞くなよーー。でもまあ、この店気に入ってるから最近でもたまに顔出すんだ。コーヒーはうまいし、それに…」
貴島は店内をぐるっと見回す。そして首をかしげ、マスターに声をかけた。
「マスター!今日、キョーコちゃんは?」
「ああ、今裏で準備してもらってるよ。そろそろ来るだろう」

『キョーコちゃん』ねぇ…と、蓮は苦笑した。
貴島が女性好きなのは有名だ。特に、色気のある派手目の女性を好み、業界人だろうが一般人だろうが好みのタイプには声をかけることを信条としているくらいだ。貴島がうきうきしているところを見ると、その『キョーコちゃん』とは貴島の好みどストライクの女性なのだろう。

「そろそろ、準備できましたので打ち合わせをお願いします」
福田から声がかかり、貴島と蓮は返事をして対談用にセットされたテーブルへと向かった。
カウンターに背を向けて二人は座ったため、後ろの様子を伺うことはできなかったのだが、やがてマスターに話しかけている女性の声が聞こえてきた。貴島はそちらにちらりと視線を向けていたが、さすがに仕事は優先させるらしく、そのまま打ち合わせを続けた。

やがて、打ち合わせが終わると、一人の女性がグラスを載せたトレイを手に、テーブルに近づいてきた。
「キョーコちゃ~~ん!元気だった?俺が来なくて寂しくなかった?」
貴島が勢いよく話しかける。
「いらっしゃいませ、貴島さん。相変わらずですね」
苦笑しながら女性はテーブルに水の入ったグラスを置いていく。
「敦賀君、この子、この店の看板娘のキョーコちゃん。俺のお気に入り♪」
「はじめまして、敦賀蓮さん。いつも一方的にテレビで拝見させていただいております」
礼儀正しくきれいなお辞儀をした女性は、クールな美人だった。茶色のショートヘアをワックスでまとめ、ピンクのグロスが艶めかしい。大きな瞳は意思の強そうな光が光っていたが、顔には営業用の柔らかい笑みをたたえている。
華奢な体には白いシャツと黒いパンツ、黒い短めのカフェエプロンをまとっていて、はっと人目を引くようなオーラを放っていた。

「はじめまして。そうか、貴島君は君を目当てにここに通っているんだね」
「あら、そうでしょうか?その割には最近ちっとも私がいるときに来ていただけてないみたいですけど」
貴島を見やる目つきはあくまでクールだ。
「だってキョーコちゃん、午後にいることほとんどないじゃないか。なかなか朝は来られなくてね」
「以前は開店と同時においででしたけどね」
ふふ、と笑うとキョーコはカウンターへ戻っていった。

キョーコの後ろ姿を見ながら、蓮は微妙な違和感を感じていた。役者としての勘が、何かを訴えかけている気がする。
それが何なのかはっきり分からなくて、蓮はカウンターの方へ視線をやったまま少し考え込んでいた。
「な?な?いいだろーー、彼女。冷たくてさ、全然なびいてくれないんだよ」
「……」
黙っていると、貴島が蓮の顔を覗き込んできた。
「なに?キョーコちゃんに見とれちゃった?言っとくけど俺が先に目をつけたんだからな。今日だって、わざわざマスターに話付けてキョーコちゃんにいてもらってるんだよ、涙ぐましいだろ?」
「ずいぶんと気に入ってるんだね」
「だって彼女、さらっといなす割に、言葉づかいも立ち振る舞いも洗練されてて、接客がすごく丁寧なんだよ。なんかこう、謎が多くてもっと知りたい気分にさせられるんだよね~」
それは確かに、と蓮も思った。見た目のままの女性ではないようだな、と先ほど感じた違和感の正体に少し近づいた気がする。

「さて、それでは始めますね。お話をしながら自然な感じで写真も撮っていきますので、よろしくお願いします!」
福田がICレコーダーの録音ボタンを押しながら呼びかけた。
貴島、蓮ともに瞬時に仕事モードに切り替わり、『いい男対談』が始まったのだった。

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