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社外恋愛 (13) ~決意~


こんばんは!

最近、「薔薇の素顔」や「君の魔法」などをまとめ読みして一つずつ拍手してくださる方がたくさんいらっしゃって、とても嬉しいです~~~。ありがとうございますm(__)m

しばらく長編にかかりっきりになっているので、たまには短編も挟みたいところですが…

でも本日は 社外恋愛 続きです~~






キョーコが京子の仕事に完全復帰してから2週間が過ぎた頃。
その日もキョーコはドラマ撮影のため、スタジオのセットの側にいた。パイプ椅子に座り、台本を確認しながら出番を待つ。ウィッグの長い髪はハーフトップにしてバレッタで留められ、白いブラウスに女性らしい印象のベージュのジャケットとスカートを着ている。
撮影は順調に進んでいた。
初回は30分拡大版の1時間半枠で放映されるらしいが、既に大半が撮り終わり、セットの都合などによって部分的に第2話、3話の撮影もはさまれてきている。

キョーコはセット上で忙しく立ち働くスタッフたちの姿を眺めながら、小さくため息をついた。キョーコの手元に来た台本によると、4話の辺りから、物語は大きく動き始めるようだ。『明日香』と上司である『峰岸』の関係も変わってくる。

今の私に、できるのかしら…

ごちゃごちゃと頭を占拠する考えを振り払うようにぶんぶんと首を振ると、驚いたような声が上から降ってきた。
「おいおい、京子ちゃん、大丈夫?」
キョーコが顔を上げると、貴島のにこやかな笑顔がそこにあった。
「や、おはよう」
「おはようございます!」
キョーコは慌てて立ち上がって挨拶をした。衣装であるスーツを着ている貴島は、手近な椅子を引き寄せややキョーコの方を向いて座る。
「なんか考え事?大丈夫だよ、京子ちゃんすっかり明日香が憑いてるから」
「はあ…ありがとうございます。ちょっと、先の展開を考えていて」
「ああ、この間もらった台本、4話目だっけ?京子ちゃんの本領発揮ってところだよね~」

貴島は、明日香のビジュアル変化について言っているらしい。
ドラマの中で、明日香は社内プロジェクトに参加するのだが、自分に自信が持てないまま臨んだプレゼンでぼろぼろにされてしまう。峰岸に叱咤され、自分を変えることを決意した明日香は、まずは見た目からと、がらりとその服装やメイクを変えるのだ。そしてそこから、明日香の意識改革、そして猛進撃がスタートする。

実にドラマらしい演出だが、そのためにキョーコが抜擢された部分も大きい。ビジュアル変化に関しては別人だと思われないギリギリのラインでの変身プランがキョーコとスタイリストの間で固まりつつある。それについて、キョーコ自身は大きな問題にはならないと思っていた。仕事に対して引っ込み思案から前向きに変わる心理だって理解ができる。残る問題は…

キョーコがまた考え込んでいると、その様子を黙って眺めていた貴島が唐突に声をかけてきた。
「京子ちゃん、今好きな人いるの?」
ほえ?と間抜けな声を出すと、キョーコは声に負けない間抜け面で貴島を見た。
「なななな、なんでまたいきなりそんな?」
「んん?なんとなくそう思ったんだけどさー」
「そんな人、いませんよ?」
平静を取り繕ってキョーコは笑顔で返事をする。途端ににやりと貴島が笑った。
「ふうん…京子ちゃんって分かりやすいな。…だからか。峰岸を見る目がたまにびっくりするくらい切ないのは」
「だから、何の話でしょう?」
「俺の目には隠せないってこと。京子ちゃん、本番中の切ない目なら芝居だって言い訳できるけど……カットがかかった後の目は、違うだろう?」
キョーコの表情がぴきりと固まる。
「やっぱり図星か。できれば俺のこと見てそう思ってくれてたら嬉しいんだけど、どうもそうじゃなさそうだしなぁ」
貴島はあくまで軽い口調で続ける。椅子の背もたれに片手をかけ、言いながらチラリとキョーコの様子を伺った。

「更に言うなら、そうだな、結構辛い恋愛しちゃってる?」
キョーコは虚ろな目でしばらく黙っていたが、やがてぽつりと口を開いた。
「いいえ……もう、終わったことです」
「なぁーんだ、引きずっちゃってるってことか。手ひどく振られちゃったの?」
「……いえ、ふられる以前の問題で…」
「えー、もったいない。折角だったらダメもとでぶつかってみればよかったのに」

あくまで軽く繰り出される貴島の言葉に、キョーコは乗せられるように答えていた。
「だって…その人には大切な人がいて……もう会わないし、思い出にしちゃおうと思って」
あるよね、そういうの、と貴島はうんうん頷きながら何か考える素振りをしていたが、キョーコに問いかけた。
「もう、ほんとに諦めちゃうの?」
「そう、思ってるんですけど」
「なかなか吹っ切れない?」
「…そうですね……情けない話ですけど」
キョーコは困った顔で答えた。忘れたいのは事実。でも忘れるどころかどんどんその存在が心の中で大きくなっているのも事実だ。

「忘れよう忘れようと思うと忘れられないもんだよね~」
貴島は励ますようにキョーコの肩をぽんぽんと叩いて、思いついたように言った。
「前に俺、聞いたんだけどさ。男と女じゃ過去の恋人の扱いが違うらしいよ」
「え?どう違うんですか?」
「女は上書き消去なんだって。新しい恋人ができたら、古い恋人の記憶を全部それで上書きしちゃうの。で、男は過去の彼女ずらーっと横に並べて全部保存しちゃう」
貴島は右腕を左から右へと大きく振って見せた。

キョーコはそれを聞いてくすくすと笑う。
「じゃあ、貴島さんなんて心の中にいっぱい並んでそうですね」
「そう、それはもう並びきれないくらい……って、京子ちゃん、案外言うなあ」
2人は顔を見合わせて笑った。
「だからさ、特に女の子は、辛い恋愛しちゃったら新しい恋愛で上書きするといいみたいだよ」

新しい恋愛…

言われてみれば、蓮が心に住み着いてから、キョーコは尚のことを考えることが極端に減った気がする。既に愛しい気持ちなどはなかったが、憎しみの気持ちすら薄れてきている。

他の人を好きになれば、あの人のことを…忘れられる?

忘れたくない、と思う気持ちもある。だが、こんな気持ちを抱えていてもこの先何も進展はありえない。だとしたら、忘れるしかないのだろうか。
そもそも、キョーコは蓮の事をさほど知らない。名前と勤め先と年齢と。誕生日だって知らないし、血液型も、好きなものも何も。それなのに、何気ない表情やしぐさが脳裏にこびりついて離れない。こんな状態が、いつか本当に思い出に変わって行くのだろうか。

「だからさ、俺みたいの、どう?いきなり付き合うまでいかなくてもさ、恋愛対象に入れてくれたら、楽しいと思うんだけど」
貴島の言葉も頭に入らず、生返事をしながら、キョーコはぐるぐると考え続けていた。


撮影が終わり、キョーコは楽屋へと戻ってきた。

あのオフィスのセットとか雰囲気が妙にバイト先の環境に似てるからよくないのよね!

キョーコの憤りはやや、八つ当たりに近い。
鏡の前に座り、メイクを落とそうとしたところで、カバンの中に入れてある携帯のランプがチカチカと点滅していることに気がついた。取り出して開いてみると、どうやら撮影中に着信があって留守番電話のメッセージが入っているようだ。
発信者番号は通知されているが知らない番号だ。キョーコは留守番電話を聞いてみることにした。

『あ、もしもし!ホッヅシステムズの社です!キョーコちゃん、元気?打ち上げの日程が決まったのでお知らせします。…』

メッセージは社からのものだった。

『……一応出欠分かったら連絡ください。会社の番号にかけてくれてもいいし、この電話俺の携帯からかけてるから、折り返しの電話でも大丈夫です。石井さんと山口さんも参加するそうなので、ぜひ来てくれたら嬉しいです。よろしくお願いしまーす』

キョーコは社が話していた日付をぶつぶつと口に出しながら手帳をめくる。ここしばらく仕事がみっちり詰まっていたはずだから、参加は難しいかもしれない。そして、参加したら嫌でもまた蓮の顔を見ることになる。
キョーコは蓮に会いたいような、会いたくないような、複雑な気持ちを抱えていた。

ええい、考えてもしょうがないわ!
スケジュールが空いてたら敦賀さんの見おさめ!空いてなかったら、もうきっぱり思い切れってことよね!

キョーコが目的のページに辿りつくと…なぜかその日は夕方からの雑誌取材が最後の仕事だった。前の日も後の日も夜まで仕事が詰まっているというのに、なぜここだけ?

会って…けじめつけて来いってこと…?

キョーコはしばらく手帳のページを穴があくほど見つめていたが、やがて決意したようにひとつ頷くと、手帳に『19時 打ち上げ』と書き込み、携帯のリダイヤルを呼び出した。


「よかった~~。キョーコちゃんも打ち上げ参加するって」
社は携帯の通話を終えると、満面の笑みでそう蓮に告げた。
「え、社さん最上さんに声かけたんですか?」
「うん。だってキョーコちゃんだって関係者じゃないか」
「いや、それはそうなんですけど……連絡先知ってたんですか」
「ああ、いつもバイトさんと派遣さんは、緊急時のために携帯の番号聞いてるよ。バイト終われば破棄するけど、今回は一応打ち上げの連絡するよってことも伝えてあるぞ」

そうですか、と蓮は引き下がった。すると社がにやにやと笑いながら尋ねる。
「なんだよ、キョーコちゃんの連絡先欲しかったのか?光も欲しがってたけど、これは私的利用は厳禁だからな」
別に欲しい訳じゃないです、と答えながら蓮は考えた。

そうか…打ち上げ、来るのか……
忙しいんじゃないのか?

キョーコが去ってから、背中が妙にさびしい気がしていた。そして、携帯のメール着信を頻繁に気にしている自分がいる。

打ち上げで数時間会うことができたからって何が変わる訳でもあるまいし…

頭ではそう思うものの、蓮はなんとなくソワソワする気持ちを覚えたのであった。


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コメントコメント


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やっと

私生活が落ち着いたのできてみたら、素敵なお話が連載されていました。一気に引き込まれてしまい2時間かけて読んでしまいました。
新たな展開の章が始まりそうですね。続きも楽しみです。

美音 | URL | 2013/02/01 (Fri) 21:19 [編集]


Re: やっと

> 美音様

> 私生活が落ち着いたのできてみたら、素敵なお話が連載されていました。一気に引き込まれてしまい2時間かけて読んでしまいました。
> 新たな展開の章が始まりそうですね。続きも楽しみです。

またご訪問いただきありがとうございます!
一気に読んでいただけて嬉しいです。
ここまで抑え目にきましたが、ここから展開できるよう頑張りますのでよろしくお願いします!

ぞうはな | URL | 2013/02/01 (Fri) 22:44 [編集]