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社外恋愛 (11) ~計画~


こんばんはー!

昨日は更新できそう、と思っていたら、なんとPCを占拠されてしまいました。
少し間があきましたが、更新でーす。





「キョーコちゃん、キョーコちゃん?」
自分の名前を呼ぶ声に、キョーコはハッと我に返った。うっかり思考の内側に入り込んでいたようだ。また変なことをしたりぶつぶつ言ったりしなかっただろうか。キョーコは慌てて返事をする。
「は、ごめんなさい!なんでしょう?」
「ううん…なんかものすごーく険しい顔してたから、どうしたのかと思って…」
くすくす笑いながら山口が指摘する。

キョーコは石井と山口と3人で昼食をとっているところだった。2人ともインフルエンザから復活して出勤してきている。
「ああっ。すみません。ちょっと昨日腹の立つことがあってついつい考え込んじゃってました」
「あらー。そういうの溜め込むとストレスになるよーー。吐き出さないと」
山口が眉間にしわを寄せながら答える。すると、石井が何か思い出したようににやにやしながらキョーコに尋ねた。
「ふふ、それって、彼氏と喧嘩したとか?午前中、キョーコちゃんの携帯何回も鳴ってたけど彼氏からじゃないの?」

キョーコの顔が再び険しくなった。
「彼氏なんていません」
「あれ。でも、電話の主と不機嫌の元は一緒っぽいね」
「う…」
すかさず石井に看破されて、思わず口ごもる。いや、実際にはキョーコは電話の主が誰だか分かってはいない。何せ全て非通知設定でかかってくるし、キョーコはまだ1回も電話を取ってない。しかし、事務所からの電話なら必ずメッセージが残されているはずだし、朝、椹と話は済んでいるのでそれほど緊急の用もないはずだ。となると、思いつく主は1人しかいない。

どーせまた、LMEの出したコメントに対してのいちゃもんとかなんでしょうけど…文句言いたいのはこっちだっての!

キョーコの所属するLMEおよび尚の所属するアカトキ双方が、午前中の早い時点で昨夜の写真騒動に対してコメントを出していた。両方ともが「2人に交際の事実はない」という主旨のコメントであったため、事態は表面的には収束の方向だ。
LME側からはキョーコ本人のコメントとして、

『昨夜不破さんのマネージャーさんのご好意で送っていただいた事は事実ですが、不破さんとの個人的なお付き合いは一切ありません。不破さんのファンの方々にも不快な思いをさせてしまいまして大変申し訳ありません。今後、誤解を生じるような行動は慎むよう、気を引き締めたいと思います。ご迷惑をおかけいたしました。』

と事務所のコメントに付け加えられた形でマスコミ各所にファックスされた。ちゃんと交際を否定したというのに何が不満だというのだあの男は。しかし、たとえ電話一本であってももう接触はすまいとキョーコは心に誓った。

「そういえばさ」
石井はますます深くなるキョーコの眉間のしわに焦って、話題を変えた。
「来週バレンタインデーだけど、キョーコちゃん誰かにあげるの?」
「あーー…」
そういえば昨夜尚に言われてその存在を思い出したのだった。夜寝るまでは今年はどうしようかと考えていたのに、今朝になってすっかり忘れ去っていた。
「石井さんと山口さんはもう決めてるんですか?」
「うん、私は一応彼氏だけ」
「私も彼氏と父親」
「げっ。お父さんにあげてるの?」
「だってすねるんだもん」

2人の会話を聞きながら、そういえば2人とも恋人がいるんだっけ、とキョーコは思った。
「キョーコちゃんは彼氏はいなくてもあげたい人がいたりはしないの?」
「うう~ん、残念ながらそう言う人もいませんね。去年も、お仕事でお世話になった人にお渡ししただけでした」
「あああ、キョーコちゃん若いのにぃ。だめだよトキメキを忘れちゃ」
「石井さんとそれほど年変わりませんよ」

和やかに会話を交わしながらキョーコは思いついていた。

そうか!いつも撮影のスタッフさんとか共演者にチョコ渡してるけど…バイトでお世話になってる人に渡したっていいはずよね。山口さんと石井さんと社さんと…敦賀さんと……


来週、バレンタインデーが終わればキョーコのバイトもすぐに終わりになる。たくさんお世話になって面倒を見てもらったお礼の意味をこめて、チョコを作って渡そう。

それからそれから……。
自分の気持ちを伝えたり、何か行動を起こすことはできないけど、せめて、温かくも苦しい、嬉しいけど切ない、この気持ちを抱かせてくれた敦賀さんに対して、自分の中のけじめとして、ほんの少しだけ気持ちをこめたチョコを渡すだけなら、気づかれなければ、いいよね……?

早速キョーコはバレンタインに向けた計画を頭の中で組み始めた。


キョーコの決意や蓮の戸惑いをよそに、時間は平然と過ぎていく。キョーコのバイトはその3/4が終わっていた。
すっかり作業にも慣れたキョーコは元々の頭の回転のよさや鋭い観察力、記憶力を存分に発揮していた。与えられたテストをこなすだけでは飽き足らず、手順書の記述の矛盾や不足点を指摘し、操作の違和感までも率直に社や蓮に伝えるようになってきている。

「ああ、本当に惜しいなあ」
キョーコが帰宅した後のオフィスで、社はコーヒーを片手にぼやいた。
「何がですか?」
「んん~?キョーコちゃんのこと」
蓮の問いに対して社がコーヒーをすすりながら答える。蓮は苦笑して社を見た。
「社さんここのところ、気がつけばそう言ってますね」
「だってさ~~、蓮お前、3週間であそこまで進化した子見たことあるか?ああ、そうか、お前は自分が何でもできすぎるから感じないのか」
「変な納得の仕方はやめてくださいよ。俺だって、最上さんの仕事っぷりには十分驚かされてます」
「そうか…あ~~~、常駐は無理でも、次バージョンのリリースのときも来てくれないかなあ。仕事は速いし性格はいいし…」
「無理強いしちゃいけませんよ、社さん。最上さんにだって都合ってものがあるんですから」

社はコーヒーをデスクに置くと頭の後ろで両手を組み、恨みがましい目で蓮を見る。
「お前はクールだよな~~。キョーコちゃんとかなり仲良くなった方だと思うのに、全然寂しいとかそういう気持ちもないのかよ」
蓮はふ、と目を伏せてしばらく黙ると口を開いた。
「そりゃあ…ない訳ないですよ。かといって…こちらの都合を押し付けるわけにはいかないじゃないですか。最上さんには最上さんの生活と世界があるんですよ」
「何だお前それ、珍しい物言いだな。まるで何か諦めちゃってるオッサンみたいだぞ」
悟りを開いた訳でもあるまいし、と社は笑う。


ああそうか、俺は…諦めてるのか。

社の言葉に、蓮は素直に納得した。
キョーコが京子であるということを確信してからも、蓮はますますキョーコに興味を引かれる自分を認識していた。最近ではその屈託ない表情に引き込まれてしまいそうなことすらある。それでも蓮は、『相手はそれを商売としているタレントだからだ』などと後付けの理由を懸命に探して、自分の気持ちを落ち着かせていた。

蓮が自分を落ち着けようとセーブする理由はもう一つあった。
それは、キョーコの蓮に対する態度だ。キョーコは蓮と話をするとき、恥らうような笑みを見せることがある。それがまるで自分に向けられる好意のように感じられて、引き寄せられるように一歩近づこうとすると、キョーコはハッと気がついたように一歩引くのだ。常に一定の距離を保たれるような、そんな印象を受ける。自分がどう思われているのかはっきり分からず、そして引かれるのは少しショックなので、近づくことが躊躇われるのだ。

一方ではもっと相手を知りたいと、知って欲しいと切望する自分がいて。
もう一方では住む世界が違いすぎるのだと諦めようとする自分がいる。

つまり俺は、がむしゃらに突っ込んでいって自分が傷つきたくないだけなんだな…

卑怯者だと、意気地がないと心の中で叫ぶ声があっても、とにかくあと1週間、その声を聞かなかった振りで通り過ぎようと思う、蓮の心の壁は厚かった。


あっという間にバイトが終わる、という焦りは蓮の中にもキョーコの中にもあったのだが、2人の焦りを無視するかのように時は非情に過ぎ去っていった。
そして、バレンタインデー当日。

蓮はいつも通り早めの時間に出社して、席についた。
いつも通りPCを立ち上げて来がけに買ってきた新聞を読もうかと広げると、オフィスのドアががちゃりと開く。この時間に出社する人間は大体決まった顔ぶれだが、そこから現れたのは予想とは違うシルエットだった。

蓮は動揺を隠して近づいてくる人物に声をかけた。
「やあおはよう、最上さん。随分早いね」
「おはようございます、敦賀さん。ええ、ちょっと…」
外が寒かったからか、頬を少し赤くしてキョーコは笑顔で答える。蓮の後ろの席でがさごそと仕度をしている音が聞こえていたかと思うと、やがておずおずと声がかけられた。
「あのぉ、敦賀さん…少しよろしいですか?」
意識を半分以上後ろに取られながら新聞に目を走らせていた蓮はすぐさま振り向いて答える。
「うん、大丈夫だよ。どうしたの?」

キョーコは椅子に座ったままキャスターを転がしてずりずりと蓮に近づいてきた。それから背中を丸めて隠れるようにしながら、きょろりと周りの様子を伺う。近くに人がいないことを確認してからキョーコは意を決して話しかけた。
「ええっと、ですね…あの…明日でバイトが終わりなんですけど、今日ちょうどバレンタインデーなので……皆さんにお世話になったお礼をしたくて、チョコを作ったんですけど……」
言いながら椅子の背もたれの陰に持っていた可愛らしいリボン付きの袋を差し出す。
「ご迷惑でなければ…ぜひ召し上がっていただきたいと思いまして…」
キョーコの顔は先ほどよりもっと赤く、蓮の表情を伺うように下から緊張した表情で見上げてくる。

蓮はキョーコの顔を見つめたまま反射的に手を出してキョーコの差し出した袋を受け取ると、半ば呆然として答えた。
「え…?あ、ああ…ありがとう…」
「あ、あのっ。彼女さんに誤解されたら困るんですけど、ほんとに、お世話になったお礼ですので!!」
「え?彼女…?」
「はい、あの、だからご迷惑だったら…」
蓮は はっと我に返った。
「ああ、いや、迷惑なんてそんなことないし、本当に嬉しいよ。ありがとう」
それからキョーコの言葉を反芻する。
「…わざわざ手作りしてくれたの?」
キョーコは顔を赤くしたまま恥ずかしそうに頭をかいた。
「すみませんっ!あの、市販のものの方が美味しいと思うんですけど、気がついたら作るって方に頭がいっちゃってて…」
「ああ、謝らないで。ううん、最上さんは料理なんかも上手そうだし、きっと美味しいだろうね。ありがとう、喜んでいただくよ」

キョーコはほっと安堵の息を吐いたが、すぐにはっと周りをきょろきょろ見回すと、こそりと蓮に小声で言った。
「あのほんと、誤解の種になるのも困るので、し、しまって下さい!」
リボンを解こうとしていた蓮は「え?」と顔を上げた。
「あ、後で…あとでこっそり食べていただければと…!!!」
キョーコの顔があまりに思いつめた真剣な顔なので、蓮は袋を開けるのを辞めるとキョーコに笑いかけた。
「別に誤解されるってこともないとは思うけど、分かったよ。あとでこっそりいただきます」
キョーコはホッとしたように笑顔をほころばせると、出勤してきた人間に気がついて慌てて椅子ごと戻っていった。

キョーコは自分のデスクに戻って、心の中で小さくガッツポーズをしていた。喜びでほにゃりと笑みが浮かぶ。

受け取ってもらえてよかったー!とりあえず迷惑だとか受け取れないとかは言われないで済んだわ!!ちょっと緊張しちゃったけど、不自然じゃなかったかな・・・変じゃなかったわよね?

一方、蓮は言われたとおりに机の引き出しを開け、カバンにチョコの袋をそっとしまう。

……びっくりした…まさか、このタイミングでチョコがくるとは思ってなかった…
それにしても、こっそり食べろって言われると、逆になんだか含みがあるみたいだ…

ふふ、と笑みがこぼれてしまい、慌てて片手で頬をさすって顔を引き締める。
背中合わせで懸命に緩んだ顔をなんとかとりつくろう、2人だった。


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