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社外恋愛 (10) ~憤慨~


こんばんは。
2日に1回の更新ペースになりつつあります…

お仕事が山のようです。
サボっていた自分が悪いといえば悪いのですが、そう言う時に限って細かなお仕事が積みあがってきたり、なかなかスムーズに進まなかったり。
1日モニタにかじりついているので肩こりもすごいです。

温泉、行きたいなあ(<- 逃避)

では、本日の更新でーす。





なにやらやかましい電子音が聞こえる。
キョーコはベッドから少し体を起こすと、ヘッドボードにある目覚まし時計をまさぐる。が、いくらボタンを押しても音はやまない。「?」と思ったところでようやく意識が覚醒して、鳴っているのが目覚まし時計ではなくて携帯電話だということに気がついた。
慌ててベッドから下りると、テーブルに置かれた携帯を手にとって開き、表示された発信者名に驚きつつ通話ボタンを押す。

「もしもし!」
『ああ、やっと出た!!ちょっとあんた、どうなってんのよ!』
時刻はまだ目覚ましのアラームが鳴る前、朝の6時だ。外はまだ暗い。こんな朝早く叩き起こされて、電話に出るなり挨拶もなく怒鳴られるとはどういうことだろうか。キョーコは訳が分からなかったが、相手の調子からなにか問題が生じたのだろうと推測する。
なにせ電話の相手はキョーコの唯一の親友、琴南奏江だ。デビュー前から同じラブミー部に所属し、切磋琢磨しあってここまでやってきた。いまだに揃ってラブミー部所属で、かなり売れているのに正式なマネージャーもつけずに飛び回っている、というある意味不名誉な同志でもある。
奏江は人付き合いにおいてはクールで、べたべたした付き合いやキョーコとのスキンシップを拒絶しているが、根っこの部分では自分のことを考えて、心配してくれている…と思う。

「モー子さん、どうなってるって、何が?」
『あんた…のん気ね……まあそうか。知る訳ないか…』
「何を?」
『ネットに、あんたと不破尚が一緒にいる写真が載って、ちょっとした騒ぎになってるのよ。昨日不破尚に会ってたの?』
「ええええっ??」
キョーコは思わず叫び声をあげた。写真?いつ撮られた?
『会ってたの、会ってないの、どっち?』
「あ、会ったといえば会ったわ…楽屋前で待ち伏せされてて。けど、マネージャーの祥子さんも一緒にいたのよ」
受話器の向こうから小さい舌打ちの音が聞こえてくる。

『で、その後は?』
「祥子さんの車で家のそばまで送ってもらって…あ、降りた時あいつもちょっと降りてきて話したんだった。その時かな」
『その時でしょうね。住宅街っぽいところであんたの腕を不破がつかんでる写真だったわよ。…写真撮ったのが週刊誌のカメラマンとかじゃなくて、一般人だったのよ。不破尚だ、と思って写真を撮って、あんたが誰だか分かんなくてネットにアップしたみたい。あっという間に特定されてたわよ』

携帯を握る手に少し力が入る。だから、素顔をさらして車から降りるなといったのに!
「そう…で、どんな感じに言われてるの?」
『んー、なんだか業界の人間の友達って自称する奴が、前にもあんたが撮影中のスタジオに不破が押しかけたことがあるとか暴露して、付き合ってることになりつつあるわよ』
「なにそれ!冗談じゃないわよ!」
『だから電話したんじゃない。あんた、今日の予定は?』
「今日は…1日バイトで、夜事務所で打ち合わせ」
『ああ、例のバイト。まだやってるのね。そっちに行っちゃった方がいいかもしれないわね』
「当然よ!バイトは無責任に休めないし。モー子さん、ありがとう。バイト前に椹さんに連絡取ってみるね」
『うん、そうして。じゃあ私そろそろ出るから』
「あ、ごめん…今日仕事早かったのね」
『まあね、ちょっと地方ロケで早い新幹線だから。私が気がついてよかったわ。…それから、あんた今後一切、ホイホイ不破の車になんか乗るんじゃないわよ』
奏江の最後の台詞は少しドスがきいていた気がした。
「…はい……気をつけるわ、モー子さん」
キョーコは通話を切った。途端に、メラメラと怒りが湧いてくる。

くっだらない用事で待ち伏せた挙句…巻き込んでくれたわね、あのバカ!
バカの身元が割れなければ私の写真なんて撮られなかったのに・・・!!!

キョーコは怒りのあまりすっかり目が覚めてしまい、そのまま起きて仕度を済ませ、ついでにPCを立ち上げてネット上の問題の写真を検索した。写真は某巨大掲示板にアップされたようだ。オリジナルはすぐに消されたようだが、あっという間にあちこちにコピーされている。ご丁寧にすでにまとめられたサイトにたどり着くと、瞬く間にキョーコが特定され、その後2人の関係についての無責任な推測が飛び交う様子がよく分かった。
そして部屋を出る頃には、キョーコの顔は般若のような険しいものになっていたのだった。


いつもの出勤時間より少し遅い時間。
蓮は地下鉄の出口から会社への道を辿っていた。一般的な出勤時間帯に入っているため、いつもより歩いているサラリーマンが多い。会社のビルの通用口近くまで来て、通用口の向こう側にぺこぺこお辞儀をしながら電話をしている女性の姿が目に入った。背中を向けてはいたが、黒い束ねた髪と背格好で誰だかすぐに知れる。

ちょうど通話を終えた女性に、蓮は後ろから声をかけた。
「最上さん?おはよう」
目の前の背中がビクリとはね、恐る恐る振り返った顔が見える。
「電話してたの?ここは寒いから中に入ってからにすればいいのに」
「あ、いえ、はい。おはようございます…あの、ちょうど入ろうとしたところで着信したので…」
「ああそうなんだ。はい、じゃあどうぞ」
蓮は目の前の通用口の扉を開くと、先に入るようキョーコを促した。キョーコはおどおどと礼を言うと珍しく背中を丸めた姿勢でドアをくぐる。キョーコは蓮の声を聞いた瞬間に一昨日非常階段で目撃したシーンを思い出してしまい、まともに蓮の顔を見ることができなかった。ちらりと覗き見た蓮の笑顔がいつもより顔に張り付いたようなのも若干気になる。

ああもう、あれこれ考えてることが多すぎて、ダメだわ…!
大体敦賀さん、あんなところを見られたって言うのになんでこう、落ち着いてるのかしら…!ん、でもなんか、笑顔がいつもと違ったような…?

並んでエレベータを待ちながら、キョーコは確かめたくて蓮の横顔を見上げた。すると、ばちりと目が合ってびっくりする。「なに?」と笑顔で聞かれてしまってしどろもどろに「何でもありません…」と答えて再び目線を落とした。

なんか敦賀さん…怖いよ……なんでだろう、すごいにこやかな笑顔なのに怒ってるような…?あ、そうだ!バイト初日のあの時と同じ笑顔!てことは怒ってる…?なんで?まさか、あの一昨日の事で…!

キョーコは目の前のエレベータの扉を黙って見つめていたが、意を決して顔を上げ、蓮に話しかけた。
「あ、あのっ!」
「ん?何?」
「おと…一昨日の事!誰にも、言いませんから…!」
蓮はびっくりした顔になった。
「一昨日?……ああ!非常階段でのことかな?」
「はい。あの、本当に黙ってますから…!」
眉を八の字にして泣きそうな顔で懸命に訴えかけるキョーコを見て、蓮は少しうろたえる。

「え?いや、どうしてそういう話になるのかな?」
「だって敦賀さん、怒っていらっしゃいますよね?」
「え?」
蓮はしばしそのまま固まった。

「怒って…らっしゃいませんか?」
「あ、ああ……いや、怒ってはないんだけど…」
「そうですか…私てっきり」
キョーコは心底ほっとした表情で肩の力を抜く。蓮は頭をかきながら弁明した。
「最上さんに対して怒ってなんていないよ。ちょっと今朝、気になることがあって考えていただけで…ごめんね?」
「え、いや!すみません、私が勝手に思っただけなので」
「それに」
蓮はキョーコが話し終わらない内にかぶせるように続けた。
「一昨日の事は別にやましいことはないんだよ。百瀬さんがちょっと仕事で理不尽なことにぶち当たって悔しい思いをしてて、偶然会って話を聞いていただけだから」
「え?」
「…やっぱりなんか誤解されてたか」
「うあ、いや、誤解といいますか、あの」
キョーコが言いかけたところでエレベータの扉が開き、蓮とキョーコは周りの人達とともに箱に乗り込む。エレベータの扉が閉まり、箱が上昇を始めてから蓮は小声でキョーコに話しかけた。
「だから、別に誰に話してもらっても大丈夫だよ」
「そんなことしませんよ」
「だろうね」

ほえ?と不思議そうに蓮を見上げるキョーコを見て蓮はくすりと笑った。エレベータ内の近い距離だとキョーコはかなり顔を上げないと蓮の顔を見ることができない。懸命に見上げる姿が無性に可愛いな、と蓮は思う。
「最上さんは真面目で義理堅そうだから、そんなことしないだろうと思うよ」
「それは…褒められてるんでしょうか」
「もちろん」
蓮は先ほどの笑顔とは違う、柔らかな笑みをキョーコに向けた。


オフィスに着いて自分の椅子に座ると、蓮はPCを立ち上げてその上に乗っているフィギュアに目をやった。自分でもはっきりと自覚しきれていなかった自分の気分の変化に敏感に気がつかれた事に嘆息する。

なんで、俺の機嫌が悪いって分かっちゃったんだろうな…
笑顔でいて見破られたことなんて今までなかったっていうのに、まいったな…

そして、自分の気分の変化の原因に思いを馳せる。
今朝起きて、ふと必要な調べ物を思い出して立ち上げた自宅のPC。ブラウザのホーム画面に設定してあるポータルサイトの片隅に、『京子』の文字を発見してしまった。調べ物もそっちのけで情報を辿り…気がついたら、いつも出る時間を過ぎていた。

なぜ『京子』が誰かと付き合ってると言う情報に、自分の気分がこれほど害されるのか。
蓮は自分で分かっていることがあった。ネットから拾い上げた情報は全て『京子』と不破尚の関係に関するものだったが、自分はあの写真の中に『最上キョーコ』を見つけたのだ。そして、その後の情報も全てキョーコのものとして認識した。

だからって、最上さんが誰かと付き合っちゃいけない訳はないだろう…

PCを操作している間も何度となく自分に対して吐いた戒めの言葉を、もう一度心の中でつぶやいてみる。キョーコだって20歳の女性だ。普通に恋愛経験を重ねていておかしくない年だし、身を置く業界が一般より華やかなところだ。芸能人同士の交際だってよくある話ではないか。

蓮は思う。単に『京子』としてテレビ画面の中で見るだけだったら、何も思わなかっただろうと。
でも蓮はすでに最上キョーコとしての素顔をある程度知ってしまっている。そして、キョーコの人となりはCMでのキャラに例えれば悪魔より天使に近いものだと思っている。素朴で、真面目で、謙虚で、天真爛漫で…。そんな女性が、あの軽そうなアーティストと付き合っていて欲しくはない。率直に言ってしまえば、そういうことだった。

妄信的なアイドルのファンみたいだな、俺。

たかだか2週間ちょっと、しかも職場でのみ会い、主に仕事の話しかしない関係。そして、来週末にはその関係は切れる。関係が切れてしまえば住む世界が違いすぎる相手だ。今後すれ違うことすら、ないだろう。

自分はどうしたいのか?蓮自身にもよく分からず、ただキョーコの気配を背中で感じながら、フィギュアの微笑を眺めるしかなかった。


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