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社外恋愛 (6) ~驚愕~


がたがたがたがた。
今が1年で一番寒い時期と言いますが…もうすぐ大寒ですねえ。

今日はうちの方は天気が良く、朝にあった雪も帰る頃にはだいぶ消えていました。
しばらく天気だけはいいようなので、そこは助かります。

早く春にならないかなあ… (遠い目)

さて、お話の方もまだまだ春は遠く。
どこが"恋愛"やねん、という突っ込みは‥謹んでお受けします。





キョーコがバイトを始めてから2週間経った金曜日。
朝、始業の準備を進めるオフィスで電話のベルが鳴った。社がすぐに電話を取り、二言三言話した後、「えっ」と少し大きな声を上げる。更に少し会話をし、社は「はい、はい。うん、無理しないでね。じゃあ、お大事に」と言って電話を切った。

「蓮~~。山口さん、インフルエンザだって」
おや、と蓮が社の方に顔を向ける。
「石井さんのがうつっちゃったんですかね」
石井は2日前から高熱でダウンして休みを取っていた。二人は同じ業務に携わっていたため石井の不在分を山口が頑張って埋めていたのだが、これで穴埋めが出来なくなってしまった。

社は困った顔で頭に手を当てた。
「参ったなー。今手が空いてる人なんていないんだよね」
「でも、ドキュメントは月曜日の会議までに揃える必要ありますよね」
蓮はスケジュールを思い出しながら確認した。
「うん。もうちょっとなんだけど…俺もお前も手一杯だし、他の応援にも回っちゃってるしな~~」

そこへキョーコが「おはようございます」と出社してきた。おはよう、と挨拶を返してから、社は立ち上がった。
「そうか、その手があった!」

いきなりの大声にキョーコはびっくりして社を見る。社はずいっとキョーコの方に身を乗り出していた。
「どうしたんですか、社さん」
「キョーコちゃん!今日、残業できる?」
「はい?え、えーっと、はい、大丈夫ですけど…」
たまたま今日は京子としての仕事はなく、バイトが終わったら帰るだけだった。キョーコは訳が分からないまま素直に返事をする。

「よかった!実は山口さんまでインフルエンザにかかっちゃって…作業がおっつかないんだ」
「ええっ。石井さんのがうつったんですか?」
「その可能性もあるかも。キョーコちゃんは体調大丈夫?」
「私は元気ですけど…一応予防接種もしてますし」
事務所の指示でキョーコはシーズン初めに予防接種を受けていた。冬場、仕事に穴を開けないための予防措置だ。

「おおおっ。健康管理、すごいねぇ。じゃあ、ごめんね、ちょっと頼むよ。もちろんバイト代は出るからさあ」
社はとりあえずの戦力を確保できてほっとした顔をした。対するキョーコは少し不安げだ。
「私でお役に立てますか?」
「大丈夫!範囲は違うけど、キョーコちゃんのいつもやってる作業と近いことだから。それに全部じゃなくて、少し手伝ってもらうだけだから心配しないでね」
社の言葉を聞いてキョーコも安心し、そしてその日の仕事は始まったのだった。

キョーコの残業が終わったのは午後9時を回ってからだった。
いつも定時で帰っていたキョーコは、蓮と社を始めとして、社員たちの半分くらいが残っていることに驚いていた。
「社さん。終わりましたので確認をお願いします」
「ありがとーー。お疲れさん」
「それにしても皆さん結構遅くまで仕事されてるんですね」
「ああ、今ちょうどいくつかのプロジェクトが佳境だからねえ。仕方ないかな。キョーコちゃんは大丈夫?こんな時間まで仕事して疲れてない?」

朝から深夜まで仕事に追われることだってあるので、キョーコにとってはそれほど大したことではなかった。キョーコは両手で握りこぶしを作って笑ってみせる。
「多少肩は凝りましたけど、大丈夫です。体力だけは自信ありますから!」
「おーおー、いいねえ、若いって」
キョーコは不思議そうに社を見た。
「社さんだってお若いですよね」
ははは、と社は力なく笑う。
「若いったって、もう30近いからなあ」
すると隣で黙って作業をしていた蓮が口を開いた。
「そんなこと言ってると怒られますよ」
「男は30くらいで急にがくんとくるんだよ。お前だってその内分かるって」
そこでキョーコは不思議に思っていたことを口にしてみた。
「社さんと敦賀さんって年はお近いですよね?」

途端に社はニヤニヤしだした。
「ほら、やっぱり若い子の目から見たってそう見えるんだよ」
その言葉に、もしかして、とキョーコは血の気が引いた。蓮はさほど気にしたようでもなく、キョーコに聞き返す。
「俺、老けてみえるかな?ちょうど社さんと最上さんの間くらいなんだけどな」
「えっ。25くらいですか?」
「…もうすぐ24になるけどまだ23だよ」

「ええーー!」
キョーコは思わず叫んでしまった。思ったよりも少し低めに言ってみたのに間違った。蓮の顔立ち、仕事っぷりをみて、すっかり二十代後半だと思い込んでいたのだ。
社はまだニヤニヤ笑いを浮かべたまま楽しそうにしている。
「大丈夫、キョーコちゃん。誰からもそういわれるからさ。新卒で入社してきたときから貫禄あったし、こいつ」
キョーコはまじまじと蓮の顔を見る。蓮は少し恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。
「よくここに来る、逸美ちゃん…百瀬さんって女の人分かるかな」
社に聞かれてキョーコは頷く。あの、蓮につりあいそうな女の人… 胸がツキンと小さな音を立てた。

「百瀬さんと蓮って同期入社なんだよ。同い年に見える?」
「ええ?い、いえ……」
「やっぱり?皆驚くんだよー!あれ、キョーコちゃんは20歳だっけ?」
「はい…なったばっかりですけど」
「キョーコちゃんは年相応に見えるね。学生さんではないんだっけ」
「はい…フリーターみたいなものですね」
「ふーーん。だからかな。若い割に仕事に対する姿勢が真剣だよね」
「え、そうですか?」
キョーコは首をかしげた。そういえば考えてみれば、小さな頃から旅館と言う場所で客商売の手伝いをしてきた。女将から叩き込まれた客相手の商売の心得は今もキョーコの根幹にある。京子として仕事をするときも、たまに人からそんなことを言われるような気がする。

「確かに、最上さんの仕事に対する意識は高いね」
蓮が会話に復帰した。
「普通と思ってやってましたけど…そう言って頂けるのはなんだか嬉しいです」
「フリーターじゃなくて、就職しちゃえばいいのに。キョーコちゃんならどこでも採用してくれるよ。うちもほしいくらい」
社の言葉に、キョーコは少し恥ずかしそうに首を振った。

「ありがとうございます。…実は…お芝居の勉強をしてまして……」
「えーっ。そうなの?」
今度は社が驚いた。
「はい…あの本当に、勉強してる段階なんですけど…」
「そうか、それでそのためにバイトで稼いでるの?」
「はあ…そんな感じです」
「そっかーー。いつか大女優として画面で見られたら楽しいなあ」
「いやいやそんな大それた…」
キョーコはうにゃうにゃと語尾をぼかした。この設定は椹と考えたものだ。ある程度の背景設定はしてあるし、自分の本当の状況とかけ離れてはいないが、あまり深いことまで聞かれるとまずい。とりあえず話題をそらすことに注力することにした。
蓮はキョーコを横目で見ながら、心の中で(社さん、もう既に目の前の少女をテレビ画面で見てるかもしれませんよ)とつぶやいていたのだった。


2日後の日曜日、キョーコはバイト先のオフィスのすぐ近くの路上にいた。
日曜日なのでバイトは休み。京子として、単発ドラマ撮影のためのロケに来てみたら、えらく見覚えのある場所だったのだ。

場面的にもオフィス街なんだけど~…あまりに近くてびっくりだわ…

キョーコはロケ隊の中で辺りを見回す。キョーコのいるオフィス街の一角は、平日昼ならば弁当を売るワゴンが複数並ぶ場所だ。一度山口に連れてきてもらったことがある。今日は昼時とはいえ日曜日なのでワゴンは出ていないし、人もまばらだ。だからこその日曜ロケなのだろうが。

このドラマのキョーコは財閥の一人娘の役だった。オフィス街とのアンマッチを演出するためなのか、衣装は高そうな訪問着ときらびやかな帯。ロングの黒髪のウィッグをかぶり、気の強そうなきりっとしたメイクに仕上げられている。

キョーコは本番を待ちながら自分の役を確認した。セリフは頭に入っている。あとは役の気持ちになるだけだ。
キョーコが演じる小百合は気の強いお嬢様。許嫁の男が他の女性に心を奪われていることに気付き、昼間に会社まで押し掛けてくる。男が同僚の女性と親しげに話しながらいるところ見るだけで、嫉妬できつい言葉を投げかける。

キョーコには、男性に対する嫉妬の気持ちが理屈では分かるものの、なかなか実感として染みていなかった。憎しみの感情ならば嫌というほど分かるのだが、嫉妬は相手を好きでいながらの負の感情。いまいち表現しきれていない気がする。リハーサルでは特にダメ出しはなかったのだが、キョーコは自分の演技に納得がいっていなかった。

目を閉じて小百合の気持ちに入ろうとするキョーコの耳に、本番を告げる声が聞こえた。
そして、目を開けたキョーコの視界の隅に飛び込んできたのは、ここしばらく毎日のように見ている、長身の男性の姿だった。


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