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社外恋愛 (4) ~接近~

こんばんは!
うっかり、中途半端な状態で一度公開しちゃいました…あぶない。
少し間があいての更新となりました。

連休中、雪国に遊びに行っていたのですが、帰ろうと思ったら自宅の方が雪がすごかった…。
南関東にこれほど雪が降ることなんて滅多にないのに。
出先より自宅の方が雪で通行止め、という事態になってしまって、ひいひい帰りつきました。

成人式って雪が降りやすいのでしょうか。
随分昔にも成人の日に記録的な大雪が降ったことがありました。
なにはともあれ、新成人の皆さまおめでとうございました。

では、本日の「社外恋愛」どうぞ~~



「キョーコちゃん!ごめん、今日の作業、蓮に聞いて!」
始業直後、キョーコが1日の作業について社に聞こうと思った矢先に、社から声がかかった。
言い終わるか言い終わらないかの内に社は小走りで部屋を出て行ったため、キョーコは返事も出来ない。困惑して蓮の方を見ると、蓮は安心させるようにキョーコに笑ってみせた。
「最上さんの今日の仕事は昨日のうちに聞いてあるから大丈夫。今日は社さん、1日中会議だらけなんだ。さて、早速だけどやろうか?」
蓮はキャスターつきの椅子に座ったまま、キョーコの机の横に移動してくる。キョーコは蓮の厳しさを予想して若干緊張しつつ、指導を待った。しかし、キョーコの緊張をよそに蓮はキョーコの作業結果を手にしたまま、穏やかに話しかける。
「一昨日のこれ、俺も見たけどなかなかよく出来てるね。仕事が丁寧だ」
「ほんとですか?」
キョーコは思わず笑顔になって聞き返した。

「うん。ちゃんとこちらがやって欲しいことが出来てる。だから、社さんが結果を再確認する必要なし、てことを踏まえて、今日の作業だね」
小さくガッツポーズを作ったキョーコを見て、蓮は思わず「ふっ」と噴き出した。
「あ、笑わないでください…自信なかったから嬉しいんです」
キョーコは恥ずかしそうに、でも本当に嬉しそうに蓮の顔を見る。
「ごめんね。俺が初日に余計なこと言ったから、気になってたよね。あ、でも、逆に刺激になってよかった?」
「刺激になりすぎました」
すいとキョーコの目が細められて遠くを見やる。蓮はその顔を見て楽しそうに笑ってから、さて、と話を仕事の方へ戻した。

社に負けないくらい、蓮の指導は分かりやすかった。キョーコは真剣な表情でPCを操作して教えられた作業を進めていく。が、文章を画面上で入力する段になると、キョーコに少しためらいが見られた。
緊張気味に「えーっと」と言いながらキョーコは懸命にキーボードを叩くのだが、両手がひらひらと空中を舞い、次に押すべきキーを目で探している。両手の指で使われているのは人差し指と中指だけ、という状態だ。

「キーボード、苦手?」
蓮に聞かれてキョーコは苦笑しながら答える。
「苦手、というか…慣れてなくて、なかなかどこになにがあるのか覚えられません」
「上手に打てるようになりたい?」

キョーコは手を止めて蓮を見た。その目は期待に満ち溢れている。
「なりたいです!私も、なれますか?」
「もちろん。簡単だよ」
蓮は事も無げに答えて、椅子から立ち上がった。キョーコの後ろに回りこみ、腕を回してその手首に両手を添える。

「キーの位置は指で覚えるんだ。だから、手の位置を決めておいてあげないと」
言いながら、キョーコの両手をキーボードの手前に下ろした。
「両手の位置はここ。人差し指をこっちとこっちに置いて、手首を下ろして」
いきなり触れられてキョーコはどぎまぎしたが、教えてくれてるんだから!と懸命に集中する。
「そうそう。それが基本だね。両方の人差し指が置かれたキーだけに突起があるだろ?そこが、定位置」
キョーコの手から蓮の手が離れていった。
「そこから手は動かさずに指だけが動く感じだね。どの指がどのキーを押すかは決まってるんだよ」
はい、と素直に返事をしながら蓮の方を振り向いたキョーコの頬は、少し赤くなっていたかもしれない。その目に見つめられた蓮はどきりとした。

この目は…あの天使のCMの表情と同じだ…

蓮は自分が最上キョーコ=京子と認識していることに気がつき、確証はないんだ、と慌ててその考えを振り払った。振り払ったのだが、あの天使に画面越しではなく直接見つめられるとこんな気分になるのか?と、やはり思考はそちらに戻ってきてしまう。

「あとはとにかく覚えるまで繰り返すことだ」
「分かりました!ありがとうございます」
あんまり見ているとまたどうしようもないことを考えてしまう、と蓮はそこで指導を終えた。キョーコはぶつぶつと言われたことを復唱しながらあれこれとノートに書きこみ、早速作業に取り掛かっている。全力で取り組んでいるキョーコを見て、蓮はなにか力になれるだろうかと、考え込んだ。


「最上さん、これ」
昼休みが終わる頃、食事から席に戻ってきたキョーコに蓮が話しかけてきた。
なんでしょうか?と答えるキョーコに渡されたのは、小さなプラスチックのスティックだ。
これって、事務所でも持ってる人がいたような?とキョーコが首をかしげていると、蓮が再度それをキョーコの手から取り上げ、キャップを外した。
「これ、USBメモリですか?」
「正解。最上さんは家にパソコン持ってるんだっけ?」
「あ、はい。まだ使いこなせてませんけど」
「じゃあ家でも練習できるね。ちょっとこのパソコンに入れてみようか」

キョーコは訳が分からず言われるままにメモリをパソコンに挿し、そこに入っているソフトをインストールする。画面にはゲームのようなイラストが描かれたウインドウが表示された。
「これはね、タイピングソフトなんだ。初級編から上級編まであるから、順にやってみるといいよ」
キョーコは画面を見ながらあれこれとキーを押してみた。なるほど、これをずっと使っていれば確かにキーの位置を覚えていけそうだ。
「ここにいる時は入力作業だけでも覚える事は出来るかもしれないけど…スコアって形で成果が目に見えるから面白いだろう?」
「確かに…面白そうですね」
「そのメモリ、俺の私物だから持って帰っていいよ。家のパソコンにも入れてみて」
「あ、ありがとうございます!」
満面の笑みでお礼を言うキョーコに対して蓮は頷くと、また自席に向き直った。


その夜キョーコは自宅に戻ると、早速PCの電源を入れて蓮から渡されたメモリを挿し込んだ。タイピングソフトを立ち上げ、初級編から始めてみる。

頑張れば…撮影までに間に合うかしら?

キョーコにとって全く未知の世界だと感じられていたドラマの舞台が、少しずつ実体験となってキョーコの体に染み込んで来ているような気がしていた。まだ1週間も経ってはいないが、それも社と蓮のおかげだろうとキョーコは思う。

ん~~、最初の印象が悪すぎたから、あんなに優しいと驚いちゃうのよね…

キョーコは今日蓮が見せた表情や言葉を思い返していた。それから、ドラマの相手役の設定をもう一度確認する。仕事には厳しいけど、主人公を成長させようと時には悪役を演じてでも支えてくれる人。深い愛情で、主人公の想いを受け止めてくれる人。

敦賀さんを相手役だと思ったら…惹かれていく気持ちも理解できるのかな。

それは、小さく小さく芽生えたキョーコの気持ち。
ただ、キョーコ自身は純粋に演技のためだと考えていた。思ったより蓮は優しい人だったし、仕事には妥協しないように見える。尊敬できる先輩だと想定してみる相手としては現時点でベストな選択ではないだろうか。自分の役を理解し、役を生きるためには、ゼロからすべて想像するよりはモデルがあった方がよりリアルになる。

キョーコは、我ながらいい思い付きじゃない、と喜んでいた。
だけど、その思い付きをすぐに後悔することになるとは、この時は全く考えてもみなかったのだ。


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