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社外恋愛 (3) ~動揺~


お寒うございますね。

寒い時期は嫌いなのですが、晴れていると星がよく見えて気持ちがよくなります。
でも星座はオリオン座しか見つけられない私…

本日もなんとか更新ですー。



~動揺~

定時となり、キョーコのその日の仕事は表面的には何事もなく終わった。
キョーコは社に1日の作業報告をすると、実施したテスト結果の書類を手渡し、「お疲れ様でした~~」の声に送られて退社して行った。

「すごいな…」
社はキョーコから渡されたテスト結果の紙の束をぺらぺらとめくっていたが、思わずぽつりと呟いた。キーボードを叩いていた蓮が手を止めて社を見ると、ちょうど目が合う。
「何がすごいんですか?」
聞いた蓮に対して、社は「まあ見てみろよ」と紙の束を手渡した。受け取った蓮は言われたとおりに目を通す。書類にはテストを行う手順が書かれていて、結果を記入する欄があった。蓮は黙って紙をめくっていたが、やがて目を上げて社に聞いた。

「境界値テストの説明をしたんですか?」
「ごく簡単に」
「再現性については」
「期待値と違う結果が出たときに、手順をメモってくれとは言った」

蓮は無言で再び手元に視線を戻す。社は椅子の背もたれに右肘をかけながら視線を天井に上げた。
「パッと見大人しそうな地味な子だと思ったけど、かなり賢いな、あの子。打てば響くと言うか。根気もあるし、常駐テスターとして欲しいくらいだよ」
「なるほど、確かに経験無しでこの的確な記述は…なかなかですね」
「週4日だからどうかと思ったけど、作業量も申し分ない。まだ本格的な作業は今日が初だったのにな。明日は休みだけど、明後日来たら障害票の起票も頼んじゃおう」
社はどことなく嬉しそうだ。この人は優しそうでいて実は案外スパルタだな、と蓮はこっそり思う。社はできない事は無理にやらせないが、できそうだと思うとその上限ギリギリを見極めて仕事を振るのだ。にこやかに。蓮もおかげで相当量の作業を積み上げられている。

社は急に真面目な顔で蓮に向き直った。
「だからさ」
「はい?」
「もうああいうこと、言うなよ」
昨日のことか、と蓮は頭を振った。
「分かってますよ。俺も悪かったと反省してます」
「うん。俺、泣いちゃったらどうしようって一瞬戸惑ったんだからな。キョーコちゃんがむしろ奮起してくれたから良かったけどさ」
「すみませんでした」
「いや、分かってればいいよ」
「ところで社さん」
「なんだ?」
「いつの間に"キョーコちゃん"呼ばわりになったんですか?」

社が蓮の顔を見る。蓮の表情はどことなく不満げに見えた。
「え、いいじゃん別に。山口さんたちがそう呼んでるからさ。年下だし、雰囲気的にもそっちのがあってない?」
「セクハラって言われますよ」
「お前の台詞の方がパワハラだろ!」
「う…それは……」
思わず蓮は言い淀んだ。社はそこにたたみかける。

「本人もいいって言うんだからいいだろ!あ、お前まさか、タレントの京子が好きだからって、同じような名前だから…」
「なんでもかんでもそれに結び付けないでください。大体俺が京子のことが好きだなんて一言も言った事ないじゃないですか」
「ムッツリなお前のことだ、怪しいぞ!関心があるから正体がすぐ分かるんだろうが!」
社は蓮の机のフィギュアを指差しながら叫ぶ。2人の後ろでは、山口と石井が「あの2人ほんとに仲いいよね」などとこっそりと囁きあっていた。

一方その頃、キョーコは駅のトイレでウィッグを外し、化粧を直して素のキョーコの外見へと戻っていた。このあと1つだけタレントとしての仕事をこなさなければならなかった。スケジュールを調整しているとはいえ、週3日では収まりきらない仕事もある。
キョーコは素に戻った鏡の中の自分の顔をぼんやりと見つめながらため息をついた。

さすがに…すぐ後ろで 京子京子って連呼されると、大丈夫とは思ってても気になっちゃうわよね…

キョーコは出社した段階で蓮のPCにちょこんと乗っている自分に気がついていた。昨日はなかったはずのそのフィギュアに思わず反応しそうになったが、見て見ぬ振りをしてやり過ごしたのだ。

女優やっててよかった…。

そもそも女優をやっているからこその今日のシチュエーションだったのだが、キョーコは心からそう思った。作業に没頭している振りをしていたが、3人の会話は当然、しっかりキョーコの耳に入っていた。

敦賀さんが、あのCM見て私だって分かったって言ってた気がするけど、どういうこと?もしあれが私だって分かるんだったら…バイトの最上キョーコが京子だって…分かるってことだよね?

でもそんな素振りは一切見せてないし、とキョーコは蓮の言動を思い起こしながら腕を組んで考え込んだ。こうやって素の自分のままで歩いていたって、電車に乗っていたって、滅多に気がつかれる事はない。もう何年もタレントをやって、そこそこ名前も知られているはずなのに、そんなに自分にはオーラがないだろうかと落ち込むこともあるが、正体がばれないと言うことに変に自信を持っている部分もあった。

まさか気がつかれる事はないと思っていたけど…少しは気をつけた方がいいのかな?

まあとりあえず仕事!と、キョーコは今度は京子として気持ちを切り替えて、駅のホームへと向かったのだった。


1日の休みを挟んだ木曜日。
キョーコは一昨日と同じくらいの時間にオフィスに到着した。すでに出社している数人に挨拶をしつつ自分の席へと近づく。社に挨拶をしながら座ろうとして、社の隣のデスクに目が釘付けになった。
デスクの主は不在だったが、デスクの端に置かれたPCの上には…フィギュアが2体。見覚えのあるそれは、色こそ白と黒だったが、両方とも自分だ。

ふ、増えてるー!!!

キョーコは平静を装ってそのまま座ったが、振り返った社に視線の方向を見られていたらしい。
「あ、キョーコちゃんも気がついた?」
にやにやという感じに笑いながら、社が話しかけてきた。キョーコはなんとか落ち着いてごく自然に返事を返す。
「ええ。確か一昨日、お話されてたような?」
「うん。あの時は1つだったんだけどさ。あいつ、昨日も今日もおまけ付きコーヒー買ったらしいんだよねー」
「敦賀さんってこういうおもちゃみたいなの、お好きなんですか?」
「いや?そんなことはないと思うんだけど。現に、3日連続買ってるのに、フィギュアは2体しかないでしょ?」

言われてみれば…とキョーコは思った。まさかとは思うが、一応確認してみる。
「なんで、2つしかないんですか?」
よくぞ聞いてくれました、という顔になり、社はわざわざ少し声をひそめた。
「あいつ、たまたま1回目に京子のフィギュアが出てきたもんだから、天使の方も欲しくなっちゃったみたいなんだよね~」
「京子…さんのが、ですか?」
「そう。あいつは絶対そうだって。でも6種類あるのに3回で2つも京子のを引き当てるなんて、やっぱりすごいな。あいつは京子マニアだからね」

マニア?普通、特定の芸能人が好きな人はファンと言わないだろうか。不思議に思ってキョーコは聞き返した。
「ファンじゃなくてマニアなんですか?」
「そう!あいつ、別に京子の事が好きな訳じゃない、なんてしれっというんだけどさ。TVに京子が出てくると、どんな格好してようが、化粧が違おうが、一目で分かるんだって。あんなに印象変わるのに、一目だよ!マニアとしか言いようがないよね」

社が勢い込んでまくし立てたところに冷たい声が降ってきた。
「何、最上さんにまでいい加減なこと吹き込んでるんですか」
2人は驚いてびくっと体を起こす。そこには蓮が腕組みをして呆れた顔で社を見下ろしていた。
「いい加減じゃないだろう。俺は嘘は言ってないぞ」
「マニアってところは嘘です」
「ふん、じゃあ京子のフィギュアが欲しかったのはやっぱり本当だな」

そこへキョーコが会話に割って入った。
「京子さんって確かにすごく外見変わる印象ありますけど、全部分かるんですか?」
「あ、ああ…大体分かるかな。今回のCMの悪魔はすぐに分かったよ」
「すごいですねー!どうやって分かるんですか?」
蓮は戸惑ったように少し考えると、首を横に振った。
「うーん、説明はできないかな…直感と言うか、ぱっと見の印象?」
「あはは、敦賀さんって野生の勘みたいのを持ってるんですね!なんかスマートで都会的なのに意外です」
からりと笑うキョーコに社も賛同して場は和やかになった。

そして始業の時刻となり、それぞれ自分の机に向かって作業を始めたのだが、蓮とキョーコの心中はそれぞれ複雑だった。特にキョーコは本当にばれていないだろうかと心配しながらも、飾られたフィギュアの事を思い出し、(敦賀さん、私の天使と悪魔、気に入ってくれたのかな?)と、なんだかくすぐったい気持にもなっていたのだった。

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