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社外恋愛 (2) ~示唆~


こんばんはー!
副題なんてつけ始めたものだから、内容はできてるのに副題の方が決まらなくてえらい時間を食ってしまいました。

ボキャブラリーが貧困だからうまいこと行かないですが、お目こぼしいただければ幸いです。




~示唆~

「つっかれた~~~~~」
キョーコは帰り着いた自宅マンションの玄関で、靴を脱ぐなり倒れこんだ。朝から深夜まで撮影が立て込む事も珍しくはないキョーコだったが、今日の疲れは普段の仕事の疲れとはまた別格だ。脳の中の、普段使わない部分を酷使した気がする。
キョーコはそのままずるずると廊下を這うように進み、ようやく部屋にたどり着いた。スーツのままベッドに倒れこみ、ごろりと仰向けになる。

会社に勤めるって、すごいなーーー

素直な感想とともに大きなため息を吐き出すと、ふと気がついて体を起こし、テーブルの上に置かれた台本を手に取ると再びベッドに戻った。台本をぱらぱらとめくりながら今日1日の出来事に思いを馳せる。

ドラマの舞台とバイト先のあの会社って・・・環境的にはかなり似てるのかもしれないな・・・。
会社は大きいけど、小さいグループでソフトの開発やってて・・・服装もスーツじゃなくて割と自由って言ってたし、みんなパソコン使いこなしてたしなー

キョーコが出演する連続ドラマは、主人公の女性が成長していくストーリーだった。普通のOLとして勤めていた女性が、ふとしたきっかけで社内プロジェクトに応募し、困難を乗り越えてプロジェクトを成功に導いていく。そして、プロジェクトを進める上で深い関わりを持つ上司とのラブストーリーが同時に展開していくのだ。

主人公の役柄は・・・あのグループの一員とすると、えーっと、相手役はグループのリーダーだから~~、社さん?

そこまで当てはめながら考えてみて、ふとキョーコは思い直した。
主人公の相手役は仕事に厳しく、主人公に対してもビシバシときつい事を言うキャラクターだ。おまけに美形のため女性にもてて、最終的に両想いになるとはいえ、主人公であるキョーコはドラマの途中までは一方的に想いを寄せる設定である。

立場としては社さんだけど・・・キャラ的には敦賀さんの方が合ってるかなあ。てことは、私が敦賀さんに片想いするってこと?

キョーコは急に昼間の一幕を思い出して眉間にしわを寄せた。
社たちのグループで開発したアプリケーションのテストを行うのがキョーコの仕事だったのだが、パソコンに慣れないキョーコはたびたび操作が分からなくなって社や隣の山口の手を煩わせていた。
謝りながら手順を聞くキョーコに対して、ずっと背中を向けて仕事をしていた蓮がちらりと振り返り、こう言い放ったのだ。
「短期バイトとはいえ、よくここで仕事しようと思ったね・・・早く基本的な事は覚えてね?」

にっこりと穏やかな笑顔で言われたのが逆に腹立たしかった。社が慌てて謝ってくれたのだが、本当のことだけに怒ることも言い返すことも出来ない。

やっぱり顔のいい男って性格が悪いのかしら・・・あんな人に恋心抱くなんてとんでもない!演技でだってごめんだわ!

キョーコはぷりぷりと怒りながら台本を読み返す。キョーコが演じるドラマの主人公も最初は相手役に反発し、その後段々惹かれていくのだが、主人公の恋愛感情の変遷について理解は出来そうになかった。



翌日の朝、蓮はいつも出勤時に立ち寄るコンビニの一番奥にいた。ソフトドリンクの棚のガラス戸を開け、缶コーヒーに手を伸ばそうとして気がつく。

このコーヒー、昨日のCMのか・・・

新発売の缶コーヒーのため、派手にポップがついて棚の一番いい位置を占めている。更に、何かのキャンペーン中なのか、おまけのプラスチック容器が缶の上部にくっついていた。容器の側面には「エンジェル・デビル フィギュア付き!」と書かれている。
蓮はしばし考えてから、おまけ付きの黒い缶コーヒーを手に取り、新聞とともにレジに持っていった。

蓮は通常、始業時刻よりもかなり前に会社に到着するようにしていた。
朝は電話が鳴ることもなく、人も少ないので落ち着くのだ。始業時刻までの間にメールをチェックし、新聞を読み、その日の計画を立てる。この日もオフィスはガランとしており、蓮はPCの電源を入れるとコートをハンガーにかけ、自席に腰を下ろした。

コーヒーを開けようとしておまけの存在に気づき、プラスチック容器を缶から外す。
コーヒーを一口飲むと、容器を手の中で転がしてしばらく眺めてからその蓋を開けた。中からビニールに包まれて出てきたのは、CMと同じ悪魔の格好をした京子のフィギュアだった。

蓮は苦笑しながらフィギュアを手の平に乗せ、眺める。
手の上の京子はうつぶせの状態で肘をついて上体を起こし、膝も曲げたポーズでにやりと微笑んでこちらを見ている。2.5頭身くらいにデフォルメされてはいるものの、CMの妖艶な雰囲気をうまく表していた。

俺もまあ、大人気ないよな…

昨日は社や山口にたびたび声をかけて困ったように相談しているキョーコについイライラして、きつい一言を投げかけてしまった。普段であれば未経験のアルバイトや派遣社員に対してそんなことを口走ったりはしないのだが、キョーコの正体(!)についてあれこれ考えてしまったことが原因だったようだ。

最上さんが京子であったとしても…それが仕事に影響しないなら、気にしなくていいはずなのにな。関係ないことに気を取られすぎだ…

ふう、と一つ息をつくと、蓮は手の平のフィギュアを自分のデスクトップPCの上に移した。
PCの上の京子は蓮の方を見て微笑んでいる。それを眺めながら、蓮は(天使バージョンもあるのかな)とぼんやり考えていた。


始業時刻15分前にキョーコはオフィスに姿を現した。蓮や周りのメンバーにきっちりと笑顔で礼儀正しく挨拶をし、仕事の準備を始める。
前日に質問したことについてはメモを取ってあるし、間違えそうなことは改めてまとめ直して来た。たとえジャンルは違えど仕事は仕事だ。自分はこれをするためにここに来ている。キョーコは昨日の反省を元にきっちりと意識を切り替えていた。

今日は嫌味なんて、言わせないんですからね!

蓮から言い返せない言葉を浴びせられたことを根に持っている部分も多分にあったが、見返してやる、とキョーコは闘志を燃やしているのだった。

蓮もキョーコも前日のことに触れるどころか会話を交わすこともなく、その日の仕事は淡々と進んで行く。社は面倒見がいい上にキョーコの理解の度合いを見ながら適切な指示を与えていくため、作業はかなりスムーズに進んでいた。

そして昼休みをはさんだ午後。
社は蓮に話しかけようとして、ふと蓮の机の上の変化に気がついた。
「なにそれ、お前がそんなもの飾るのって珍しいな」
言いながら立ち上がると、蓮の椅子を回りこんで自分のデスクと反対側に置いてある小さなフィギュアを手に取った。

「ああ…たまたま今朝コーヒー買ったらついてたんですよ」
「へぇ…これって、あのCMのだよな?これ誰なの?」
「……」
蓮はすぐには答えなかった。が、社はそれだけでにやりと笑って言い当てる。
「ああ~~、これか。CM流れてもしばらく誰だか秘密だったってのは。…つまりこれは京子だな」
「確かにそれは京子ですけど…なんでそんなニヤニヤしながら言うんですか」
「だぁって、蓮君の事だからどうせまたすぐにあのCMが京子だって分かってたんだろう?」
「……」
蓮は沈黙を保ったままちらりとキョーコに視線をやった。キョーコは2人の会話が聞こえているのかいないのか、全く体勢を変えることなく作業に没頭しているようだ。
「…分かりましたけど…そのフィギュアは本当にたまたま入ってたんですよ」
「ふぅ~~ん。だからってお前がわざわざ飾るかねえ…」

蓮が反論しようと口を開きかけたところで明るい声が割って入った。
「おっつかれさま~~」
2人が振り向くと、そこにはパンツスーツを着た若い女性が立っている。女性はストレートのロングヘアの快活そうな美人だ。
「ああお疲れ、逸美ちゃん」
すぐに社が女性に声をかける。逸美と呼ばれた女性は社の手にあるフィギュアに目を止めた。

「あ、そのフィギュア!いいなぁ、これよくできてる~。あ、これシークレットのですね!」
社から受け取りながら逸美が目を輝かせる。蓮が不思議そうな顔で聞き返した。
「シークレット?」
「そうなんだって!ほら、あのCM、京子の悪魔だけ正体が秘密だったでしょ?だからこのフィギュア、シークレットバージョンになってたらしいよ」
「へぇ、そうなんだ。たまたま付いてたから、そんなの知らなかったよ」
「あ、なにこれ敦賀君のなの?」
「ああ…」

へー、こんなのに興味なさそうなのにね、と笑ってから逸美ははっと思いだして蓮に話しかけた。
「ああ、そうそう敦賀君。この間頼まれてた販売資料、持ってきたよ。なんでかファイルがなくて紙資料だけなんだけど、いいかな?」
「ありがとう、百瀬さん。助かるよ。本数が知りたいだけだから紙で十分。手間かけたね」
「いいえ~、なんかおごってくれたらそれでいいよ」
「考えとくよ」

にこやかに逸美と会話を交わしながら蓮は再度キョーコを盗み見た。
しかし、その背中はやはり動かず、やはり京子とは関係がないのか?と蓮は内心で首をひねったのだった。




蓮と逸美ちゃん…同い年にしちゃいました…

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