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おりょうりじょうず



そのテレビ局スタジオ内では、バラエティ番組の収録が行われていた。
女優、歌手、タレント、芸人、ジャンルを問わない女性たちがスタジオ内のキッチンセットでお題に合った料理を作り上げ、その美味しさを競い合う、という番組だ。
意外な人物が料理上手でスタジオと視聴者をうならせたり、アイドルが作り上げる料理が試食するゲストを悶絶させたり、という筋書きのない展開が人気のこの番組。様々な女性たちが料理を作り、様々なゲストが試食して出来を採点して順位をつける、という番組進行で回を重ねていた。

2人の司会に挟まれた百瀬逸美、七倉美森、京子の3人がそれぞれ、ライトブルー、ピンク、イエローのかわいらしいフリルのついたエプロンをつけている。今日の調理担当者のようだ。

「お料理の判定をしていただくのは、こちらの審査員の方々です!」
5人の審査員が、端から紹介されていく。最初の3人は番組のレギュラーであり、料理学校の校長、料理研究者の女性、そして司会を務めるお笑いグループの1人である。そして、残り2人は毎回変わるゲスト審査員。
「今日のゲスト審査員は豪華ですよーー!上杉飛鷹君、そして、敦賀蓮さんです!」
審査員席で軽く頭を下げる二人。

「それでは!今日のお題の発表です!!」

スタジオにドラムロールが響き渡り、スポットライトがたくさんの食材の真ん中に置かれた銀の丸い蓋を暗闇の中に浮かび上がらせる。ぱか、と開けられたそこにあるのは・・・

「お題は、"ひき肉"です~~!」
調理者には事前に食材は知らされておらず、本当にこの場でメニューを決めて1時間で完成させる、その臨場感もこの番組の売りだった。調理をする3人は食材を選び、キッチンセットへと移動していく。審査員席はしばらくは見物となるため、リラックスムードになっていた。

「敦賀君は手料理を振舞ってくれるような女性が、断っても途切れなさそうだよねえ」とは黒いスタンドカラーのジャケットを着た料理学校校長。
「いやいや、そんな人、いませんよ。男の1人暮らしのわびしい食生活です」
蓮はにっこり笑って返答する。
「飛鷹君はやっぱりお母さんの手料理よね?」
「うーーん、母も忙しいですからねえ。通いで来てくれるお手伝いさんと、半々くらいかな。でも俺かなり好き嫌いがあるので、いつも怒られてばっかりです」
「あら、大丈夫かしら。今日すごいのが出てくるかもしれないわよ?」
「頑張ります・・」
飛鷹は顔を引きつらせながらも何とか笑みを浮かべてみる。

なごやかな審査員席とは異なり、キッチンの中はかなり賑やかになっていた。
食材をひとつずつ確かめながら、おぼつかない手つきでおっかなびっくり手順を進めている逸美に、案外慣れている様子で余裕を見せる美森。それぞれ司会者とやり取りをしながら料理を進めていく。

「さ、こちらは京子ちゃんです!」
「なんかえらい手際いいですねえ、もうオーブンに火が入ってますよ?」
「何を作ってるんですかー?」
「ええと、メインはジャガイモとひき肉の重ね焼きなんですけど…」
「メインは、てことは他にも?」
「そうですね、時間に余裕があったらスープとサラダでも」

「うおっ。なんかすごいコメントが飛び出しましたよ!」
「お料理上手って言う噂聞いたことありますけど、ホントなんですね」
「ひき肉料理だけでも結構レパートリーあったりします?」
「ええと、そうですね、便利なのでよく使いますよ」
キョーコはキッチンの中をくるくると動き回りながら返事をしている。

あいつら所帯じみた似たもの同士でつるんでるのかよ…
飛鷹はいつかの奏江の実家での出来事を思い返しながら、キョーコの姿を眺めていたのだが。

隣から、「くっ」という喉のなる音が聞こえた気がして顔をそちらに向けた。が、そこにあるのは真顔で座る蓮の姿だった。
気のせいか?と思いつつ目線をキッチンセットに戻すと、今度は「くくくくっ」という音が。
再びそちらを見ると、そこには右手で顔を覆い、俯いて肩を震わせている蓮がいた。

「えっと、ツルガサン?」
恐る恐る声をかける飛鷹に、司会の二人も気がついて蓮の方を見た。
「あれ、どうしたんですか敦賀さん」
「もしかして何か気分でも・・?」

キッチンの3人も何事かと手を止めて蓮を凝視している。

「い、いや‥すみません‥‥ちょ、ちょっと、ぶふっ‥お、思い出し笑いを…」
蓮は止まらなくなってしまった笑いに息も絶え絶えになりつつ、なんとか言葉を絞り出した。

「わ、笑ってるよ、敦賀さんが!」
「笑い崩れてる敦賀さんなんて俺、初めて見たかも!!」
「で、何を思い出しちゃったんですか?」
「そんなおかしいこと、ありましたっけ?」
予想外の事態に慌てつつも、司会コンビはすかさず蓮に突っ込みを入れる。

いまだに肩を震わせながら蓮は続けた。
「や、もが・・京子さんが、ひき肉といったらあれしかないのにって・・・!」
途端にキョーコの顔が真っ赤になり、じろっと蓮をにらみつける。

「敦賀さんと京子ちゃんとひき肉に一体何が!! あれって、何ですか?」


「…は、ハンバーグ…目玉焼きが乗ったやつ‥」


しん、という静寂がスタジオを覆う。
そして、それを破ったのは言われた本人のキョーコだった。
顔を真っ赤に、いや顔のみならず耳から首まで真っ赤にして、叫ぶ。
「つ、敦賀さん!! 本番中に何言い出すんですかーーー!!!」

「え、何々? ハンバーグ?」
「京子ちゃん、ハンバーグ好きなの?」
途端にスタジオ内がざわざわしだす。

(でも別に、ハンバーグ好きって、そんな変なことじゃないよな?)
(でもなんで、京子ちゃんもあんなに真っ赤なんだ?)
司会の二人は目線で会話ながら次の糸口を懸命に探す。

それに対して答えたのは、やっと笑いの渦から回復した蓮だった。
「いや、失礼しました。以前、京子さんと一緒に夕食をとる機会があった時に、何が食べたいか聞いたら、ためらいもなく飛び出してきたのが"目玉焼きがのったハンバーグ"だったので、ちょっと思い出しちゃって・・」

「い、一緒に夕食って・・敦賀さんと京子さんって仲いいんですねえ」
「もしかして、お付き合いしてたりとか・・?」

「お付き合いなんてしてません!! た、たまたまそういう機会があったってだけで・・・!!」
真っ赤な顔で慌てて否定するキョーコ。
「その時、ものすごく幸せそうなホクホク顔でハンバーグぱくついてたんですよ」
蓮はキョーコの反応などお構いなしに、そう言い放った。

「つ、敦賀さん!何も公共の電波にそんな嫌がらせを乗せることないじゃないですか!」
「嫌がらせなんかじゃないよ、本当に嬉しそうな顔してたじゃないか」
「だから!そういうことは今言わなくてもいいんです!」
「なんで今日のメニューはハンバーグじゃないの?」
「今日は自分が食べるために作るわけじゃないですよ!」
「俺も食べたかったな、京子さんの作ったハンバーグ。美味しいのになあ…」
「~~~っ!!ハンバーグじゃなくても美味しいものご馳走して差し上げます!!」
「ああ、それは楽しみだね」

繰り広げられる応報に、スタジオ内は呆気に取られて見守るばかり。司会者二人も口を挟む隙がなく、口を開けて黙って突っ立っている。
蓮がキョーコの作ったハンバーグと食べたことがある、とさらりと告白しているのだが、言われた本人が興奮していて気がついていないのか、会話はそのまま流れていく。しかし口論を繰り広げる当の本人であるキョーコが、小気味いいやり取りを繰り広げながらも手を止めず料理を仕上げていくのはさすがとしか言いようがない。

司会者もなんとか番組の進行に復活し、台本どおり料理完成、試食の運びとなったのだが。
審査員に配られたキョーコの料理の皿には、蓮の物にだけうずらの目玉焼きが乗ったミニミニサイズのハンバーグが添えられ、それを見てスタジオ中大受けとなった。

撮影終了後…

「最上さん、優勝おめでとう」
「…ありがとうございます。でもなんだか、素直に喜べないんですけど」
「なんで?最上さんの料理、とても美味しかったよ?…ハンバーグも。」
「だからもうハンバーグにこだわるのやめてください!変なイメージつくじゃないですか!」
「でも、最上さんがミニミニハンバーグ作ってくれたから、俺のあの発言、カットされることはないと思うよ?」
「……!!!!!!!」
(気がつないで墓穴掘ったのか、この子は・・)

愛しい少女の(ある意味特別扱い)料理を堪能し、仲いいアピールをできてご機嫌の俳優とは対照的に、床に崩れて悲嘆する少女の姿がそこにはあった。




ないようがないのにながいよう。
そして、飛鷹君出したいみがないよう。
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コメントコメント


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Re: こんばんは2

> 瑞穂様

なんだかすごい、全部にコメントつけていただいて本当にありがとうございます!!!

> このハンバーグ発言、蓮の外堀埋め作戦の1つだったんでしょうか。

きっとそうなんでしょうね。
私の中では蓮は策士のへタレです。(書いちゃうと、救いようがないかも)

> 「杜撰な食生活されてるんですから、こんな時ぐらいバランスよくしっかり食べてくださいね」って蓮に言っちゃうのかな~って想像してました。

ああっ。そこまで持っていく手がありましたね!!
考えが浅かったです!!

ぞうはな | URL | 2012/09/04 (Tue) 21:23 [編集]