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社外恋愛 (0) ~予感~

こんばんは!
予想外に三が日明けてからの方が時間が取れず、更新があいてしまいましたー。

さて、今日からはパラレルのお話スタートです。
何話くらいになるか今はまだ不明ですが、少しずつ載せたいと思いますのでよろしければお付き合いください!

一応分かりにくいのでお断りしておくと、この話はキョコちゃんは原作に近い環境設定となってます~~。


~予感~

「京子さん、クランクアップでーす!」
シーン本番の撮影終了後、スタッフの叫ぶ声がスタジオに響き渡った。
パジャマ姿で病室のセットから降りてきたキョーコは、大きな花束を手渡され嬉しそうに微笑んでお辞儀をする。この日、キョーコは最終回まであと3回を残して、連続ドラマの撮影を一足早く終了することとなった。

大きなお腹をゆすりながら軽く手を上げて、ドラマの監督がキョーコに近づいてくる。
「京子君、お疲れ様」
「山田監督!ありがとうございました。お世話になりました」
「いやこちらこそ、薫のあの強烈なキャラがドラマを盛り上げてくれて、京子君にお願いした甲斐があったよ」
「そう言って頂けると嬉しいです」
はにかむキョーコの笑顔は花がほころぶように眩しい。
「薫を殺すなって手紙がたくさん来たんだけどね…さすがにドラマがまとまらない」
「ふふふ。視聴者の方にそう言っていただけるのも有難いですけどね」

早速次のシーンの準備に入ったスタッフを眺めながら監督は尋ねた。
「次のクールのドラマ、主演だったね?」
「はい…初主演なので、ちょっと緊張しています」
「なに、君ならどんな役が来ても大丈夫だよ。"虹色"の京子君ならね」
「やめてくださいよ、そのキャッチフレーズ…なんだか恥ずかしいです」
「役者への究極の褒め言葉だと思うけどねえ。しかも事務所がつけたんじゃないんだろう?胸張っていいと思うよ」
キョーコはもう一度丁寧に監督に挨拶をすると、スタジオを後にした。

クランクアップの感慨にふける間もなく支度を済ませると、キョーコはLMEの事務所へと向かった。
次クールの主演ドラマに深く関わるある依頼をタレント部主任の椹にしていて、今日はその返答がもらえるはずだ。そう思いながら急ぎ足でタレント部に入ると、キョーコの姿を認めた椹が声をかけてきた。
「やあ最上君、ドラマ撮影お疲れ様」
「ありがとうございます。で、あの件、どうなりましたか?」
「ああ、OKだったよ」
よかった、とキョーコは胸をなでおろした。
「タイミングも良かったようだ。ちょうど向こうも1ヶ月集中的に働いてくれる人を探していたらしい」
「そうなんですか」
「うん。経験は不問だが、しっかりやってくれる人じゃないと困る、と念を押されたようだよ」
「ようだって、椹さんが聞いた訳ではないんですか?」
もっともなキョーコの疑問に椹は苦笑した。
「ああ、社長が面白そうだって首突っ込んできてね。君をバイトとして雇ってくれる会社は社長の知り合いが専務をつとめてるところなんだ」
「そうなんですか…」
キョーコの目が泳ぐ。社長であるローリィ宝田が関わってくると、キョーコにとってはいいことがない。なにせキョーコは「ラブミー部」というセクションに強制的に入れられて、どピンクのつなぎ制服を与えられているのだ。それだけで、ローリィを知る人は同情するような目でキョーコを見てくる。

「ああでも、会社はまともなところだぞ。ホッヅシステムズって会社、聞いたことないかい?」
「名前はどこかで…」
「うん、そこだよ。社員が5000人を超えるかなり大きな会社でね。まあ、あとは行ってみれば分かるそうだ」
「分かりました。しっかりお勤めをしてきます!」
「うん。くれぐれも、京子だってことがばれないように気をつけてくれよ。大騒ぎになったら向こうにも迷惑だし」
「お任せください!今のドラマとも、今度のドラマとも全然違う感じに変装しますから大丈夫ですよ!」
キョーコはどんと胸を叩く。

椹はやれやれ、とため息をついた。
「しかし最上君も相変わらず演技に関しては妥協しないね…いくらIT企業が舞台のドラマに出演するからって……仕事風景を見学させてもらうくらいじゃダメなのかい?」
「いえ!私、一度も会社で働いたことがありませんから、直に肌で感じないとやっぱり分かりませんし」
「そうか…まあ、監督の許可も下りてるし、このために1ヶ月スケジュールを調整してるからな……ああ、そうそう。社長から伝言があった。会社の雰囲気とか仕事関係だけではなく、オフィス内恋愛のなんたるかも学んで来い、と」
「…!また社長は何言ってるんですか…!」
「君が相変わらず愛の欠落者が所属するラブミー部にいるのに、恋愛要素があるドラマに初主演だから社長も心配してるんだよ」

心配…ですかねえ

キョーコは、自分が遊ばれてるか、からかわれてるかのどちらかではないかと思うのだが、それは口には出さなかった。今更状況が変わるわけではないし、自分だって、ドラマの中で役柄としてとはいえ嫌悪している『恋愛』をしなければいけないことに不安を抱いている事は間違いない。キョーコは気を取り直して椹から書類を受け取ると、早速それをながめ始めた。
「うわぁ、勤務地が本当にオフィス街の中だ…ロケで行った事はあるけど、オフィスビルの中に入るのって初めてだわ~」
資料を捲りながらぶつぶつと呟くキョーコに、ここもオフィスなんだけど、と椹は答えてみるものの、すでにキョーコの意識はどこかへ飛んでおり、椹の声など耳に入っていなかった。

よし、来週から、頑張ってオフィスの雰囲気をつかんでみせるわ……初主演に向けて出来る事は全部やるのよキョーコ!

キョーコは拳を力強く握って、意気込みを新たにする。この経験は自分の芸能人生にとって何か転機になるはず、そんな気すらしていたのだった。



キョーコが会社でのバイトを開始する日の朝。
あるマンションの1LDKの部屋のバスルームから、1人の男が出てきた。男はTシャツにスウェットのズボンを履き、バスタオルで無造作に頭を拭きながらリビングに向かう。一人暮らしにしてはいささか広すぎるリビングにはほとんど物がなく殺風景だが、ソファやテーブルは品のいいものが置かれていた。

男にとってはいつも通りの平日の朝。
男はリビングテーブルのリモコンを手に取り、TVの電源を入れた。すると、壁際の大きな液晶TVの画面には缶コーヒーのCMが映し出される。カフェオレ、ブラックコーヒー、それぞれに何パターンかが用意されている、最近話題のCMだ。
男は頭を拭く手を止めずに立ったまま画面を眺めた。右上に見出しが出て後ろにキャスターのナレーションが入っていることから、CM画像を朝の情報番組内で流しているものだと分かる。カフェオレのCMには天使、ブラックコーヒーのCMには悪魔に扮した女性タレントや女優がそれぞれいくつかあるバージョンに一人ずつ出演していた。

番組のキャスターが最後のブラックコーヒーのCM映像にかぶせてコメントを入れる。
「さて、この最後のこのバージョンの悪魔を演じている女性が誰なのか、これが今話題になっているんですね~。他の5人の女性は全て公表されているのに、この方だけがシークレットになっているんです」
男は画面に映った美女を見た。つい先日、自分もこのCMを見かけていた。真っ黒なストレートのロングヘア、赤いルージュの妖艶な美女だ。体のラインを強調する露出の多い衣装で、見る者全てを魅惑するような妖しげな微笑をたたえながら革のソファにもたれてこちらを見ている。

誰なのかって…これはタレントの京子だろう?

男は当然のようにそう思った。京子はカフェオレのCMの方にも天使の扮装で出演している。もっともこちらはふわふわの白い衣装に身をまとい、可愛さ満開の全く違う印象を与えるものだったが。

男の考えを知ってか知らずか番組の女性キャスターは少し芝居がかった声を上げる。
「さて!この番組が正解を初めてお知らせすることになるのですが…ヒントです!この悪魔役の方は、実はこのCMシリーズにすでに出演されている方・・・・・・」
画面はもう一度悪魔姿の美女の映像を流す。
「皆さん…分かりましたか?実はこの美女、天使役でも出演しているタレントの京子さんなんです!」
画面は天使の少女に切り替わった。少女は茶色いセミロングのウェービーヘアを揺らし、画面の中を元気に跳ね回っている。その笑顔は無邪気で、先ほどの悪魔の妖艶さは微塵も感じられない。
「いやぁ、ボクも初めて聞いてびっくりしちゃいました」
男性キャスターも映像の後ろで感想を述べる。
「そうですよね!さすが、"虹色"と称される京子さん!現在放送中のドラマでの役柄とも全く違いますし、毎度のことながら、言われても同一人物だとは思えないですよね!」
「ほんと、画面に映るたび別人のように変身しますよねえ。素の京子さんが分からなくなりそうですよね」

確かに見た目は変わるけど…分かるよな?

男は首を捻った。
男は取り立ててタレント京子の大ファンと言うわけではなかったが、なぜか京子が映ると、どんな扮装をしてどんな役柄を演じていても、一目で「これは京子だ」と言い当てることが出来ていた。自分でもなぜ分かるのかは説明できなかったが、むしろ世間一般に『京子だとは分からない』と毎回騒がれることが不思議なくらいだ。

だから社さんに「お前実は京子マニアだろう」なんて言われちゃうのか?

ぼんやりと考えながら突っ立っていた男はテレビ画面に表示された時刻に目をやり、着替えのために寝室へと足を向けた。いつも通りに出勤の準備をし、いつも通りに家を出る。
男…敦賀蓮にとってその日はいつも通りにスタートしたのだった。



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