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こころから


こんばんは。

えぇと、色々と試行錯誤中です。
では、どぞ~。





すきです。

だいすきなの。

だいすき!

すきだよ。



ど、どれもこれもイマイチしっくりこないし…第一言い方以上にきっかけとかタイミングとか……

最上キョーコは撮影スタジオの片隅で一人、おかしな動きを繰り返していた。
パイプ椅子に座って出番を待っているのだが、膝に広げられた台本には目もくれず、上を見上げたり、首を思いっきり振ったり、急に赤くなったり手で顔を覆ってみたり。スタッフや共演者たちはぎょっとするものの、「また始まったか」と、特に触れることなくそっとしておいてくれている。

キョーコが蓮からの告白を受け入れ、めでたく両想いの関係となってから数日が経った。
人気俳優と人気上昇中のタレントという組み合わせのため、付き合い始めたからといって連日一緒にいられる訳ではないのだが、蓮は予告なく仕事終わりに姿を現したり、おやすみコールをくれたりと、こまめに素敵な時間を提供してくれている。

そんな幸せな時間を過ごす中でひとつ、キョーコが気にしていることがあった。
蓮は、電話でも会っている時でも、ごく自然に、「好きだ」とか「可愛い」とか「君が大切だ」とか、キョーコが赤面してしまうけど思わず胸がキュンとなるような言葉をくれる。蓮に「キョーコは?」と請われるとキョーコも「私も好きです」としどろもどろに返すのだが…。

自分から進んでそういう言葉を言ったことがないのよね…。


他の人が言ったらあまりにもキザで不自然であろう甘い台詞たちは、蓮が口にすると全く違和感なく耳から入ってきてしまう。そして蓮から不意打ちのようにささやかれると、戸惑いながらもすごく嬉しい気持ちになる。ということは。

私が同じように敦賀さんへの気持ちを言葉にしたら、敦賀さんも喜んでくれる・・・よね?いつも私にも「キョーコは?」っていうのってそういうことよね??

さすがに蓮のような甘い台詞をさらりと言うのは無理だけど、今日こそは、蓮からねだられる前に、蓮を想っているという気持ちを自分から伝えてみせる!と心に誓い、ようやっとキョーコは思考の渦から戻ってきたのだった。


その夜。
前日の蓮との電話でのやり取りで、今日の蓮の最後の仕事はドラマのロケだと言うことは分かっている。ロケの場所も、さり気なく聞き出しておいた。
キョーコは自分の仕事が終わるといつもと違うメイクをし、髪型を少し変えて簡単な変装をすると、蓮のいるロケ現場へと向かった。

ロケ現場は住宅街の中の割と大きな公園だった。繁華街からは少し離れた場所のせいか、見物客でごった返してしまうようなことはない。ただ、公園の一角が照明で明るく照らされ、たくさんの人が忙しく立ち働いているので、通りかかった人たちが足を止めて撮影の様子を遠巻きにして眺めていた。
見物客に混ざり、キョーコはこっそりとロケの様子を伺う。ちょうど本番前の打ち合わせ中なのか、監督らしき人物と話をしている蓮の姿を見つけることが出来た。

ふふ、いたいた…

結局キョーコはどのタイミングでどう気持ちをこめた言葉を言うのか、決めかねてここに到着してしまったのだが、遠目に愛しい恋人の姿を見られただけでほわほわと幸せな気分になっていた。

周りの女性達が蓮を見つけて興奮気味に喜び合ったり写メを撮ろうと奮闘しているのを見ると、優越感と罪悪感が同時に湧いてきてしまう。本当に自分なんかが蓮の横にいていいのだろうか、と考えてしまうのも、『抱かれたい男No1』を恋人にした女性のしかたのない悩みかもしれない。

蓮は撮影時の動きを確認しながら少しずつこちらに近づいてきている。それに従ってキョーコの周りの女性たちのボルテージも上昇する。本番前なので声を出してもさほど咎められることもなく、「れん~~」という黄色い声もたまに飛んでいた。
キョーコはその熱気に圧されながらも蓮の様子をじっと見ていたが、視線を感じたのだろうか、蓮がふと顔をこちらに向けた。途端に「きゃーーー!」と声が上がり、なぜだか一斉に周りの女性達が蓮に向かって手を振り始める。
キョーコは蓮と目があった気がしてどきりとしたが、大勢の中にいるのだし、少し変装しているし、まさか分からないわよね、と思ってそのまま不自然にならないよう蓮を見ていた。

すると蓮はこちらを見たまま、ふわっと笑ったのだ。
その笑顔はいつものテレビで見せる紳士笑顔ではなく、明らかにキョーコと一緒にいるときのあの笑顔だ。キョーコが(まさか?)と動けないでいる内に、蓮は目を合わせて微笑んだままわずかに頷くと再び遠くへと歩いて行ってしまった。
周りの女性達は「今こっち向いて笑ったよね!」「あああああ あの笑顔!!」と大騒ぎになっている。涙ぐむ人も出る始末だ。そんな中、キョーコは立ち尽くしていた。

明らかに…気がついてた、よね?私だって、分かってくれたの……?


ずるい、とキョーコは思う。
蓮はキョーコが一番嬉しいことを、一番喜ぶことを、なんてこともなくするりとやってのけるのだ。「好き」と口にすることすら躊躇している自分が情けなくなってしまう。今日こそは、今日こそは言うんだから!!とキョーコは決意を新たにした。


やがて撮影が終わり、機材の片づけをするスタッフが忙しく立ち働く中、蓮は手早くロケバスで着替えを済ませるとキョーコの姿を探した。先ほど妙に視線を感じて、思わず見たギャラリーの中にキョーコを見つけたときは、驚きと嬉しさでつい笑みがこぼれてしまった。キョーコは変装をして周りに紛れているつもりだったのだろうけど、そんなことで誤魔化される自分ではない。

それにしても、可愛いことしてくれるじゃないか…

撮影が終わる間際にまだキョーコがいる事は確認していた。きっと撮影が終わるのを待ってくれているに違いない。でも、撮影スタッフや共演者に見つかると困るから、どこかに隠れているんだろう。そう考えながら、人気のない公園の遊具エリアへと足を向ける。

きょろきょろと辺りを見回しながら歩く蓮の姿を、キョーコはすぐそばの滑り台の陰から見ていた。

やっぱり敦賀さん、私だって気がついてたよね…今私、探されてるよね…

その姿を見るだけで、蓮への愛しさがあふれてどうにもならなくなる。胸がいっぱいになって、キョーコは何も考えずに行動に出た。
「敦賀さん!」と叫ぶと同時に蓮の元へと走りよる。振り向いてキョーコの姿を認めた蓮の胸に、キョーコは飛び込んだ。しっかりと受け止めてくれるそのたくましい体に精一杯腕を回してぎゅーっと抱きつく。
「お疲れ様です、敦賀さん…」
「ああ、やっぱりキョーコだ。撮影見ててくれたんだね。こっちに来てくれても良かったのに」
優しく抱きしめ返してくれる蓮の温かく力強い腕の感触に、キョーコは涙が出そうになった。

「ううん…敦賀さんに会いたかったけど、お仕事の邪魔はしたくないんです。だから、いいんです」
それからキョーコは蓮の腕の中で精一杯顔を上げて蓮の顔を見る。事前にどう言葉にしようか、どのタイミングで言おうか、と悩んだことなど、今は吹き飛んでいた。

「敦賀さんの顔見てるだけで幸せになるんです…遠くで見てても、こうやって近くで見てても。ホントにホントに、大好きなんです。苦しくてどうにかなっちゃうくらい、好きなんです」

なかなか言えなくて…と真っ赤になって俯くキョーコに、蓮はしばらくの間無言で固まっていた。キョーコは蓮がまったく反応しないので心配になってそろそろと顔を上げてみる。するとなぜか、蓮は片手を口に当てて、あさっての方向を見ていた。

「敦賀さん…?」
「あっ。いや…その……まいったな」
蓮らしくなく慌てた返答にキョーコは首を捻る。蓮はぼりぼりと頭をかいてから、はあっと息を吐き出した。
「ごめん…すごく嬉しくて…今が夜でよかったよ。赤い顔を見られずに済んだ」
キョーコが目にした蓮の笑顔は、いつもの神々スマイルとはまた少し違って、すごく照れくさそうなものだった。ほけっと眺めていると、蓮の腕が再びキョーコに巻き付いて、ぎゅっと力をこめて抱きしめられる。

「すごく嬉しい…初めてキョーコから好きって言ってくれたね。でも、俺もそんなこと言われたら、苦しくてどうにかなっちゃうよ」
「う、嬉しいって、思ってくれます?」
「もちろんだよ。でも、嬉しいだろうって思ってたけど、ホントに言われてみたら思ってたよりもっと嬉しかった」
キョーコはぱあっと笑顔になる。
「よかったです!私、いつも敦賀さんの言葉に嬉しい気持ちになるんです。だから、お返ししたいなって思ってて」
蓮は慈しむような柔らかい笑顔でじっとキョーコを見下ろした。

「うん…ありがとう。愛してるよ、キョーコ」
これもまた、心の底から湧き出てきた言葉だったのだが・・・キョーコの笑顔は一瞬で凍りつく。
「ふっ……折角好きって言えたのに…またひとつハードルが……」
蓮はおかしそうに笑ってキョーコのほっぺたをむにりとつまんだ。
「無理しなくていいんだよ。今日みたいに、口から自然に出てきたような、そんな言葉だけで嬉しいから」
「はい……」

でもその内、私も照れずに あい・・・あいし・・・・・・てますって・・・言えたら……


心の中で思うだけで どもって赤面してしまうキョーコには、レベルの高い愛の言葉をつむぐのはしばらく無理そうだった。




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