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塔の上のキョーコ【リクエスト】 (中編)


こんばんは!

うさちゃんtb様のリクエスト、中編です。
今回のお話、登場人物がかなり少なそう?





クオンは、キョーコの表情が曇ったことを見て取って、話題を魔法使いから今までの生活のことへと変えました。キョーコから少しずつ聞き出したその境遇は、クオンには信じられないことばかりでした。

親の顔も知らない、学校も行ってない、塔から降りたこともなかった…?
物心着いたころにはここで暮らしていたって…一体この子はいくつなんだ。

「君は…少し前までは塔から降りたことがなかったと言ったけど、最近はここから降りてるの?」
「はい。降りないと…生活していかれないですから」
「どうやって降りたのかな?」
「簡単だったんですよね。伸ばした髪を三つ編みにして、それを伝って人が上り下りしてたんだから、自分もそうすればよかったんですよ。それで、髪の毛切っちゃいました」
キョーコはてへへと笑いながら、窓の横の壁を指差しました。そこには束ねられた黒いロープがフックに引っ掛けられています。キョーコの髪の毛で出来ていると思われるそれは、艶やかでしっかりとしたものでした。

ふむ、とクオンは頷いてから、ちらりとキョーコの様子を伺います。
レンが優しく、時にはキョーコのことを褒めながら話をしてきたおかげで、少しキョーコの緊張は解けてきたように見えます。でも、どうやらキョーコが嫌な顔をする"魔法使い"についての情報がないと、肝心なことへは話は進まないようです。

性急にあれもこれも聞いても、警戒されるだけだな…

レンはしばらく腰を据えて目の前の少女のことを調べることを決めて、お茶を飲み干すとキョーコに声をかけました。
「色々話してくれてありがとう。これからのこともあるし、君の事をちゃんと報告しなくちゃいけないんだ。しばらく、ここに通ってもいいかな?」
キョーコは驚いたようにクオンの顔をしばらく見つめていましたが、やがて小さな声で答えました。
「はい…いいです。でも、私はここでちゃんと暮らしていますから、大丈夫ですよ?」
「うん、君はしっかりしているから大丈夫だと思うけどね」
クオンは笑うと立ち上がり、キョーコに挨拶をすると来た時とは逆に塔の壁を伝って下へ降りました。

塔の下ではヤシロが待っていました。
「案外早かったな」
「ええ…今日1日では、事情は把握し切れなさそうです」
「特殊な案件か?」
「…かなり」
そこで2人は近くの村にしばらく滞在することを決め、馬の鼻をそちらに向けました。村の方へ遠ざかっていく2人の男の姿を、キョーコは塔の上からぼんやりと眺めていたのでした。


村へ着いた2人は、村に一軒しかない小さな宿屋の部屋を取り、手分けして村人たちに話を聞いて回りました。話を聞き終わる頃には日も暮れて、2人はこれまた村に一軒しかない酒場で酒を飲み、食事を取りながら話し合います。

「キョーコちゃんと一緒に住んでる魔法使いってのは、ショウと言う若い男で、派手好きで、女好きで、歌がうまい、と。なんだ、本当に魔法使いなのか?」
ヤシロがぼやくように言いました。
村長を始めとする村人たちに話を聞いて、あの塔にはかつて、夫婦の魔法使いが住んでいたことが分かりました。ヤシロが言った、ショウという魔法使いは、おそらくはその夫婦の子供のようです。村人たちは夫婦が使う強力な魔法を恐れてあまり塔に近づかなかったため、ショウやキョーコがいつ住み始めたのか、誰も知らなかったのでした。

クオンは色々な人から聞いた話を頭の中でまとめながらワインを口に運びます。
「村人たちが気がついたら、もうあの塔には2人しか住んでいなかった、てことですね」
「それで、その若い男の魔法使いも、数ヶ月前からぱったり姿を見せなくなったのか」
「そうですね。そして、そのあとしばらくしてから彼女が初めてこの村に来たんです」

「うーーん…その魔法使い一家は、なんでまたあの塔にキョーコちゃんを閉じ込めてたんだ?」
ヤシロは腕を組んで考え込みました。
「それが一番の謎ですね。監禁されてはいましたが、虐待もされている様子はありませんし、健康そうでしたし」
「うぅ~~ん。それで、キョーコちゃんはなぜ、一人になってもあの塔に住み続けているんだ?」
「それは…彼女自身の気持ちを聞いてみないことには」
「興味は尽きないけど…支援はどうするべきかな?」
クオンも考え込みました。
「保護対象にはなりませんが…彼女が自立する意志があるなら、手伝えるといいですね」
それからも2人は、翌日以降の予定について話し合いつつ、店主や客の村人たちにもさり気なく話を聞いて情報を集めたのでした。

同じ頃、キョーコは塔の上の小屋の中で、自分のベッドに寝転がって考え事をしていました。
今日下から呼ばれたとき、(ショーちゃん、やっと帰ってきたんだ)と、まず喜んでしまったことにキョーコは自分で気がついていました。勝手に出て行ってしまったショウに対する怒りが湧いてきたのは、喜びの感情の後でした。

帰ってくる訳なんてないのに…ばかみたい。
今日きた人、私が何でここに住み続けてるのか、不思議に思っただろうなあ。

自分でも思うのです。髪を切って自由に塔から降りられるようになったのだから、もっと暮らしやすいところに行けばいいのに、と。それが出来ないのは、やっぱり心のどこかでショウのことを待っているからなのか。

「もう期待するのは止めたはずなのにな」

声に出してみても、胸の奥にうずく想いがなくなる訳ではありません。キョーコは気持ちが落ち込んでいきそうで、がばっと起き上がりました。ふと、きれいに洗って置いてあるティーカップが目に入ります。

あの人、明日も来るって言ってたけど…ほんとに?

キョーコは、美形だと思っていたショウを上回る美貌の若者の顔を思いだし、さすが都会の人は格好いいのね、などと思いながら、眠りについたのでした。

翌日以降、クオンは宣言通りキョーコのところに通いました。
徐々に色々な話を聞きだしながら、キョーコが一人で暮らすことに問題がないかどうかをさり気なく観察していきます。
初日に薄々気がついてはいたのですが、キョーコは塔に閉じこもって暮らしていた割には、知識が豊富でした。文字も読めるし、生活に必要なことは大体なんでも知っています。塔の周りで野菜や果物を育てたり、森の中にしかない薬草を干して村に持って行き、食料や日用品とと交換していました。
キョーコは「村長さん達が親切に教えてくれるから」と照れ臭そうに笑いましたが、クオンにはたった数カ月で身に着くようなこととは思えずただ驚かされるばかりでした。
クオンは畑の収穫量を増やすコツや、さすがにキョーコが知らなかったヒズリ国の話などをキョーコに教えて行きました。あまりにキョーコの飲み込みが早いのであれもこれもと勢い込んで教えたら、翌日キョーコが熱を出してしまい、ヤシロに怒られたりもしました。

クオンとヤシロがキョーコの元を訪れてから、2週間が経ちました。ヤシロはキョーコの様子を見つつ、ここに逗留し続ける理由を作りだすために付近の村まで状況視察に行ったりしましたが、クオンはほぼキョーコにつきっきりです。村ではクオンとキョーコが楽しそうに買い物をしたり村人と交流したり、村はずれの大きな木の下で仲良くお昼を食べたりする姿がよく見られるようになりました。
村の若い女性達は都から来た若い美貌の役人とお近づきになりたいのにその隙もなく、嫉妬交じりの眼差しを向けていましたが、そのほかの村人たちは、明るい笑顔を見せるキョーコを見て、ほっとしていました。なぜなら、初めて村に姿を見せてから、キョーコが楽しそうに笑っている顔など見たことがなかったからです。

しかし、村長のサワラは心配そうにつぶやきました。
「キョーコちゃんが笑顔を見せるのはいいことだけど、あのツルガと言う男は都の役人だろう…また残されるのも、可哀想だな」


クオンとヤシロの滞在が、3週間を超えようとする頃。
その朝、ヤシロは一人で悩んでいました。
ヤシロには、クオンがキョーコに惹かれていることがよく分かっていました。最初は情が移ったのかと思ったのですが、クオンの目はキョーコを見るときだけ、今まで見たことがないくらい甘く柔らかい光をたたえるのです。
「そろそろ戻らないといくらなんでもまずいよなあ…かといって、いくらクオン王子が惹かれてるからって、あの子を城に連れていく訳にもいかないし…大体キョーコちゃんの気持ちもよく分からないし…なんかまだ、魔法使いの事思ってるところがありそうだしな」

ぶつぶつとヤシロが呟いていると、宿屋に1人の男が飛び込んできました。ヤシロの姿を見るとホッとした顔をしましたが、すぐに表情を引き締めて、丸められた書状をヤシロに手渡しました。書状の封には王家の紋章が刻まれています。何事かとヤシロが男の顔を見つめると、男はこわばった顔でヤシロに告げました。
「すぐに王城にお戻りください。国王からのご命令です」

その日、キョーコは塔の下でクオンを待っていました。2人は森に薬草を摘みに行く約束をしていたのです。
ところが、いつもは歩いてやってくるクオンが今日は馬で駆けてきました。どうしたのだろう、と立ち上がって近づくキョーコの元へ、クオンは硬い表情で歩み寄りました。

「キョーコちゃん。ごめん、今日の約束を守ることができなくなった」
「どうしたんですか?」
心配そうに聞くキョーコに向けられたクオンの顔はとても辛そうでした。
「西の隣国が、ヒズリ国に突如攻め込んできた。国境が超えられて……すぐに行かなくちゃならなくなったんだ」
「えええっ!レン様、戦争に…行かれるのですか?」
「うん…どうしても行かなければならない。ついさっき、城からの命令書が届いたんだ」

キョーコは困ったように視線をさまよわせましたが、きゅっと唇を引き結ぶと、真っ直ぐにクオンを見ました。
「わかりました。今まで、たくさん面倒を見てくださって、ありがとうございました。私はもう、大丈夫ですから。大丈夫ですから、戦争に巻き込まれて困っている人たちを、救ってあげてください」
「キョーコちゃん…」
「レン様が来てくださったおかげで、私すごく楽しかったし、いろんなことを学べました。村の人たちとも仲良くなれました。全部、レン様のお陰です」
キョーコはにっこりと笑ってみせました。けれど、その体は少し震えていました。

クオンはたまらずに、キョーコの華奢な体を引き寄せ、その腕の中におさめていました。
「ごめん…キョーコちゃん。でも、君がいいと言ってくれるなら、俺は…もう一度ここに戻ってきたい。君とこんな突然のお別れは嫌なんだ」
「レ、レン様…!」
「約束させて、キョーコちゃん。俺は戦争での役割を果たしたら、必ずもう一度ここに来る。いつになるかは約束できないけど、必ず戻ってくるよ」
キョーコは思いがけない言葉に驚きながらも、何回もクオンの腕の中で頷いていました。
「はい…必ずご無事で、ご無事で戻ってきて下さい。私、ちゃんとここで待ってますから…!」

クオンはキョーコの体をそっと離すと、その顔を見つめてふんわりと笑いました。
「うん。約束だね」


クオンは合流したヤシロとともに、馬を駆って王城への道を急ぎました。
キョーコは二人の後ろ姿を、見えなくなってもずっと見つめていました。キョーコはしばらく気がついていませんでしたが、あとからあとから涙がこぼれて、その目に見える景色はぼんやりとにじんでいたのでした。



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