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自覚 (Side Ren)

なんだか、苦しんだ割にすっきりしません。…精進します。

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映画の共演女優が俺のことを熱い眼差しで見ているのは分かっていた。
しかし、彼女の思いが役にまで影響を及ぼすとは正直予想外だった。
思うような画が撮れず、困った監督の提案にも乗るしかなかった。
カインを演じていた時のことを思えば、撮影時以外に役柄として過ごすことも、さほど抵抗はなかったから。

一番の心配事は、その状態で会いたくない人がいることだけだったんだ。

テレビ局で最上さんに偶然に会うこと、共演することなんて、今までそれほどなかったはずだった。顔を見たい、言葉を交わしたいと思っている時はなかなかそんなチャンスがないのに、なるべく会いたくないときに限って…2週間に3回も遭遇するなんて。3回とも、健太郎としている時だなんて。

察した社さんが事情を説明してくれて助かったのだが、気を遣っているのか、最上さんは挨拶をするとすぐさりげなく離れていってしまう。おかげでこちらは顔を見られているにも関わらず、言いようのないイライラが溜まっていってしまう有様だ。

今日は特に同じ番組に出演だったので、…正直、堪えた。
収録後、挨拶をしてくれたと思ったらあっという間に姿が見えなくなっているし。
紗弥香さんはすぐに次の仕事へと向かったため、俺は迷う間もなくスタジオを飛び出し、足早に楽屋の方へと向かった。
ちらりと目があった社さんの顔が、少し笑っていたような気がしたけど、構っていられない。あとで遊ばれるのは覚悟の上だ。

『京子様』と書かれたプレートのかかったドアの前に、立つ。
ひとつ息を吐いてノックをしようと右腕を上げたところで、ふと、考える。

俺はここで、最上さんに何を言おうとしてるんだ?

ごめん、と謝る?
いや何を。

誤解しないでほしい、と頼む?
社さんから説明されてるんだ。誤解なんて、とか色々否定されるに決まってる。

一瞬迷って止まっていたら、不意に目の前のドアが開いた。
びっくりした顔で、ドアノブに手をかけたまま俺を見上げて固まっている君。…しばしの沈黙の後、なんとか口を開いた。

「あ、ごめん、もう次の仕事の時間だったかな?」
「い、いえ、今日はこれで仕事は終わりで帰るだけですけど」
「…俺もまだ次の仕事までは時間があるんだけど、少しだけ、いいかな?」

そして、最上さんの楽屋に通され、お茶を出されて座る。
最上さんはなんとなく落ち着きがなさそうに見える。さっきから、目線が合わないし。でも、こうやって顔が見られて、なんとなくざわついていた胸が凪いでくる。
「あ、あの…どうなさったんですか?わざわざ私の楽屋まで来ていただくなんて」
「うん。素の敦賀蓮として、最上さんに会いたいな、と思ってね」
先ほどの逡巡が嘘のように、素直な言葉がこぼれ出た。

ああ、またそんな瞳がこぼれそうなくらいびっくりした顔して…。苦笑しながら言葉をつなぐ。
「だって、今日もこの間もその前も、気を遣ってちょっと遠慮されてたみたいだし」
「え、遠慮と言いますか、お二人の取り組みをお邪魔してはいけないかなと思いまして」
「うん。そうか、ありがとう。ごめんね、気を遣わせて」
「いえ!そんな!!むしろ、お芝居に対するお二人の熱意と真摯さに感動してるんです!」

熱意と真摯さね…
むしろあの共演女優が熱意をすべて芝居に向けてくれたらこんな事態には…いやいや、愚痴をこぼしに来たんじゃないんだ。

「紗弥香さんも大変な役ですよねー。天然プレイボーイの敦賀さんに口説かれて素っ気なくしなくちゃいけないなんて」
…なんだその、天然プレイボーイって。君の中では俺はそんな存在なのか??
「最上さんならなんてことなく演じそうだけどね」
「う…それはどういういみでしょうか…?」
「天然プレイボーイとかうっかりホイホイな遊び人なんて、君なら軽蔑してぱっと捨てそうだ」
「そ、そんな、尊敬する先輩を軽蔑して捨てるなんて」
「俺がうっかりホイホイな遊び人とかプレイボーイなところは否定しないんだね」
「……」
ああ、青くなった。本当に君は表情がわかりやすくて面白いね。
「むしろラブミー部の最上さんなら、俺の愛を受け入れる演技に難航しそうだ」
「……」
あれ?今度は赤くなるの?それって少しは…。いや、期待するのはまだ早い。
「君なら、どう反応して見せてくれるのかな…」
机に置かれた白い手をつっと取って、口元に近付ける。

「最上さん、愛してるよ…君を、愛してる」

手の甲に口づけてからゆっくりと目を上げ、熱く見つめて囁いてみたら、今日一番の驚愕顔が見られた。
それ、あんまり愛を囁かれた女の子のする顔じゃないと思うんだけど。顎が、落ちそうだ。

「…ぶっ。くっ。くくくく…」
あんまりすごい顔で固まっているので、思わず吹き出してしまったら。
「ひ、ひどい!また、またからかったんですね!!!」
慌てて手を引っ込めて、耳まで真っ赤にして抗議してくる。
「からかったんじゃないよ。どういう演技で返してくれるのか、試しただけだって」
「そ、それにしても…演技にしても今のはおかしいです!しかも不意打ちです!反則です!!」
「君の返しこそ反則だろう。女優としてはなかなか見られない表情だったよ?」
「ぐぅっ…」
いつもの軽いやり取りにほっとする。

「さて、そろそろ時間かな。帰るところを引き止めて、悪かったね」
「いえ!そんな、わざわざ来ていただいてありがとうございました!」
「ううん、こちらこそありがとう」
「何もお礼を言われることなんて…」
「いや、最上さんと話をしただけで気分が晴れたよ。また、よろしくね?」
「わ、私でよろしければいつでもお付き合いいたします!」
じゃ、と楽屋を後にした。
きっと君は、俺が何をしに来たのか不思議に思ってるんだろうね。でも、君とたわいないやり取りをするだけで気分が軽くなるのは本当なんだ。

素直になれない自分に苦笑しつつ、素直に好きな相手を口説きまくる、自分の役柄である健太郎を羨ましく思う。
でも、健太郎が口説く相手の向こうに俺が君を見ていることは、君にはまだ内緒。

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コメントコメント


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Re: こんばんは

> 瑞穂様

コメントいつもありがとうございます!
メンテ中だったのですかね?コメント重なってなかったです。お気遣いありがとうございます!!

告白されて ときめくよりも 恐れおののいたり悪態ついちゃうキョコちゃんが、なんだかとっても可愛くて好きだったりします。

> なんだかまた毛染めのことが気になってしまいます。

気になりますよねー。眉って、目に近くて怖いです。薬垂れたら、とか。
そういえば ひげってどうなんでしょうね?(新たな謎です)

> 私は甘いお話が大好きなので、甘い妄想が多いのかもです。

甘いお話読むの大好きで、読ませていただいてきゅんきゅんして ほわ~ってなるのですが、自分じゃ書けないんですよね。
まあしょうがないとあきらめています・・。

ぞうはな | URL | 2012/09/04 (Tue) 21:16 [編集]