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塔の上のキョーコ【リクエスト】 (前編)


こんばんは!
今日は寒いけど晴れていて星がきれいでした。

さて、今日はうさちゃんtb様からのキリ番リクエストです。リクエスト、ありがとうございます!
リクエスト内容はこんな感じでした。

『昔話を題材としたパラレルの甘々蓮キョで最後もしくは途中で今号のカレンダーのような結婚式を上げる二人が見たいです。』

おおお!甘々!
ておののきましたが、作ってみました。おそらく、3回でまとまる、はずです。
ちなみに昔話を題材にしてみたのですが、筋はかなりずれています。
それではどぞ~。

あ、ちなみに。
私のこれまで通り。初回は甘くありません…。





さて、それはいつの時代のことだったか。

ヒズリ国という豊かな国の片隅にある小さな村。そこからさらに少し離れた森のほど近く。
そこに、高い塔が建っていました。不思議なことにその塔には入り口がなく、下のほうは大きな石をびっしりと積んで作られており、頂上に小さな小屋が乗っていました。その塔がいつから建っていたのか覚えている人はいませんが、出入り口のないその塔には人が住んでいました。村人たちは皆、その塔の住人の事を知っています。

住人の一人は魔法使いショウ。そしてもう一人の住人はキョーコという少女でした。
魔法使いショウは、たびたびその塔から下りてきて、魔法使いだと言うのになぜか村々を歌を歌って回っていました。ショウは歌がうまかったので、酒場や食堂からお呼びがかかることも多く、容姿が整っていたので、ファンになる若い女性もあちこちの村にたくさんいました。

一方のキョーコは、村人の前にその姿を現した事はありませんでした。
いつも塔の上の小屋の中で小鳥相手に歌を歌いながら暮らしており、たまに通りかかる村人に挨拶をしたり、天候が荒れそうなときは森に入ろうとする村人に忠告をしたりしていました。
村人たちは魔法使いの仕返しを恐れて口も手も出せずにいましたが、塔の上だけで生活しているキョーコを気の毒に思って、たびたびキョーコに差し入れをしていました。そのため、小屋の窓から顔だけ見せるキョーコでしたが、村人との関係はそこそこ良好でした。

さて、ショウはどうやって入り口のない塔の上の小屋に出入りしていたのでしょうか。ショウが塔に帰ってきたときは、下からこう呼ぶのです。
「おい、キョーコ!髪たらせよ!」
すると、塔の上からするすると1本の黒いロープが下りてきて、ショウはこれを伝って塔をよじ登ります。このロープは実はキョーコの長い長い長い髪の毛を三つ編みにしたものでした。おそらく、ショウの魔法はこんなところに使われているのでしょう。

村人からの差し入れと、ショウが気まぐれに持ち帰る物で成り立っていたため、キョーコの暮らしはとても質素でした。でも、キョーコはショウのことが大好きだったので、ショウが居心地のいいようにと工夫を凝らして、小屋の中に快適な空間を作っていました。そして、いつ帰ってきてもいいようにと、塔の上で一人、長い髪の手入れをし、ショウの好物を用意してその帰りを待っていたのでした。


ある日のことです。
街道から塔に向かう細い道を、馬に乗った2人の男が辿っていました。馬はこの辺で見かける痩せた農耕馬とは違い、大きくしっかりとしたいい馬です。そして、その馬の手綱を握る2人の男も、豪華ではありませんがきっちりとした身なりでした。
「分かりやすいな、あの塔」
男達のうち、メガネをかけた若者が前を行く男に声をかけました。
「そうですね。結構な高さですが・・・どうやって作ったんでしょうね」
前を行く若者が振り返らずに答えます。
2人の若者は身なりがいいだけではなく、いわゆる「イケメン」でした。特に前を行く若者は背が高く、黒髪に黒い瞳を持つ、それはそれは見目麗しい青年です。

「それにしても、お前も本当、物好きだよな。あんな噂話でわざわざ自ら出向くとはねえ」
メガネの男がやれやれ、とこぼしました。
「ヤシロさん、いつも言ってますが、こういう現場は自分の目で見なければ、城で報告だけ受けたって理解が出来ないんですよ」
「それは分かってるけどさ。もう視察も何回目だ?キリがないじゃないか」
「もちろん、国中の恵まれない人々をすべて救えるとは思ってませんよ。でも、可能な限りは把握しておきたいんです」

黒髪の青年は、この国の第一王子であるクオン王子でした。王様とお妃様の間には、子供がクオン王子一人しか生まれなかったため、世継ぎとしてとても大切に育てられていました。あまりに大切にされすぎたので、思春期に一度ぐれて城を飛び出し、国中を放浪したものでした。でもおかげで、城にいては見えない国の問題を実際にたくさん目にして、国民にもっと広く幸せをもたらしたい、という気持ちを抱いて城に戻ることになったのです。
それからというもの、王子はその身分を隠して下っ端役人に変装し、報告が入ってくる問題を時間の許す限り自分の目で見に行っています。それによって、法律や制度の改正を行い、地方役人の不正を正しているのです。この日は、数ヶ月前に城に入った、「少女が魔法使いによって長い間高い塔の上に監禁されている」という報告を元に出向いてきたのでした。

聞き飽きた、と言わんばかりにメガネの青年が話を変えました。
「仕事熱心なのはいいんだけどさ。王様はそろそろ次の世継ぎの顔が見たいみたいだぞ」
「またその話ですか」
「浮いた話一つないから心配されてるんだよ」
「俺はまだまだ若いんですから、しばらく妃はとりません」
「どこぞの少子高齢国じゃないんだから、21で結婚にはまだ若いなんて言わせないぞ!」

ずばずばと王子に意見する若者は、ヤシロと言って、クオン王子の乳母だった女性の一人息子です。幼い頃から兄弟のように育ち、クオン王子が気を許せる数少ない人間の一人でした。大人になった今でも、王子の執務のサポート役を務めています。王子にとって頼もしい右腕なのですが、口やかましいのが面倒なところでした。

「さて、どうしたもんですかね」
クオンはヤシロの言葉を無視して呟きました。ちょうど塔の下についたのですが、周りをぐるりと回ってみても入り口らしきものは見つかりません。耳を澄ませると、塔の上からは女性の声でしょう、きれいな歌声が聞こえてきています。
「クオン、本当に塔の上に人がいるみたいだぞ」
「ヤシロさん、今はクオンじゃなくてレンですよ」
クオンはヤシロを窘めました。クオン王子は変装しているときは下っ端役人のレン・ツルガを名乗っているのです。
「ああ、分かってる。さて、どうする?報告にあった噂話を試してみるか?」
「そうですね・・・」

2人は馬を下りると、はるか上に見える小屋の窓の真下に立ちました。無言で頷きあうと、クオンが上に向かって大きな声で呼びかけます。
「キョーコ!髪をたらしてくれ!」
聞こえていた歌声がピタリとやむと、なにやらがたごとと物音が聞こえました。そして、怒った声が返ってきました。
「このバカショーー!どの面下げて帰ってきたっていうの!」
窓に人影が見えたと思うと、何かがぶんと投げつけられました。クオンが微動だにせず額の真上でばしっとその何かを片手で受け止めます。
「すごいコントロールだな」
ヤシロがクオンを心配するでもなくクオンの手の中の物を覗き込むと・・・そこにはマスタードの大きなガラス瓶がありました。(あの高さから投げたら十分殺傷能力があるぞ)と思いながら二人が塔を見上げると、小屋の窓はぴしゃりと閉められています。

「さて、どうする?」
ヤシロがクオンに問いかけました。報告では、魔法使いは先ほどの呼びかけによって下ろされるロープのような長い髪によってこの塔をよじ登っている、ということでしたが、どうやら少女は誰かに怒っているようで、髪を下ろしてくれる気配はありません。クオンは塔の壁面をざっと眺めてから、答えました。
「自力で登るしかないでしょうね」
「え、これを?落ちたら大怪我だぞ」
「と言いましても・・・それ以外に手はないですし、マスタードがないと上の少女が困るでしょうし」

そういう問題かよ、と呟くヤシロをよそに、クオンはさっそく上着を脱ぐと、マスタードの瓶をズボンのポケットに無理やりねじ込んで塔の石組みに両手をかけました。登ろうという意志を持つと、石組みに触れた両手にびりびりっとしびれが走ります。
「これは登ろうとする者を拒む魔法か?・・・面白い」
クオンは不敵な笑みを浮かべると、痺れをものともせず塔の壁面をすごい速さで登り始めました。

ヤシロはすいすいと登っていくクオンの姿を口を開けて見守っていましたが、我に返ると後に続こうと塔の壁面に手をかけました。ところが、登ろうと力をかけた瞬間、びりびりっと手がしびれて、思わず手を離してしまいました。しかも、石組みはみっちりと組まれていて、手がかりもほとんどない状態です。
「クオン・・・よくこれをあのスピードで登るな・・・」
ヤシロは自分が登る事は諦めて、塔の下でクオンの帰りを待つことにしたのでした。


クオンはあっという間に小屋までたどり着くと、窓から中を覗き込みました。小屋の中では、一人の少女らしき人が丸いテーブルに突っ伏しています。クオンは窓を軽くノックしてみました。
ノックの音に驚いて、少女ががばりと体を起こします。そして窓を見ると、信じられない、という驚愕の表情になり、駆け寄ってきました。

「やあ、こんにちは。君が落としたマスタードの瓶を返したいんだけど」
少女はクオンの言葉に恥ずかしそうな顔で頬を真っ赤に染めると、クオンに一度下に下がるようにお願いしました。クオンが体を引っ込めると、外開きの窓がきぃっと開け放たれます。それを確かめて、再度クオンは体を引き上げると改めて挨拶をしました。

「はじめまして。俺はレン・ツルガと言う国の役人です。少し話を聞かせてもらってもいいかな?」
こうして、クオンは小屋の中に招き入れられたのでした。


クオンは部屋の中に入って、少し驚きました。
下から見上げたときは塔の上の小屋はとても小さく見えたのですが、中に入ってみるとゆったりと快適な広さがありました。部屋は隅々まで掃除が行き届き、大きな窓から差し込む日の光で明るく、とても居心地がいい空間です。
そして、監禁されていると聞いていた少女はほっそりとしていましたが頬はふっくらとして血色がよく、瞳もしっかりと光をたたえています。そして、報告では、ありえないほど髪が長く、それをロープ代わりにしているとあったのに、少女の髪は肩につかないくらいの短さでした。

少女は手早くお茶を入れると、ティーカップをクオンの前に置きました。それから自分のカップも置き、クオンの対面に座ります。キョーコの顔は少し不安げでした。

クオンはお礼を言うと、出されたティーカップに口をつけました。
「うん、おいしい。お茶を入れるのが、上手だね」
褒められて、少しキョーコの表情が緩みました。少し恥ずかしそうに笑う顔が、とても愛らしい少女です。一体どういった事情があって、この少女はこんな高い塔の上で暮らしているのでしょうか。少女を警戒させないよう、クオンはできるだけ柔らかい口調で問いかけました。
「君の名前はキョーコちゃん、であってるかな?」
こくんと少女が頷いたのを見て、クオンは続けます。
「俺は、国民の福祉に関する仕事をしてるんだけど、君がこの塔に暮らしているという報告を受けて、ここにきたんだ。魔法使いと一緒に住んでいると聞いたんだけど、本当かな?」
「魔法使い」という言葉を聞いたキョーコの眉間に、ぴくりとしわが寄りました。その様子をクオンは注意深く伺います。
「さっき、塔の下から君を呼んだ俺のことを、その魔法使いだと思ったのかな?」

キョーコはテーブルをじっと見つめていましたが、やがて目線を上げてクオンを見ると、ためらいながらも口を開きました。
「あなたの言う…魔法使いとは、一緒に住んでいましたが、今ここにはいません」
「出かけているの?」
キョーコは目を逸らして、呟くように答えました。
「出て行きました。多分もう、ここには帰ってこないと思います」




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