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葛藤


ええと。
頭が甘いモードのうちに、書いておきます。

甘いうちに入るかどうかの判断は、読んでいただける皆さまに、委ねます。

では、どうぞっ!





「・・・んん・・・・・・」

鼻にかかるような小さな声に、我に返った。
気がつけば、随分長い間その唇を貪っていた気がする。頬に添えていたはずの左手は髪に差し入れられて後頭部をしっかりと引き寄せ、右腕は体同士が密着するほどにがっちりと華奢な腰を抱え込んでいる。軽く啄ばむだけのキスをしていただけのはずだったのに・・・?

内心の動揺を気取られないように、腕の力を抜いて殊更ゆっくりと唇を離す。至近距離にある顔を見つめると、閉じられていたまぶたがおずおずと開き、潤んだ瞳が見上げるようにこちらを見つめた。上気した頬と半開きの濡れた唇が、自分を誘っているように感じられて、もう一度顔を近づけそうになるが、なんとか思いとどまる。

"ついうっかり"なんてみっともない姿を見せたくなくて、動揺と欲望をきれいに隠し、愛情だけを乗せてにっこりと笑ってみせた。

考えてみれば、君を一方的に想い続けていた間はずっと、つい抱きしめたくなる衝動と戦っていた。時間はかかったけど、やっと想いを通じ合わせることが出来て、君の瞳に自分を映すことが出来て、これでもう、あんな風に悩むこともなくなると思っていたのに。

君とのことを社長に報告した時、早急な行動を慎むように遠まわしに示唆された。そんなのは当たり前だと軽く答えてのけた自分が、浅はかだったと今は思える。俺の答えを聞いて呆れたように笑った社長はきっと、こんな事態を予想していたのだろう。

理屈で考えれば当たり前。君はまだ未成年で高校生。その上テレビで活躍する有望なタレントであり女優だ。俺一人の欲望で君をスキャンダルに巻き込むわけにもいかないし、世間に糾弾されるようなこともさせられない。理屈では、分かりすぎるほど分かっているのに。

君に色気がないなんて、そんなとんでもないことをあの男はなぜ君に吹き込んだんだ。おかげで、まったく自覚がない君の表情や仕草にどれだけ自分が試されている気分になっているか、君は分かっているのかな。

◇◇◇◇◇◇


「・・・んん・・・・・・」

思わず声が出てしまって、顔にカッと血が集まるのを感じた。
いつもより長く深いキスに酔わされて、頭がふわふわしていたのかもしれない。そっと唇が離されるけど、聞こえてしまったのか確かめるのが恥ずかしくてなかなか目が開けられない。ようやっと目を開けてそっとうかがうと、すごく優しい顔で微笑まれてしまった。

こんなとき、「ああ、ずるいなあ」って思ってしまう。あなたは年齢も、見た目も、そして中身もしっかりした大人の男の人で。私はまだまだ子供。さりげなくリードしてくれるあなたに、パニックになっている私を優しく見守ってくれているあなたに、4歳という年齢以上の経験の差を感じてしまう。私が何をしても何を言ってもきっとあなたには幼く感じられているんだろうと思うと、すごく切なくなる。
キスだって、きっと、あなたが今まで付き合ってきたような大人の女の人なら・・・・・・もっと上手に応えるんだろうと思う。

でもでも、まだ私は子供だけど、もうちょっとだけ大人扱いして欲しい。
そんなこと、口が裂けたってあなたには言えないけど。

こんな私でも、一気に距離が近づいたあなたのことを、男の人なんだって実感してしまう瞬間が増えているの。抱き寄せられたときに触れる固い胸板も、強い腕の力も。見上げる、ごつごつとした喉仏も、耳元で囁かれる低い甘い声だって。

もっと触れたい。もっと触れて欲しい。
言葉ではとてもとても伝えられないから、せめて100分の1でも伝わってって思って見つめてみても、いつもの優しい笑顔で包み込まれて終わりになってしまう。ほら、今だって…

◇◇◇◇◇◇


君がじっと見つめてくるその視線に、自分と同じ感情が見えるなんて、そんな都合のいい解釈をしそうになって、誤魔化すように笑いながら、その柔らかい髪をさらさらと梳く。

二人きりの部屋で君の作った食事を食べて、一緒にソファで並んで座って話をして、こうして嫌がることもなくこの腕にその身をあずけてもくれるというのに、俺は一体何が不満だって言うんだ。間違いなく君とこうしていられるのは俺だけに与えられた権利だと分かっているのに。

君の一番になれるだけでいいと思っていた。
抱きしめられるだけで満足だと思っていた。
君の唇に触れられたら幸せだと思っていた。

でもそんな思いは決してそこで留まることがなく、ひとつが満たされれば更に次の欲求が湧いて溢れてくる。
際限のないこの欲にため息が漏れそうになって、すんでのところで思いとどまった。ため息なんてついて、君に悲しい誤解をされたりしたら、たまったものじゃない。

ああでも、まだそんな瞳で君は俺を見るの?
このままいたら、君を帰してあげられなくなるかもしれない。わざと時計に視線をやって、君に声をかけた。

◇◇◇◇◇◇


「そろそろ帰らないといけない時間だね。明日は、学校に行くんだろう?」
時計に目をやったあなたはそう言って、そっと体を離した。

ほら、ね。あなたは私がこんな気持ちでいるって気がついていない。ううん、もしかしたら気がついているかもしれない。気がついているけど、まだまだお子様な私にそんな風に思われても、迷惑なだけなのかな。

私のことを大切にしてくれている。
私のことを好きだと言ってくれる。
私のことだけ、すごくすごく優しい瞳で見てくれる。

分かっているのに。
分かっているのに、それ以上を求めてしまうのは、私のわがままなんだろうと思う。あなたとこうして一緒の時間を過ごしているだけで、すごいことだと思うのに。
でも、ただ優しくされるだけじゃ、まるでヒール兄妹のよう。妹みたいな、存在なの?そう考えると悲しくなるから、できるだけ考えないようにしてる。きっと勇気を出して聞いても、「妹にこんなキスなんてしない」って笑って言われるだけだと思うから。

でもなんでだろう、今日は、ちょっとだけ、ちょっとだけわがままを言ってみたい気分。さっきの熱いあなたのキスが、私の中でまだ熱になって渦巻いているから?
困らせるだけかもしれないけど、私の気持ち、受け取って欲しいから。応えてくれるのは、今じゃなくてもいいから。いつかきっと。

もう一度あなたの体に腕を絡めて、そのたくましい胸におでこをつけて、そっとそっと、呟いてみるの。
ねえ、あなたはどんな顔で聞いてくれる?

◇◇◇◇◇◇


いつもなら素直に立ち上がるのに、なぜか今日は違った。
君は自分から近づいて、俺の体に抱きついてくる。驚いて息をのんだら、呟く声が聞こえた。

「もう少し…もう少しだけこのままで…」

君は、俺を殺す気か!


衝動的に、折れるほど抱きしめたくなったけど、できるだけそっと、でも力を込めてその華奢な体を包み込んだ。

「君は…どういうつもり?そんな熱い眼差しで、そんなこと言ったら、本当にどうにかしてしまうよ?」
脅しも込めて耳元で囁いてみたら、赤くなりながらも予想外の言葉が返ってきた。

「私、敦賀さんと付き合うには色気もなくて子供で、でも、でも…」
「誰が、子供だって?」
思わず問い返してしまった。

「だって、いつも、敦賀さんは大人で、私は妹みたいなのかなって。いつも優しく笑ってくれるけど、女として、魅力足りないかなって」
さっきまで我慢していたため息が、思いっきりこぼれ落ちる。
不安げな顔をしている君を見て、自分の行動が裏目に出ていたことを痛感した。

「まるっきり、逆だよ……キョーコ。…君を、襲いそうになるのを我慢して必死でいると、取り繕って笑うしかなくなるんだ」
「ええ?」
「いつだって、君はとびっきり魅力的だ。笑い顔も怒り顔も真剣な顔も、全部。いつでも抱きしめたいし、いつでもキスしたいし、その先だって…」
ほら、真っ赤になるじゃないか。そんな娘を、無理やり襲える訳ないだろう。

「覚えていて、キョーコ。俺はいつだって、君だけを見て君だけを望んでる。誰よりも、何よりも」
「わかり…ました…」
「でも君の現在、将来、色々考えたら、ね?何より、俺が欲望のままに動いたら……社長に殺される」
ようやっと笑ってくれた。さっきの君の熱い視線は、俺の願望や勘違いじゃなかったんだね。

ねえキョーコ。焦らず、ゆっくり進もう。
この時間だって、もどかしいけどその分幸せなんだ。
だからその熱い眼差しは、もう少し先まで取っておいて。
でもそうだね、折角だから今日はこのまま、もう少しこのままで…。



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コメントコメント


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このお話好きです。

今晩わ。一年以上も前のお話のようですが、優しくてほんのり甘くて、じんわり暖かいいいお話ですね。ぞうはな様の丁寧な感情描写も優しさに満ち溢れていてうっとり読んでしまいました。続きというものはないタイプのお話でしょうが、こういうお話をまた拝読したいと思いました。どうもありがとうございました。

Genki | URL | 2013/12/20 (Fri) 00:11 [編集]


Re: このお話好きです。

> Genki様

こちらの短編読んでいただけたんですね。ありがとうございます。
そしてお褒めいただけて光栄です\(^o^)/
精いっぱい積極的なキョコさんと耐える蓮さんの葛藤ですが、そうですねー。たまには甘ーいお話もかければな、と思います。


ぞうはな | URL | 2013/12/20 (Fri) 21:51 [編集]