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自覚 (Side Kyoko)

あんまり出てきませんが、オリジナルキャラが顔を出します。
うーむ。


「おはようございます!」
特番のトーク番組の収録スタジオ。向こうから歩いてくる、見間違いようもないシルエットを見つけて、挨拶をした。柔和な笑みをたたえているその顔は、彫刻のように整って、見るものすべてを魅了する。
「おはよう、最上さん」
いつものように挨拶を返してくれたけど、私はそれ以上言葉を継ぐことができなかった。

敦賀さんのすぐ隣には、私よりも可愛くて、私よりもスタイルがよくて、私よりも色気があって、私よりも人気も知名度も高い女優の紗弥香さんがくっついてる。
いつも敦賀さんの隣にいる社さんは、5歩くらいあけて遠慮がちに後ろに。
思わずため息をつきそうになって、ぐっと笑顔の後ろに飲み込んだ。

「そろそろ収録準備ができてるみたいだし、行こうか?」
敦賀さんは紗弥香さんに甘い笑顔でそう呼びかける。
「言われなくてもわかってるわ。」
紗弥香さんはほんのりと顔を赤らめつつも、ちょっと偉そうな物言いで先に歩いて行く。その後ろを、背中に手を添えながら敦賀さんが続く。
敦賀さんが紗弥香さんを愛しそうに見つめているのを見て、胸の奥がきゅっと痛くなった。

二人の後ろ姿を見送っていると、ちょっと疲れた顔した社さんがやってきた。
「おはよー、キョーコちゃん。ごめんね、今日も蓮があんなんで・・」
私は慌てて、社さんの言葉をさえぎってしまった。
「そんな、社さんに謝っていただくことなんて何もないですよ!いやむしろ、お芝居のために、共演者のために尽くされている敦賀さんには感動しているんです!」
後ろめたさがあったためか、最後は握りこぶしで力説してしまった。
うん、その気持ちに嘘はないのよね。それだけではないってだけで。

敦賀さんと紗弥香さんは、新開監督のサスペンス映画にキャスティングされている。
役柄としては、敦賀さんが『健太郎』という探偵役。紗弥香さんは旧家のお嬢様役。健太郎が素っ気ないお嬢様に一方的に言い寄り、甘い言葉を囁き、まとわりつき、最終的には口説き落とすという、世の女性であれば身震いして喜ぶようなシチュエーションなのだけど。…ある意味、普通の人がやったら単なるストーカーになっちゃうとも、思うんだけど。

紗弥香さんは公言しているほどの敦賀さんファンで、今回の共演をすごく喜んでいたらしい。そして、それが演技にまで反映されてしまって。つまりは、口説いてくる敦賀さんに対して、「素っ気ない演技」ができない、という問題が発生してしまった。

何回リテイクを繰り返しても新開監督が納得のいくシーンが撮れなくて、業を煮やした監督が、本番中以外でも敦賀さんと一緒にいるときは役に入って過ごすことを紗弥香さんに要求したらしい。当然、敦賀さんにも。口説かれるのが日常的になれば、その内慣れるだろう、という、なんだか若干投げやりな感じの要求。
いえいえ、別に新開監督のことを非難してるわけじゃなくて!なにせ瑠璃ちゃんのやる気を引き出した人だし!!
…ふぅ。

このへんのことは、初めて役に入ったままの二人を見かけたときに、青い顔した社さんから懸命な説明を受けていた。

初めて見たときは、なぜか冷たい氷を背中に突っ込まれたような衝撃を受けた。
敦賀さんが紗弥香さんに向ける笑顔は、DARK MOONのときに嘉月が美月に見せたあの神々スマイルだったし、それを受けた紗弥香さんも頬を染めて嬉しそうに笑っていたから。
ああ、敦賀さんは大事な人を作る決心をしたんだ、て思って。
でもなぜか、話しかけることも、傍に寄ることもできなくて、しばらく立ちつくしてしまって、我に返ってその場を離れようとして社さんに捕まったんだっけ。

「でもねぇ。効果が出ればまだいいんだけど、2週間たってもあんまり変わってないみたいでさぁ。いや、俺も演技のことについて何か蓮に言える訳でもないんだけど。」
社さんはちょっと渋い顔をしている。

「元々敦賀さんのファンだっておっしゃってましたよね、紗弥香さんて。あの敦賀さんに口説かれて、心底嫌そうな顔するのって演技とはいえ難しいんじゃないでしょうか。」
「演技派女優、という売り込みなんだから、そろそろ何とかしてほしいんだけどね。俺の胃がもたないよ…」

なぜ、社さんの胃に関係が?
?マークが顔に出てしまったらしい。社さんが説明をしてくれた。

「偶然なのか、映画の撮影以外での共演がいくつかあったり、たまたま局で会ったり。蓮がまた律儀にその都度『健太郎』になりきるもんだから、妙な噂になりかけたりしてさ…」
まだ映画の宣伝が本格的に始まる時期じゃないからさ、言い訳も大変で、と社さんは胃のあたりをさすってる。
「だけど本当に蓮は役としてああなってるだけだからさ。キョーコちゃんは誤解しないでね?」
「誤解って、お二人が付き合ってるんじゃないか、とかですか?」
「うん…。事情を知らないで傍から見てるとそう見えちゃうしね。だけど、蓮は別に何とも思ってないから!!」
「お二人、美男美女でお似合いですからねぇ…。付き合っていてもおかしくないと思えますし」
はぁ~~~~~~、と社さんに深いため息をつかれてしまった。

収録が始まるので社さんに挨拶をしてセットに向かう。
割り当てられた席に座ると、階段状に並べられたゲスト席の離れたところに並んで座る二人が見えた。

本当に、紗弥香さん、嬉しそうだな。
もしかして、敦賀さんにああいう態度をずっと取って欲しくて、わざと演技でつまずいて見せてるとか?
黒いどろどろとした醜い考えがめぐる。

何言ってるのよ!自分だって演技指導をしてもらって、プライベートの時間まで割いてもらってるじゃない。
じぶんだけとくべつ なんて、思いあがってるんじゃないの?
もう一人の自分が、慌てて考えを否定する。

番組の撮影中、ぐるぐると考えが巡ってしまって、集中するのがものすごく大変だった。

はぁ…ゲストが多いトーク番組で助かったわ…
ぐったりと疲労を感じてセットを後にする。敦賀さんと紗弥香さん、社さんには一言挨拶をするだけで、逃げるように出てきてしまった。
いつの間にか、敦賀さんの近くにいることを当たり前だと思っていた愚かな自分に、腹が立つ。
ただの後輩のくせに、ただの後輩以上に良くしてもらってるくせに、これ以上何を求めるというの。
しかも、単に演技指導の一環じゃないのよ。

とぼとぼと控室に向かって歩きながら、また撮影中と同じようなことをぐるぐると考える。

でもいつかは。

いつかは、敦賀さんが大事な人を作って。

敦賀さんの横に、その人がいつも立っていて。

敦賀さんが、その人に、その人にしか見せない笑顔を向けて。

そうなった時、私は後輩として、よかった、て思えるのかしら?


ああ、まただ。
考えようとすると、ずきずきと胸が痛くなる。
どうしてだろう。こんな思い、もう捨ててしまいたい。
求めるだけ無駄なのに、なんでこんな馬鹿な思いをまた抱いてしまったんだろう。

箱に鍵をかけるんじゃなくて、箱ごと、捨ててしまえたらよかったのに---。

でももう、気が付いてしまった。この、思いに。
ため息をひとつついて、ああまたマリアちゃんに怒られるな、と自嘲しながら、私は控室のドアを開けた。

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Re: おはようございます

> 瑞穂様

コメントたくさん、ありがとうございます!
やっぱり眉毛も染めるんでしょうねー。回想シーンの久遠の眉毛って金髪みたいだし。
そんなことでまじまじと見ている自分もアホっぽいですが。
金髪の人ってまつ毛の色は?とか、ほんとにくだらない悩み方をしております…

> 『自覚』を読んで、社さんの胃が痛くなってるようですけど、きっと蓮も内心はやきもきしてるでしょうね。

このあたりも書きたくて、Side Ren を近日UP予定です。
が、なんでだか、書いてるうちに思ったのと違う方向に行くんですよね。難しいです。
瑞穂さまのように甘い雰囲気、出せるようになりたい…!

> ところで、昨夜はお友達に、新しいスキビサイト様発見したんですよ」ってお話してきました。
> みなさんご存知なかったそうで、新しいスキビサイト様のニュースを喜んでくださいました。

きゃぁ~~。ありがとうございます。
まだ始めたばかりだし、拙い文章だし、こっそりひっそりとアップを頑張っていたのですが、お話していただいて嬉しいです。
精進いたしますので、よろしくお願いいたします<(_ _)>

ぞうはな | URL | 2012/09/01 (Sat) 23:05 [編集]