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おしえてくれたこと (10)

こんばんは!
昨日の地震には驚きました。
東北地方の方々、大丈夫だったでしょうか。

うちの方(南関東)では揺れている時間は長かったのですが、揺れ自体は小さく、被害は全くありませんでした。
自然災害は怖いですね… 出来る備えだけはしっかりしておきたいものです。

さて、今日の更新です。次で、終わります!





LME高等学校1学期の期末試験最終日。

午前中で全教科の試験が終わったため、生徒たちは晴れ晴れとした顔で下校していく。

尚は、所属している軽音楽部の部室に顔を出してから、帰宅のため一人で校門へと向かっていた。カバンを肩に担いで気だるげに歩いていると、前方に見慣れた姿勢のいい後ろ姿が見えることに気づく。

あれ…キョーコじゃねえのか…

尚はテスト終了後しばらく部室で時間を潰してから学校を出ている。キョーコはなぜこんな時間まで残っていたのか、尚は疑問に思った。
ここのところ、尚に対してキョーコからの接触は一切ない。弁当を作ってくるどころか目が合うことすらない。期末テストの前に範囲予想を頼もうと思ったのに、あっさりと強気で断ってきたキョーコに対して尚は不満を抱いていた。ちょっと前までは頼みもしなくても自分の世話をあれこれと焼いていたのに。尚は自分が「女として見ていない」と相手のことを突っぱねたことなど忘れたかのようにキョーコの態度の変わりようを面白くないと感じていた。
それに加えて、女子の間で広がっている変な噂がある。

あんなぱっとしない女を、他の男が相手にする訳ねーっつの。大したことない男か、騙されて遊ばれてるかのどっちかだろ。

そう思いながらも、もしかしたら今日、噂の真実が分かるかもしれないと考え、尚はキョーコとの距離を一定に保ってまるで尾行をするかのように駅までの道のりを進んで行った。

駅に着くと、キョーコはそのまま改札を抜け、ホームへと進んでいく。ホームに着くと、キョーコはそこに立っていた男を見つけ、小走りで駆けよった。キョーコは後ろ姿でその表情は分からないが、男の方は柔らかい笑顔でキョーコを迎えた。

その男が女子たちが噂していた当の本人だということは、尚にもすぐ分かった。飛びぬけて高い身長に、長い脚。顔は遠目に見ても整っていてなおかつ男らしい。その、誰から見てもトップレベルの男が、キョーコに向かって慈しむような目で笑いかけている。

尚は躊躇せずに二人の元に向かって近づいた。
男の方はちらりとこちらに目線をくれたため、おそらく尚を認識したはずだ。キョーコの方は完全に背中を向けているので、まだ気がついてはいない。尚はキョーコの背中に向かって声をかけた。

「おい、キョーコ!」
キョーコは振り返り、不思議そうに返事をした。
「ショーちゃん!まだ帰ってなかったの?」

俺にそんなこと聞いてる場合か!

尚はイライラしながらじろりと男を睨みつけた。
「そんなことはどーでもいいんだよ。あんた、キョーコの何なんだ?」
「ちょっとショーちゃん!いきなりそれは、失礼だよ!」
尚は男の方に話しかけたつもりだったのに、キョーコがその物言いに口をはさんでくる。男の方はと言えば、うっすらと笑みを浮かべたまま静かに尚の方を見ていた。

「お前に言ってねえんだよ。あんただ、あんた。学校で変な噂が立ってんだよ」
「噂?」
ようやく男が口を開く。
「ああ。駅のホームでキョーコと男が乳繰り合ってるってな」
男は笑いながら首をかしげた。
「おかしいなあ。ホームでは、そういうことしてないはずだけど?」

暗に別の場所ではしています、と言わんばかりの言い方に、キョーコが真っ赤になって反論した。
「蓮さん!何言ってるんですか。どこでもそんなことしてませんってば!」
「…だってキョーコが恥ずかしがるから」
「だから!そういう話を…!」

「キョーコ。そいつ、何なんだよ」
いらいらした様子で二人の会話に尚が割り込む。
「何って…えっと…」
少し恥ずかしそうに言葉を濁したキョーコの後を引き継いで、蓮が尚の質問に答えた。
「何って、キョーコの恋人だけど?」
言いながら、さりげなくキョーコの腰に腕をまわして自分の方に引き寄せる。嫌がりもせずされるがまま、いやむしろ頬を赤らめて恥ずかしげにしているあたり、キョーコにもその回答に異論はないようだ。

「え………はぁ?」
咄嗟に言葉が出ず、尚は間抜けに聞き返すしかなかった。ここは、男の方に話をしても仕方がない。尚が聞きたいのはどっちかといえばキョーコの気持ちの方だった。
「キョーコ!その男がお前の恋人ってほんとか?」

蓮は柔らかい笑みをたたえて静かにキョーコを見下ろす。キョーコは恥ずかしげに顔を赤くしたまま、一度蓮と目を合わせると小さく頷き、それから尚に目線を移してぽそぽそと答えた。
「えと…恋人っていうか…蓮さんは私の事好きって言ってくれて…私も、蓮さんの事好きだなって思って……」

そーゆーのは普通に付き合ってるって言うか、恋人ってことだろう!

尚は思わず叫びそうになったが、自分がキョーコにそれを認めさせることになりそうで、それは嫌だ!とすんでのところで言葉を飲み込んだ。そして、キョーコに一番ダメージを与えそうな言葉をあえて選ぶ。
「はっ。お前、そんな地味で色気のねー奴を男がわざわざ選ぶ訳ねーだろ。簡単に騙されてんじゃねーよ」

キョーコはぴくりと反応したが、もう一度蓮を見上げると ふっと笑顔になり、穏やかに答えた。
「ショーちゃん…私ね、騙されてたとしてもいいんだ。私ね、蓮さんに初めて教えてもらったの」
「何をだ?」
自分の言葉に全く動揺しないキョーコに驚きながらも、平静を装って尚は聞き返す。
「人を好きになって、その気持ちに応えてもらえることって、すごく嬉しいことなんだね。私、ショーちゃんをただ追いかけていた時って、自分がしてあげたいことを押しつけてばっかりだった気がするの」
尚は無言でキョーコの言葉を聞いていた。キョーコは尚の様子を気にする風でもなく、嬉しそうに続ける。
「私が一方的にショーちゃんの事好きだっただけだからしょうがないんだけど。蓮さんといると、笑いかけてもらえると、すごく幸せな気持ちになれるの。恋って、相手の事好きな気持ちで終わりじゃないんだね。お互いに気持ちが通じると、何倍も嬉しくて楽しいんだって初めて分かったの。蓮さんは、それを教えてくれたの」

尚はようやく声を出した。
「それは…俺に対する当てつけかよ」
「ううん!そんなつもりはないよ!ショーちゃんにも、謝ろうと思ってたんだけど、いきなり謝るのもおかしいかなと思って…。今まで、ショーちゃんが嫌がってたのかもしれないのに、色々押し付けちゃってごめんなさい。ショーちゃんも、一方的に好きでもない人に何かされても嬉しくもなかったよね」
キョーコは本気で申し訳なさそうな顔をしている。

こいつ……本気で言ってやがるのか?

尚は確かにキョーコの事を振ったのだが、振ったことでキョーコの気持ちが自分から離れるとは思ってもみなかった。一般的に考えればそれは普通の事なのだが、物心ついた頃から自分の事を好きなキョーコしか見たことがなかったのだ。想像ができない、というのが正直なところだった。

「でもキョーコ」
呆然としている尚を気にせず、蓮がキョーコに話しかけた。
「騙されてもいいって言うけど…俺、キョーコの事騙してなんてないんだけど、信じてもらえないの?」
「いえ!あのそれは、たとえ騙されてても、という仮定の話で…」
「仮定でもなんでも、あり得ないんだから止めてほしいな…ちょっとでもそう思われてるって考えたら、悲しいよ」
「ご、ごめんなさい…!そんなつもりもなくて…」
「うん。本当に、俺、キョーコの事しか見てないから。…でも、キョーコが俺といるだけで幸せって思ってもらえて、俺も幸せだな」
「もう…蓮さんはいつもそういうこと言い過ぎなんです」
「キョーコが言ってくれない分、俺が言うんだよ。バランス取れてるだろ?」

黙って立っている尚の存在を軽く無視して、二人の甘い会話が続く。尚はとりあえずこの場から離れたい気分になっていた。キョーコのこんな顔、自分ではない男に向けるこんな顔など、見ていたくなかった。

「おっと。早く行かないと、時間がなくなっちゃうね」
蓮がホームの時計で時刻を確かめた。
「あっ!そうですね。試験日だと思ってのんびりしすぎました」
「いや、進路相談してたんだろう?それは仕方ないよ。さて、そろそろ行こうか」
「はい!えっと、ショーちゃんは電車逆方向だよね」

タイミング良く、電車接近のアナウンスが流れてきた。尚はじろりと二人を睨みつけると低い声ですごんだ。
「あんた、キョーコが高校生だって分かってて手ぇ出していいと思ってんのかよ」
蓮はやれやれとため息をついてあっさりそれを論破する。
「もちろん、キョーコが高校生だってことは知ってるよ。だから、正確に言うと、まだ手は出していない。これで、いいかな?」
「ぐっ。手ぇ出してないにしたって、あんた、大人のくせに、ロリコンか?」
「俺が幾つに見えてるか知らないけど、俺はまだ大学生なんだ。4歳差くらいだったらロリコンと言われるほどでもないと思うけど」

大学生?4つしか上じゃない?ありえねーだろ、その見た目!!大学生には見えねーぞ!

「ど、どこの大学だ?」
「K大学の4年生だよ」
尚もよく知っている名門大の名前を出され、尚はさらに打ちのめされる。付け入る隙が見つからない。攻めあぐねている間に、電車がホームに滑り込んできた。電車が停車し、ドアが開くと蓮とキョーコは乗り込んで行った。別れ際に、蓮の一言を残して。

「じゃあ、また。不破君。俺は敦賀蓮と言うんだ」

敦賀…?敦賀……?最近、どっかで聞かなかったか?

尚がその名前に思い当ったのは、尚が乗るはずの電車が2本行ってしまった後だった。


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