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おしえてくれたこと (7)


こんばんは!
本格的に、寒い~。

ちょっと今日は短めですが、更新です。





実習8日目。

LME高等学校での教育実習は2週目に入っていた。
生徒たちは実習生がいる授業風景に慣れ、授業中の緊張感もだいぶ和らいできている。実習生たちも最初のガチガチの状態から脱し、授業をスムーズに進められるようになってきていた。それでもまだ説明が飛んでしまったり不手際も多いのだが、親しくなった分、生徒からのフォローもあったりして、お互いにやりやすい雰囲気となってきていた。

そんな中、琴南奏江は親友の状態に首をかしげていた。
休み明け、昨日も今日も、キョーコはぼんやりと何かを考え込んでいることが多いような気がする。いきなり眉間にしわを寄せたかと思えば、悲しそうな顔になってみたり、見ていると飽きないのだが、一体なにを思い悩んでいるんだろうか。

すると、奏江の見ている前で、キョーコは廊下の方に目をやったかと思うとあっと目を見開き、すぐに目線をそこから外してあさっての方向を見た。やがてそろそろと視線を戻して、今度はがっくりと落胆する。
奏江はとうとう我慢の限界を超えた。

「ちょっとキョーコ!」
「わあああっ!!」
「きゃっ!」

ずびし。
キョーコがびっくりして上げた大声に奏江がびっくりさせられ、思わずキョーコの脳天に手刀を食らわしてしまった。
「…あ、ごめん、つい。…っていうか、もー、さっきから何なのよあんた!」
「ついって…痛かったよモー子さん」
あんたが大声出すからよ、と遮られ、再び奏江から同じ質問が繰り出される。
「何って、何もしてないけど…」
「ふぅん…あんた自分がどれだけ挙動不審か分かってないのね」
「えええっ?そんなに私おかしい?」
「おかしい?じゃないわよ!百面相はすごいし、今なんてどうして廊下見ただけでバタバタするのよ!動きがカサカサし過ぎてリスかネズミを見てるみたいよ!」

リス…

キョーコの顔がぶわわわわ、と赤くなった。奏江は怪訝そうに目を細めると、どかりとキョーコの後ろの席に腰を下ろす。
「吐きなさい」
「え?」
「その挙動不審の理由を、全部吐き出しなさい。さもないと…」
伝家の宝刀の「親友辞めるわよ」宣言が出る前に、キョーコは白旗をあげたのだった。

その日の放課後。
人がいるところでは話せない、というキョーコを引きずり、奏江は最寄り駅の反対側の出口そばにあるファーストフード店に来ていた。学校の生徒はあまり来ない店のため、ここでなら話しやすいだろう、という奏江なりの配慮の結果だ。

奏江は席に着くなりキョーコを問いただした。キョーコの様子がおかしくなったのは休み明けの昨日から。奏江もキョーコが蓮と一緒に出かけたことだけは聞いていた。敦賀先生は元気つけるために誘ってくれただけ、と昨日は言っていたはずだ。二人で動物を見て、下宿先のそばまで送ってもらって別れた、と。
なのになぜ、段々とキョーコの挙動不審に輪がかかっているのか?奏江は納得がいっていなかった。

奏江おごりのジュースにストローを挿しながら、キョーコは渋々口を開いたのだが。

「…モー子さん……私、日曜日、本当に楽しかったの」
「…それは……まあ、悪いことじゃないんじゃないの?」
奏江は少し返答に困った。楽しかったことを否定するのも何だし、よかったじゃない!と手放しで喜べもしない。
「うん…でね、つい比較しちゃったんだ」
「待って。それは、敦賀先生と、不破を、てことね?」

キョーコは無言でこくりと頷いた。
まだキョーコの気持ちが尚に多少なりと残っていることは、奏江も分かっている。その状態で他の男と1対1で会うこと自体、キョーコとしてはすごいことのような気がするが、当然、比べてしまうのは仕方がないだろう。
「で、どうだったの?比べてみて」
「わかんなく…なっちゃったの」

「何が?」とすかさず奏江は聞いた。キョーコは眉間にしわを寄せて考えている。
ああ、ここで悩んでいたのが挙動不審の根本かしら?と、奏江は一歩核心に近づいた手ごたえを感じた。

「あのね…私、先生といろんな話をしたんだけど…もうそれ自体、ショーちゃんとは、ありえないなって」
「なんで」
「だってショーちゃん、私の話を聞いてくれたりしないもん」
「……」
「電車に乗る時にさりげなく後ろから支えてくれたりしないし、話してる時顔を見て笑ってくれたりもしないし、ご飯食べるときに私の好みを聞いたりもしてくれない…と、思う」
「何よ、不破は男として全敗じゃないの?」
「でも!」
キョーコは大きな声で奏江を遮った。
「それでも、何もしてくれなくても、ショーちゃんはそこにいてくれるだけでいいって…思ってたの。私がショーちゃんの望むことをしてあげて、それで喜んでくれたらいいって思ってたの」
「…そうね……私から見ても、あんたとあいつの関係はそんな感じだと思うわ」
ここでキョーコは考え込むような顔をした。

「でもなんでだろう…敦賀先生と一緒にいるときは、こっちを見て笑ってくれるのが嬉しいの。なんだか、温かい気持ちになるの。でも、昨日と今日、学校でちらっと姿を見かけると、何か苦しくなるの」
「苦しいって…?」
「…それが、よくわかんないの…ショーちゃん見てそんな気持ちになったことなかったのに…」

奏江はキョーコにばれないよう、心の中で驚愕した。

敦賀先生、恐ろしい男だわ!
この、物心ついた頃からひたすらにバカみたいに一人の男しか見ていなかったキョーコを、思いっきり自分の方に振り向かせてるし!どうなるのよ、ほんとにこの子の事励ましてそれで終わりで今週いっぱいでさよならなの?ふざけんじゃないわよ!

「キョーコ!」
「なに?」
「敦賀先生と遊びに行って、次の約束とか、したの?」
「いや…あの、いつって決めた訳じゃないけど……学校にばれるのもまずいから、次は実習が終わってからって」
「次も行こうって言ったのね」
「うん…」
キョーコは蓮の笑顔を思いだしてなんとなく赤面する。
奏江はその恥ずかしげな顔を見ながら、ひとつの決意を固めたのだった。



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